エピソード1(脚本)
〇女の子の一人部屋
「懐かしいな」
部屋を片付けていたはずが、クローゼットの奥から発見された卒業アルバムにすっかり夢中になっていた。
生徒一人一人の写真。文化祭や体育祭、修学旅行といった行事の写真。
そして、後の方の数ページはクラスメイトや部活、委員会で知り合った子からの手書きのメッセージでびっしり埋まっている。
「(今でも連絡をとってる子は二、三人程度いるけれど、他の子は今どうしているのかわからないんだよね)」
「(みんな元気にしてるかな)」
ページをめくる。
見開き真っ白なページの左端に、ちょこっと控えめになにか書かれている。
特別なページ。
自分の気持ちを文章にするのは苦手と笑った彼が私のために書いてくれたものだ。
〇教室
卒業式の後。
文華「写真たくさん撮ったね〜」
「うん」
文華「卒アルのメッセージもページが埋まるくらい書いてもらっちゃった」
文華「そういえば、早見くんに書いてもらわなくて良かったの?」
「え、なんで早見くん?」
文華「だって、早見くんのこと好きでしょ?」
文華「書いてもらいなよ」
「好きとかそういうのじゃないって」
文華「ほんとかな〜?」
「ほんと!」
「それにさっき女子に囲まれてたの見たでしょ? 絶対捕まらないよ」
「・・・・・・」
「(本当は卒アルに何か書いてもらいたいけど)」
「(早見くんと関わりがあったことをこれから先も思い出せるようななにかが欲しい)」
文華「え〜、連絡するだけしてみたら?」
「・・・・・・」
「連絡してみようかな」
文華「ほら、やっぱり好きなんだ」
「だから、違うって」
「『まだ学校にいる?』」
〇教室
「(まだ既読ついてないな)」
「(もう諦めよう)」
「文華ちゃん、もう帰ろ──」
ピコン。
文華「早見くんじゃない?」
「そうかも」
智彦『もう帰っちゃった』
智彦『なにかあった?』
「(もう帰っちゃったか)」
「『大したことじゃないから大丈夫』」
「『ごめんね』」
すぐに既読がつく。
智彦『行くよ』
智彦『学校にいるの?』
「え!?」
「『うん』」
智彦『じゃあ、学校の近くで待ち合わせしよう』
〇レトロ喫茶
「ごめん! 待ったよね」
早見智彦「ううん、今来たところだよ」
「学校の近くまで来てもらっちゃってごめんね」
早見智彦「俺が行くって言ったんだから、気にしないで」
早見智彦「それに、ここから家近いんだ」
「そうだったんだ」
「学校の近くにこんなところがあったんだね」
「三年も通ってたのに知らなかった」
「早見くんはこのお店よく来るの?」
早見智彦「今日初めて来たよ」
早見智彦「よくお店の前は通るんだけどね」
早見智彦「こういう雰囲気のお店好きそうだなって。いつか教えてあげようと思ってたんだ」
「え、私に?」
早見智彦「うん」
「と、とりあえず何か頼もう!」
〇レトロ喫茶
「それで用事っていうのはね」
「卒アルに何か書いてもらいたくて」
「書いてもらえるかな?」
早見智彦「もちろん」
「このページにお願いします」
早見智彦「うん」
早見智彦「実は、自分の気持ちを文章にするのって少し苦手なんだ」
「そんな難しく考えなくて大丈夫だよ。書いてもらえるだけですごく嬉しいから!」
早見智彦「そう?」
「うん!」
早見智彦「俺も卒アル持ってくれば良かった」
「え?」
早見智彦「俺も書いて欲しいな」
「今、メモ帳ぐらいしか持ってないんだけど、それでも大丈夫かな?」
早見智彦「うん」
「(こうやって二人だけでお話しするのって初めてだな)」
「(デートみたい、なんて)」
「(早見くんにとって、私は大勢の中の一人だってわかってる)」
「(でも、今だけは、特別だって思っても良いよね)」
「(最後なんだから)」
「(いつか、忘れられてしまうんだから)」
「(でも──)」
「私今日のこと絶対忘れない!」
早見智彦「俺も今日のこと忘れないよ」
「早見くんは優しいよね」
早見智彦「そうかな?」
「そうだよ」
「今日ね、本当に嬉しかったんだ」
早見智彦「もしかして、俺が優しいから今日来たと思ってるの?」
「え、うん」
「(たかがクラスメイトのためにここまでしてくれるのが優しさじゃなかったらなんだって言うんだろう)」
早見智彦「俺は優しくないよ」
「え?」
早見智彦「ここに来たのは、きみに会いたいと思ったから」
早見智彦「優しいとかそういうのじゃない」
早見智彦「自分のためなんだ」
「・・・・・・」
早見智彦「それに、他の子に頼まれたら行かないと思う」
「え、と」
早見智彦「きみが特別ってこと」
「・・・・・・」
早見智彦「好きだよ」
「うそ・・・・・・」
早見智彦「嘘じゃないよ」
「本当?」
早見智彦「本当」
早見智彦「どうしたら信じてくれる?」
「そんなこと言われても──」
早見智彦「じゃあ、今ここで俺がきみにキスするのはどうかな?」
早見智彦「それなら信じてくれる?」
「え!?」
「ちょっと待って──」
早見智彦「待たない」
「信じます! 信じま──」
早見智彦「なんてね、冗談だよ」
「・・・・・・」
「(早見くんはやっぱり優しくないのかもしれない)」
〇レトロ喫茶
早見智彦「書けたよ」
「ありがとう」
アルバムを受け取る。
早見智彦「やっぱり文章書くの苦手だから、すごく短くなっちゃった」
『これからもよろしくね。 早見』
「(これからがあるって思ってもいいのかな)」
「すごく嬉しい!」
「私も急いで書くね!」
早見智彦「急がなくていいよ」
早見智彦「もう少し一緒にいたいから」
〇女の子の一人部屋
『これからもよろしくね。 早見』
メッセージのほとんどが『卒業しても』や『これからも』といった言葉で締めくくられているけれど、その大半は実現されていない。
早見智彦「ずいぶん懐かしいもの見てるね」
「ともひこくん」
「これ、ともひこくんが書いてくれたの。覚えてる?」
早見智彦「もちろん。きみがくれた返事も覚えてるよ」
数秒見つめ合うと、彼が目を細める。
早見智彦「これからもよろしくね」
「こちらこそ!」
彼の左手と私の右手が重なる。
彼の薬指には私とお揃いの銀色が輝いていた。
学校、卒業、寂しく感じるイベントですが、これからも宜しくって言葉はすごく嬉しいですよね!
特に憧れている人や好きな人に言われたら…嬉しすぎます!
とっても甘くせつない回想話に胸が温かくなりながらもずっとラストが気になっていたので、ダダ甘なハッピーエンドに顔がにやけてしまいました。
2人を結び付けた卒業アルバムの寄せ書きの言葉、こうして結ばれた後何年か経って読み返すのって、甘酸っぱい想いが甦ってきますね。SNSのメッセージではなし得ない、温かみが伝わりました。