読切(脚本)
〇女の子の一人部屋
ある夏の日。
私は、マッチングアプリで男を探していた。
「はあ、やっぱりいないな・・・」
「マッチングアプリやってる、って言ってたのにな・・・」
私は、スマホをベッドの上に放り投げた。
忘れられない男がいる。その男にまた会うために、アプリを使い始めたと言うのに。
わかっているのは、その男がマッチングアプリをしていて、「いつき」という名前で登録していること。
プロフィール欄に、「プロテインは俺の嫁」と記入してあることだけ。
その情報を頼りに、あらゆるマッチングアプリで検索しているが、一向に引っかからない。
友達にそれを話したら、「そんな筋肉バカな奴やめとけ」なんて言われたけれど。
1ヶ月前のあの日。運命を感じた私にとっては、彼のことを諦められずにはいなかった。
〇街中の公園
〜1ヶ月前〜
「ようし、今日も公園に遊びにきてる子供と鬼ごっこするゾ〜!」
「ねえ」
・・・えっ?今、誰か私に話しかけた・・・?
いつき「ちょっといいかな?聞きたいことがあるんだけど・・・」
・・・ふぉ、ふぉ、ふぉーーーーーーーう!!!
い、イケメンや!まごうことなきイケメンや!
なんやこれ、こんなイケメンこの世に存在するんか!?まさかここは2次元なんか!?
※2次元です。
「はっ、はい、ななななんでしょうっ!?」
いつき「ここの近くに「はちこう」っていうのがあるらしいんだけど、見当たらなくて・・・。どこにあるか知らない?」
いつき「実は人と待ち合わせしてて。はちこう前に集合、って言われたんだけど。はちこう、はち高、高校のことかな?って思うんだけど」
「・・・あ、あの、ハチ公は学校じゃないです」
「銅像ですよ。渋谷にある・・・」
いつき「えっ、渋谷!?本当!?」
いつき「秋田県にあるのかと思ってここまで来ちゃったよ!」
「ま、まあ、秋田犬らしいですからね、ハチ公って・・・」
いつき「教えてくれてありがとう。なんとか行ってみるよ」
「た、大変ですね。人と待ち合わせしてるんでしたっけ」
いつき「そう。マッチングアプリで会った子とね。俺、筋トレが好きな子をアプリで探してたんだけど」
いつき「プロフィール欄に、「プロテインは私の旦那」って書いてる子がいたんだよ!」
いつき「俺は自分のプロフィール欄に「プロテインは俺の嫁」って書いてたから、なんか、運命感じちゃって」
いつき「それで、せっかくだから会いましょう、って話になったんだよね!」
・・・・・・・・・・・・。
「その子、実は私のことです」
※ウソ
いつき「・・・えっ?」
「あなたが今日会おうとしていた女性は、私なんです」
※大ウソ
いつき「ええっ!」
いつき「で、でも、はちこうっていうのは東京にあるんじゃあ・・・」
「確かに。大多数の人が思い浮かべるハチ公は、東京にあります。
でも、ここにもあるんですよ」
「ここの公園。蜂公・・・蜂公園っていうんです。なので、本当のあなたの待ち合わせ場所は、ここで合ってたんですよ!」
いつき「そ、そうなの?看板にはでっかく「わんぱく公園」って書いてあるけど・・・」
「蜂がたくさん出るので、地元の人は蜂公って呼んでるんですよ」
いつき「そんな公園誰も遊びに来ないでしょ・・・蜂の巣駆除した方が良いよ・・・」
「ささ、私とデートしましょー!一緒に鬼ごっこしましょー!」
いつき「うーん、なんか違和感があるような・・・」
〇女の子の一人部屋
・・・その後。私はいつきくんとデートを楽しんだ。
プロテインの知識はおろか、飲んだことすらないので、筋肉の話になったら「プロテイン最高ー!」って叫んで乗り切った。
彼もそんな私を見て、微笑んでいたのに・・・楽しそうにしてたのに・・・。
※苦笑いしていただけです。
心残りがあるとすれば、LINE交換しようとしたら、「アプリがあるから良いじゃん」って言われてしまったこと。
「はあ、久々にキュンキュンした出来事があったっていうのに。一期一会で終わっちゃうなんて嫌だよォ・・・」
〇男の子の一人部屋
一方その頃。
いつき「・・・よし。やっと大学のレポート終わった」
いつき「この後は筋トレして、お風呂入ろうかな」
ピロン♪
いつき「・・・お、紗香ちゃんからLINEだ」
いつき「今日はプロテインを箱買いしました、か・・・。ふふっ、相変わらずプロテインが好きなんだなあ」
いつき「この前デートの約束した時は、「ハチ公前集合って言ったじゃん!なんで来なかったの!」なんて怒られちゃったけど・・・」
いつき「事情を話して、なんとか許してもらえて良かった」
いつき「やっぱり、1ヶ月前にあの公園で会った女はニセモノだったんだな・・・」
いつき「押しが強すぎて正直怖かった・・・」
いつき「その子はその日何度も「今日は運命の日ですね、キュンキュンしちゃう」なんて言ってたけれど」
いつき「あと、「知ってました?犬って、キャンキャンじゃなくて実はキュンキュンって鳴くんですよ」とか訳のわからないこと言ってたし」
いつき「「鳥も、チュンチュンじゃなくて実際はキュンキュンって鳴くんですよ」とか言うし」
いつき「この世を少女漫画フィルターでも通して見ているのかな?」
いつき「・・・・・・。まあいいか。彼女のことは忘れよう」
いつき「俺はもうマッチングアプリやめたし、二度と会うこともないだろうからね」
いつき「さて、僕はこれから紗香ちゃんとキュンキュンLINEするぞー!!」
設定の作り込みがすごくて面白すぎですね。「プロテインは俺の嫁」から蜂公園から、何度も吹いてしまいました。嘘つきな彼女の狂気性も含めて楽しませてもらいました。
「蜂公園」での彼のツッコミが切れ味が良くて笑えました。笑
でも、なぜ秋田まで行くんですか!?笑
まあ彼は目当ての女性と無事出会えたみたいでよかったです。
最後のオチ、、彼女が知ったら発狂すること間違いなしの切ないオチですね。私は強引にいけないタイプなので、むしろこれくらい強引な女の子は潔くってかっこいいとまで思ってしまいます。