茶屋で休んでいたら、素敵な出会いがありました?

竹六しじま

読切(脚本)

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竹六しじま

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〇城下町
新之助「お嬢さん、お隣いいかな?」
  声のした方を見ると、団子と茶を持った男性が立っている
新之助「ありがとう。 ふらりと立ち寄ったけれど、賑わっているね」
  ふわふわと揺れる髪、すらりとした体躯に
  着流しがよく似合う
  一目見ただけで上物とわかるそれを、
  見事に着こなすその人は、腰掛けるなり
  団子を美味しそうに頬張っている
新之助「ん?この団子が食べたいのかい?」
新之助「おや、違うのか。 熱い視線を送ってくれていたから そうなのかと思ったんだけど」
新之助「ふむ」
新之助「ここの甘味は美味しいね。  天気は良いし、日頃の憂いを忘れられる」
新之助「ここで出会ったのも何かの縁だ。  少し、私の話に付き合ってくれないか」
新之助「どうかな?」
  心臓が鳴る
  イタズラを企む子供のような、無邪気な顔で問いかけてくる彼の言葉に思わず頷いた

〇城下町
「こんにちは、お嬢さん」
  突然耳元で囁かれて、体が大きく跳ねる
新之助「びっくりした?」
  背後から現れて、
  そのまま隣に座った彼は、首を傾けてじっとこちらを見てくる
  その口元には笑みが浮かんでいて、
  明らかにこちらの反応を楽しんでいる
  初めてこの茶屋であった日から、
  数ヶ月が経とうとしていた
  決まって日曜日、自然と足がこの茶屋に向く
  口約束をしたわけでは無いが、
  逢瀬の時間となっていた
新之助「表情がくるくる変わって可愛いね」
新之助「ほら、また変わった」
新之助「今度は耳まで真っ赤だ」
  彼はこちらに手を伸ばして、頬を撫でる
  指先をゆっくりと動かして、耳に触れる
  突然の事に、緊張と動揺で身が固くなる
新之助「かわいい」
  愛しむような甘い視線に耐え切れず、
  ぎゅっと目を瞑る
新之助「それはキスしてもいいってこと?」
  驚いて目を開けると、彼は笑みを深くする
  頬に添えていた手を離すと、
  彼は返事を待つように、
  じっとこちらを見つめてくる
  イエスか、ノーか、
  関係が変わる予感がする
  躊躇いの末、
  彼の目を見つめてから静かに目を閉じる
新之助「いいね」
  それはまるで、
  舌舐めずりをするような声色だった
  彼が動く音が聞こえたかと思うと、
  再び頬に手が添えられた
  ──
新之助「悪い男に捕まっちゃったね」
  キスの後、彼の言葉が頭から離れなかった

〇屋敷の門
新之助「着いた、ここが俺の家」
  今日は初めて、
  彼の家にお邪魔する事になっていた
  が、
  足を止めた場所を見上げて唖然とする
  そんな事には目もくれず、
  門をくぐる彼に、慌ててついていく

〇広い玄関
じいや「おお、新之助様、帰られましたか  おかえりなさいませ」
じいや「おや?そちらの女性は?」
  玄関に入ると早々、
  燻銀と言った様子の老齢の男性が出てきた
  背後で縮こまっていると、すらりと腕が伸びてきて肩を抱かれる
  そのまま引き寄せられて、彼の隣に収まった
新之助「ただいま。彼女は俺の婚約者  皆んなにも紹介しようと思って連れてきた」
  何でも無いことのように告げた言葉に驚いて、彼を仰ぎ見るが、
  彼はにこりと笑いかけるだけだった
  燻銀の男性はとても驚いた様子で、
  彼に恭しく礼をすると、これは忙しくなるぞ、と言って慌ただしく去っていく
  呆気に取られていると、次々に人が集まってくる
  腰に回されていた手が離れ、両肩にぽんっと彼の手が置かれる
  背の高い彼は屈むようにして、
  背後から声を掛けてくる
新之助「だから言ったでしょ、」
新之助「悪い男に捕まったねって」
  囁くように言われたその言葉に、
  心臓が早鐘を打った

〇畳敷きの大広間
  パタンと襖を閉めるや否や、
  
  彼の腕に囚われる
新之助(以前より少し痩せてる)
新之助(俺の為に 琴に茶道、華道、書道他にも色々頑張ってるもんなあ)
  されるがままにされていると
   ふっ、と耳に息を吹きかけられた
新之助「ふふっ、はははっ」
  イタズラっ子のように笑う彼を
  ちょいと小突くと、意外だったのか、
  彼の動きが止まった
新之助「・・・」
新之助(彼女の優しさにつけ込んで、 半ば無理矢理に婚姻を結んだわけだけど、 彼女はどう思っているんだろうか)
  彼はただじっと、
  探るような視線を向けている
新之助(彼女が重圧に耐え切れずに逃げ出す前に、 俺が沢山愛してあげればいいか)
新之助(うん、そうだな 一生俺から離れられないようにしようか)
  視界が回り、
  気が付けば押し倒されていた
  手首をしっかりと掴まれていて、
  彼を押し返す事もできない
  その表情は、甘やかな笑みを湛えている
新之助「驚いた顔も可愛い、だから虐めたくなる」
  目は合わせたまま、空いていた右手で着物をすすすとなぞられる
新之助「ついこの間まで絹の着物に着られているようだったのに、すっかり馴染んだね」
新之助「薄く引いている紅も」
新之助「綺麗だよ」
  そう言って唇にキスを落とす
  ──
  まるで敵わない。
  身分も態度も、
  その存在の全てが。
新之助「これからもずっと俺のそばにいて」
  その恍惚とした笑みに
新之助「可愛い可愛い、俺の奥さん」
  この人からは、
  もう逃げられないことを悟る
新之助「沢山、愛してあげる」
  fin

コメント

  • 茶屋での二人の出会いからトントン拍子の展開にドクンキュンとなりました。彼の言葉遣いや佇まいが女性を虜にする素質を持っていることに、私はいつの間にか嫉妬していまいました。

  • 彼のセリフが熱を帯びてて、読んでてドキドキしました。
    口説き方がスマートかつ、優美でいいですね!
    乙女ゲーの感覚で読んでしまいました。

  • 何処にでもいる一人の女性が、恋という大きな波にゆっくりとのみこまれていくような雰囲気を感じました。人生は何処で方向転換するかわからないもので、とてもワクワクしますね。私もきっと飲み込まれたいです。

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