読切(脚本)
〇学校脇の道
男の子「ううっ・・・」
奏大「おい、大丈夫か!?」
小さい子が道路脇でうずくまり泣いていた
男の子「帰りたい ママ──」
奏大「大丈夫だよ 一緒にママ探そうな」
振り向くと
顔から上半身にかけて
大きな怪我をしている
奏大「おい!! 先に病院行くぞ!!」
奏大「うわっ!!」
あっという間に
少年が光に飲み込まれた
奏大「またかよ・・・ あの子 幽霊だったのか」
それが見え始めたのは
一年前くらいからだ
奏大「勘弁してくれよ・・・ 一体、俺に・・・何して欲しいっていうんだ」
最近わかったことがある
あの光は
霊を見つけると
どこかへ連れて行く
〇炎
悪霊は焼かれてしまう
〇渋谷のスクランブル交差点
奏大「あの光を見るたびに 心臓が縮むんだよな・・・」
奏大「あっ!! あの子だ!!」
いつもこの時間
この交差点で本を読んでいる女の子だ
奏大(おおっ、あの本 俺の好きな作家さんじゃん♪)
奏大(おーい、渡らないのか? もう青だぞ)
夢中で読んでいる横顔を
思わずじっと見てしまう・・・
奏大(あのページだと、主人公の彼方と女の子がデートするシーンかな・・・)
奏大(くっそ話しかけたいっ!!!! あっ!!)
クローバーの栞がとんだ
さなえ「待って!!」
奏大「待てって!!」
風が俺とは反対の方に吹いたせいで
彼女は栞を追いかけて行ってしまった
奏大「風のせいで また話しかけらんなかったじゃねぇかよ」
奏大「マジ、チキンだな・・・俺 ちゃんと話しかけりゃいいのに」
いつも遠くから見てるだけしかできない
〇見晴らしのいい公園
奏大「今日、こんなんで来るかな アイツ・・・ 早くやまねぇかな・・・」
奏大「よっし!! 今日こそは 話しかけるぞ!!」
奏大「っていってもな・・・ どうやって話しかけりゃ・・・」
奏大「はあぁぁ・・・ ああ、くそっ!!」
俺は頭をかきむしった
奏大「よし、晴れたら話しかけよう 雨、やみましたねっ⭐︎」
奏大「うぇ・・・ キモい、俺」
奏大「何かこうスマートに・・・」
奏大「その本、お好きなんですね」
奏大「だめだ・・・ はあぁ・・・」
奏大「・・・・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
さなえ「あ、止みそう よかった 本、濡れないですむっ♪」
ヤンキー「なあなあ 1人?」
さなえ「違います」
ヤンキー「いつもここで誰待ってんの? こっち、来いよ」
さなえ「手放してください!! やめて!!」
本が彼女の手から滑り落ちた
奏大「おい!! 何やってんだ!!」
〇空
「うわあああっ!!」
ヤツは宙に浮いていた
あの子に投げ飛ばされていた
綺麗な一本背負いだ
〇渋谷のスクランブル交差点
さなえ「もう!! びっくりした」
奏大「お前、すげーな アイツ、腰抜かしながら必死で逃げてったぜ」
さなえ「さなえです」
奏大「俺、奏大」
さなえ「聞いてません!!」
奏大「空手やってんの?」
さなえ「家、空手道場だから」
奏大「へえ、そうなんだ 俺んとこもだ」
奏大(なんだ、俺、ちゃんと話せてるじゃん)
さなえ「ごめんなさい、ちょっと失礼します」
すると、彼女は屈んで落ちた本を拾った
奏大「それ、好きなのか? いつも同じ本読んでるよな?」
さなえ「え!?」
奏大(や、やべぇ 引かれた・・・)
さなえ「私の大切な人が好きな本なんです」
奏大「・・・そっか 羨ましいな、ソイツが」
さなえ「えっ?」
奏大「いや、なんでもない」
女の子「ここどこ? どこなの?」
奏大(どうしたんだ・・・?)
