エピソード1(脚本)
〇幻想空間
私達が紡いだこの物語が
途切れないように
願う
〇コンビニのレジ
なつき「お会計、630円になりま・・・」
なつき「あっ!」
お客さんから受け取った小銭を落としてしまった。
なつき「あ、すいません、少々お待ちを・・・」
客「・・・チッ!」
なつき「申し訳ございませんでした、20円のお釣りになります(汗)」
客「・・・ったく、どんくさいんだよ」
なつき「あ、ありがとうございました・・・」
なつき(うう・・・中々上手くいかないなぁ)
劉・俊熙「大変だったね、でも気にしない、気にしない、ネ?」
なつき「あ!劉さん、ありがとう」
なつき「でも、実際、私がドジだから仕方がないよ・・・」
劉・俊熙「あらら(汗)日本の女の子はいい人過ぎるヨ~!」
劉・俊熙「あんな嫌な奴、中国だったらカンフーで一撃ネ!(笑)」
彼は中国人の劉さん。技能実習生として日本に来て、近くの工場で働いてる。
優しくて、人懐っこい性格の彼。
大学に通う為に田舎から上京してきたばかりで心細かった私は
異国の地に一人でやって来て頑張っている彼に何となくシンパシーを感じていた。
なつき「劉さん、いつもカップ麺ばかり買ってるけど、ちゃんと野菜とか食べてるの?」
劉・俊熙「ん~・・・」
劉・俊熙「大丈夫!」
劉・俊熙「でも、もし気にしてくれるなら・・・」
劉・俊熙「キミの手料理を食べてみたいナ!ナンテネ!(汗)」
なつき「え・・・!」
劉・俊熙「あはは、気にしないで!じゃあマタね!」
なつき「劉さん・・・」
私が彼に惹かれるようになったのは、ごく自然な流れだったように思う。
〇女性の部屋
付き合うようになってから、私達もごくありふれた若者のカップルらしく
手探りで愛情を深めていった。
劉・俊熙「誕生日おめでとう!ナツキ!」
劉・俊熙「これ、プレゼントダヨ!開けてみてごらんヨ!」
なつき「わあ!ありがとう!」
暖かそうなマフラー。
タグには「UNI PRO」の文字。
え・・・?
ユ、ユニプロとはなんぞ・・・?
劉・俊熙「そう、ユニプロだよ!」
劉・俊熙「凄くオシャレで品質が良くて、僕の故郷では若者に大人気のブランドだよ!」
劉・俊熙「日本って、ユニプロの偽物ばっかりあるからさ、かわいそうだなって思って、故郷から取り寄せたんだ!」
マ、マジですか・・・(汗)
なつき「あ、ありがとう、嬉しい!」
でも本当に嬉しかった。
私達の小さな恋愛は、多少のカルチャー、ギャップを感じながらも
順調に進んでいった。
〇空
月日は流れ
〇女性の部屋
なつき(もうすぐ卒業かあ)
なつき「就職どうしよう」
なつき「それとも・・・」
なつき「結婚?」
なつき(いやいやいや!まだ早いでしょ!)
なつき(でも、そうなったら・・・)
なつき(国際結婚かぁ・・・)
なつき(ウフフ・・・)
なつき(エヘエヘエヘ)
なんて、一人で浮かれていた。
〇空
その日の夜
はい、もしもし
「夜分にすいません、○○署の者ですが、
劉・俊熙という方をご存じですか?」
え・・・
劉くんの職場で事故が起こり、怪我を負った同僚が偽造在留カードを所持している事が病院で発覚した。
そして、外国人労働者数名が会社の寮から逃走した。
その中に劉くんがいたのだ。
劉くんは不法就労者だった。
程なくして、劉・俊熙は
駅構内をうろついている所で
身柄を確保された
〇法廷
それから先の事はよく思い出せない。
裁判官「被告人、「劉・俊熙」こと「王・子墨」こと「張・一鸣」こと「浅田真一」に・・・」
彼に沢山の名前があった事くらいしか。
裁判官「退去強制処分を命じます」
なつき「ああ・・・」
判決が下った。
私はその場で泣き崩れた。
私は彼の事を何も知らなかった。
何も、知らされていなかった。
どうして・・・?
あんなにも固く結ばれていたと信じてた
糸が今、解けていく
〇渋谷のスクランブル交差点
彼がいなくなって1年が過ぎた。
私は就職し、仕事に没頭した。
立ち直ろうと必死だった。
〇二階建てアパート
それなのに
送り主は劉くんだった。
〇女性の部屋
なつき(何よ、今更・・・)
あいたいです
つたない日本語でそう書かれていた手紙と一緒に
航空券が同封されていた。
なつき(このチケットを取るの大変だっただろうな・・・)
ほだされた訳じゃない
私は
私は、決着を付けようと思っただけ
そう
自分を取り戻す為に
私は彼に会いに行く事に決めた。
〇空港のロビー
空港で彼の迎えを待っていた。
劉・俊熙の兄「ナツキさん・・・」
なつき「劉くん?」
なつき「え・・・?」
劉・俊熙の兄「初めマシテ、ナツキさん」
劉くんではなく、彼のお兄さんが迎えに来てくれた。
劉・俊熙の兄「サア、行きまショウ」
〇走行する車内
向かった先は
〇大学病院
お兄さんが働いているという病院だった。
〇病室の前
劉・俊熙の兄「此方デス」
〇病室のベッド
扉を開けると劉くんが居た。
劉・俊熙「久しぶりだね、ナツキ!」
なつき「う、うん・・・」
劉・俊熙「アリガトウ、わざわざ来てくれて!」
拍子抜けするくらいにいつもと変わらない感じで
劉・俊熙「ホラ、こっちに来て!」
なつき「わっ!!」
ベッドから起き上がった彼は、私を引き寄せ
いきなりダンスを踊り出した。
なつき「ちょ、ちょっと!!(汗)」
劉・俊熙「アハハ!」
〇走行する車内
彼は重い病気にかかっていマス
モウ長くはアリマセン・・・
きっと日本での苦労が祟ったのデショウ
私達の家は貧シク
彼の仕送りのお陰デ私は大学を出テ
医者になる事がデキマシタ
それなのに彼を助ける事が出来なくテ
悔しいデス・・・
ドウカ彼を許してあげてクダサイ・・・
〇病室のベッド
劉・俊熙「ナツキ!!」
なつき「な、何?」
劉・俊熙「愛してる」
劉・俊熙「愛してるヨ!!」
劉・俊熙「・・・ゴメンね」
なつき「・・・」
劉・俊熙「絶対にまた日本に戻るヨ」
劉・俊熙「今度は指紋消して行くからサ!(笑)」
なつき「・・・バカ」
飾られた写真立ての中に
あの頃の私達が居た。
嗚呼・・・。
〇幻想空間
ねえ
私達が紡いだこの物語が
世界を少しだけ変えたよ
貴方が犯した過ちで
救われる人だっているのね
ねえ
私、貴方を愛して良かった
この物語の行く末が
途切れないように
願う
─ 終劇 ─
どんな手段を使ってでも会いたい、それが恋なのかもしれません。私ももし愛する人が強制的に連れて行かれたとしたら必死で会う手段を考え行動に移すかもしれません…。
甘い恋愛要素だけじゃなく、様々なテイストが込められていて、とっても魅力的に感じます。いろんなストーリーがぎゅっと圧縮した充実感ですね。
なんだか切ないお話で…。
彼女は彼との未来を描いていたのに、こんなことになって…それでも会いに行く彼女はやっぱり彼を愛していたんだと思いました。