19:30分からの3分間

レモングラス

読切(脚本)

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〇レストランの個室
  とうとうプロポーズされる日がきたんだ。今日はいつもよりおめかししてきた。
間宮守「今日は奈美に重大な話があるんだ」
春日奈美「どうしたの改まって。顔が緊張してるよ」
間宮守「実は、その・・・・・・。言いにくいんだけど、黙っていても拉致があかないからさ、思い切っていうけど」
春日奈美「いいよ。思い切って言っちゃってよ。もったいぶらないでさ!」
間宮守「うん。実はさ、俺結婚することにしたんだよ」
春日奈美「することにした? それってもしかして・・・・・・」
間宮守「奈美と付き合ってた3年間とても楽しかったよ。 これからも友達でいてほしい」
春日奈美「ともだちって! 結婚って誰と?」
間宮守「奈美の知らない人なんだ。 実は一か月前に仕事先にきたアルバイトの女性でさ・・・・・・」
春日奈美「わかった。もうそれ以上は言わなくていい。とにかく、おめでとう」
  何も聞きたくなかった。
  自分がみじめでこの場から立ち去りたかった。
  会社でまかされていたプロジェクトも消えてなくなった。坂を転げ落ちていくようだった。

〇広い改札
  改札口を抜けると、誰でもピアノから曲が聞こえてきた。

〇ジャズバー
  駅に置いてある誰でもピアノ。いつも弾いている人なんていなかったのに。
  この曲・・・・・・。
  確か「バードランドの子守歌」

〇異世界のオフィスフロア
  仕事はミスだけはしないようにして、惰性で片付けていた。

〇駅のホーム
  一刻も早く、ピアノが聞きたかった。

〇ジャズバー
  今日はピアノを誰も弾いていなかった。
  一日だけの幻だったのだろうか?

〇大衆居酒屋
  無性に酒が飲みたい気分だった。

〇大衆居酒屋
  やけ酒、やけ食いをしていると、後ろで飲んでいた男性に声をかけられた。
八坂涼「おい、さっきから飲み過ぎだよ」
春日奈美「いいじゃない、私の自由でしょ」
八坂涼「昨日、俺のピアノ聞きにきてくれたでしょ。なんかさ、うれしかったんだよね」
春日奈美「え、あの、その、あれ。だって全く雰囲気違うし。ピアノ弾いてないし」
八坂涼「何言ってんの? ま、いいや。とにかく酔い覚まさないと話もできない。 外に出よう!」

〇桜並木(提灯あり)
春日奈美「桜きれい!」
八坂涼「酔い覚めたみたいだね」
春日奈美「桜みてたら泣きたくなってきた」
八坂涼「泣きたいならなけば。ていうかさ、俺も泣きたい気分なんだよな。 失恋はつらいよな!」
春日奈美「え?なんで知ってるの?」
八坂涼「自分でべらべら話してたよ」
春日奈美「そうか、大失態だ。 でもまあ、事実だから。それであなたのピアノに癒されたのも事実。 心が軽くなったっていうか」
八坂涼「最高級に心をこめて弾いてたからね。 想いが伝わって嬉しいよ」
春日奈美「その相手は私でないのはわかってる。 彼女?」
八坂涼「長すぎた春っていうやつ?あの日は彼女の誕生日だった。会う約束をしてたけど、彼女は現れなかった。 失恋したってわけさ」
春日奈美「彼女の好きな曲をバースデープレゼントにしたってわけ。あなたはピアノが何よりも得意なのね?」
八坂涼「そうだ。俺の唯一の特技だ」
春日奈美「でも、私の心にはしっかり届いていた。たった3分間の「バードランドの子守歌」だったけど、ずしんと響いた」
八坂涼「ねえ、お試し期間経てからでいいからさ、俺とつきあわない?」
春日奈美「ええ? だって今日初めて会ったばかりだよ」
八坂涼「わかってる。彼女とは10年つきあってたんだ。それでもわかりあえなかったよ。 君だって3年つきあってふられたんだろ」
春日奈美「そ、それはそうだけど」
八坂涼「年数なんて関係ないんだよ。一瞬で恋に落ちることもあるし、何十年つきあったってわからない恋愛もある」
春日奈美「そうだね。じゃさ、このあとホテル行って体の相性も確認してみる?」
八坂涼「結構大胆だね。俺はそこまで言ってないけど」
春日奈美「うーん半分冗談、半分本気かな」
八坂涼「答えはイエスでいいんだね」
春日奈美「イエス。イエスだけど、頼み聞いてもらっていい?」
八坂涼「いいよ」
春日奈美「「バードランドの子守歌」今度私のためだけに、一生分の心を込めて弾いてほしい」
八坂涼「ああ。3分だけじゃなく、長いバージョンで弾くよ。君だけのためにね」

コメント

  • バードランドの子守唄、私も好きです。音楽やその世界観ととってもフィットした素敵な物語で、読んでいて気持ちよくなりました。

  • 男女って本当にわからないものですよね。時間じゃなくて、直感的なもののが正しいことがあったり…。この2人が運命で繋がっていることを切に願います。

  • 悲しい時に聴くピアノの美しい音色は、心の琴線に触れたかのように染み渡りますよね。自分のためだけに奏でられる音色はきっと特別なものになるでしょうね。

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