女の子が近づいてきた
ちらっと横を見ると
さなえは女の子に気づいていなかった
女の子「待ち合わせ遅れちゃう どうしたらいい?」
奏大「どこ?待ち合わせ」
さなえ「待ち合わせ?」
女の子「公園 ・・・公園で弟と待ち合わせしてるの!!」
同時に話され 戸惑うしかなかった
奏大「くそっ、またか・・・」
さなえ「どうかしました?」
奏大「何でもないさ じゃあ、な 気をつけて」
さなえ「あの光って何ですか?」
奏大「見えてんのか?」
さなえ「女の子、消えましたよね?」
〇幻想空間
奏大(見えてたのか!! さなえちゃん マジ、神かよ──!!)
嬉しすぎだ
さなえ「1年前から見えてたんですか!? 私は、たった今です」
奏大「俺たち、仲間だな!!」
さなえ「仲間・・・」
奏大「連絡先、交換しない?」
さなえ「ええ!?」
〇渋谷のスクランブル交差点
さなえ「ええっと・・・」
彼女が取り出したスマホ画面は
バキバキに割れていた
奏大(なんだあれ!?)
さなえ「違う、これじゃなくて・・・」
奏大(だよな・・・ 焦った)
だが、取り出すもの
全てが壊れていた
奏大(もしかして・・・ さなえちゃんは・・・)
奏大「いつも同じとこにいるけど キミ・・・幽霊?」
さなえ「・・・・・・」
探す手が止まった
〇モヤモヤ
さなえ「ねえ、本当にわからないの?」
奏大「な、何が!?」
さなえ「あたしのこと!!」
奏大「さなえちゃん?」
さなえ「違うよ!! いっつも、こバカにして 『タナ、おーいタナ』って呼んでたでしょ」
奏大「なんだよ、それ・・・」
さなえ「私のおやつは勝手に食べるし すぐ後ろから抱きついてくるし 一緒に練習しても全然勝たせてくれないし」
奏大「ごめん、何のこと?」
〇渋谷のスクランブル交差点
さなえ「思い出してよ!! お兄ちゃん!!」
〇水たまり
奏大「兄ちゃん!?」
その時だ──
懐かしい温かい何かが流れてきた
奏大「タナ・・・? そうだ、タナだ」
奏大「舌足らずの可愛い妹 ん? 何で、俺忘れてたんだ?」
〇渋谷のスクランブル交差点
さなえ「ごめんね ごめん お兄ちゃん 全部あたしのせい」
奏大「・・・」
さなえ「あの日 ケンカしてお兄ちゃんが出て行った時 謝ろうと追いかけたの」
〇水たまり
そうだ ケンカ・・・
思いだせないくらい些細なことだ
〇渋谷のスクランブル交差点
さなえ「ケンカしなければ お兄ちゃんは、ここで死ななかった!!」
奏大「そっか、俺、死んでたのか」
さなえ「私だったらよかったのに!!」
そっとタナを抱きしめた
奏大「俺で良かったよ タナ、今日まで苦しかったろ?」
さなえ「お兄ちゃん・・・」
奏大「許せ、タナ 俺の可愛いタナ・・・」
さなえ「お兄ちゃん・・・ごめんなさい」
奏大「思い出せてよかった タナ、ありがとう いいか、もう気にすんなよ!!」
さなえ「お兄ちゃん!!」
〇雲の上
奏大「うっし!! 俺は消えたわけじゃない 泣くな、俺はこっちで頑張るさ!!」
奏大「またな!!」
恋のはじまりを予感させるような出会いから、驚きの展開続きで楽しませてもらいました。切なくもハートフルなステキな内容でした。
実家が空手道場なのもふたり一緒で、すごい偶然だなぁ、運命を感じるんだよなぁと恋愛のはじまりと思って読み進めていたので、その後の展開に驚きました。また、彼を幽霊が見える人と思い込んでいたので、彼のほうが幽霊であったことも予想外の展開でした。
さなえさんが現れてから、恋愛ものかと思っていたので、展開に驚きました。奏大さんの方が幽霊だったのですね。舌足らずな呼び名がいかにも生まれた時から一緒に育ってきた兄妹らしくて、微笑ましく思うと同時に悲しくなりました。さなえさんの後悔も奏大さんの優しさも、どちらも私の中にもあるものでよく分かります。忘れていた大切なものを思い出させてくれるような作品でした。