オクタゴンズ『夕陽に溶けても』(脚本)
〇大樹の下
「さて!」
「明日の会場に」
「とーちゃーく!」
ワタシ「ひっさしぶり! 市民公園!」
ワタシ「気持ちイイ」
ワタシ「にしても うちの町で音楽フェスなんて」
ワタシ「高校生のコロは あり得なかったなぁ」
〇白
オクタゴンズ
『夕陽に溶けても』
〇公園のベンチ
ワタシ「さてさてぇ」
ワタシ「メインのステージは ドコだろなっと・・・」
ワタシ「あ! アレだぁ!」
〇大きな公園のステージ
「スゴーい!」
ワタシ「本気のステージだ!」
ワタシ「ステージか」
ワタシ「・・・高校の軽音部のみんな」
ワタシ「どうしてるかな?」
ワタシ「・・・」
ワタシ「卒業して・・・」
ワタシ「もう10年・・・」
ワタシ「10年もあれば、 そりゃいろいろあるよね」
ワタシ「・・・」
〇高級マンションの一室
勘弁してくれ!
もう君にはウンザリだよ
オレの好きにさせてくれ
〇大きな公園のステージ
ワタシ「・・・」
ゴ!
ワタシ「?」
ゴン!
ガピッ!
ワタシ「マイクテスト! 現場感たまらない!」
コン、コン、コン
テステス
アー、アー
イー、イー
ワタシ「この声・・・」
ウー、ウー
エー、エー
オー、オー
ワタシ「佐藤クン・・・?」
パ!んッ!
パ!んッ!
パ!んッ!
ワタシ「『パンツ』!」
ワタシ「やっぱり『パンツ佐藤』!」
佐藤「アレ?」
佐藤「センパイ、ですか?」
ワタシ「パンツ佐藤クンだぁ!」
佐藤「『パンツ』は余計です」
ワタシ「だって佐藤クン、 マイクテストで必ず 『パンツパンツ』言うからぁ」
佐藤「アレは 破裂音の『パ』と促音の『ッ』を チェックです」
ワタシ「とにかく、ひっさしぶり! 高校の軽音部以来だね、佐藤クン」
ワタシ「今日は何? 設営のバイト?」
佐藤「え、ええ まあ・・・」
会場スタッフ「『リーダー』! 佐藤リーダー!」
佐藤「!!」
ワタシ「リーダー?」
会場スタッフ「リーダー! この機材、 どこに運ぶんスか!?」
佐藤「リーダーやめてって、 恥ずかしいから・・・」
会場スタッフ「リーダーじゃないですか実際」
会場スタッフ「それに、フェスの主催もやってるし」
佐藤「分かったヨ・・・ ソレ、予備の機材だから バックステージの隅に持ってっといて!」
会場スタッフ「了解っス!」
佐藤「えーと」
ワタシ「佐藤クン・・・」
佐藤「ハイ・・・」
ワタシ「今、 『リーダー』とか 呼ばれてましたよね?」
佐藤「ハイ・・・」
ワタシ「『主催』とか 言われてましたよね?」
佐藤「いやあ」
ワタシ「このフェス、 佐藤クンの仕込みなの!?」
佐藤「バンドのメンバーと地元で何か やりたいねって言ってたら」
佐藤「こんなことに・・・」
ワタシ「え? まだ音楽やってるの!?」
佐藤「イヤちょっとだけ・・・」
ワタシ「すごーい!!」
ワタシ「しかもこのフェス、 「オクタゴンズ」出るでしょ! オクタゴンズだよ! オクタゴンズ!」
佐藤「センパイ、 オクタゴンズ観に来たんですか?」
ワタシ「もちろん! 大好き!」
ワタシ「地元、この辺なんだってね?」
佐藤「です・・・」
ワタシ「びっくり!」
ワタシ「音源配信だけで ずっと顔出しNGの彼らが」
ワタシ「明日、ついに! ワタシ待望のリアルライブ!」
佐藤「ワタシ待望・・・」
ガピッ!
リーダー会はじめまぁす!
ワタシ「ホラ行っておいで リーダー殿!」
佐藤「やめてくださいよ」
佐藤「ちょっと行ってきます」
佐藤「すぐ終わると思うんで もし時間があったら・・・」
ワタシ「そこのベンチで待ってていい?」
佐藤「ハイ!」
ワタシ「・・・」
〇黒
「お母さん」
〇シンプルな玄関
ワタシ「何度も言うけど」
ワタシ「音楽フェスに行くための ただの帰省だから」
母親「だって・・・ 生活用品全部こっちに 送ってきておいて『ただの帰省』って」
ワタシ「今どき、仕事はオンラインでできるし」
母親「そんなことを言ってるんじゃ・・・ むこうの家はどうなってるの?」
ワタシ「お母さん、Wi-Fiのルーターどこ? ケータイやら会社PCやらを 使えるようにしないと」
母親「ねえ・・・ あなた」
母親「ヒロシさんと何かあったの?」
ワタシ「・・・」
〇公園のベンチ
ワタシ「・・・」
佐藤「お待たせしてスミマセン」
ワタシ「・・・」
佐藤「センパイ?」
ワタシ「え?ア!」
佐藤「?」
佐藤「・・・心配事です?」
ワタシ「違・・・オ、遅いぞ、パンツ佐藤!」
佐藤「お待たせしたお詫びのコーヒー あげませんよ」
ワタシ「ごめーん」
佐藤「それに、何度も言いますけど 『パ』と『ッ』ですから」
ワタシ「パ、ッ、パ、ッ、パンッ、パンッ」
ワタシ「パンツ、パンツ、おパンツ!」
佐藤「コーヒーどうぞ」
ワタシ「え〜『おパンツ』拾ってよぉ〜」
佐藤「なんかムリしてます?」
ワタシ「え? え? 何が?」
佐藤「いいえ ・・・元気ですか? センパイ」
ワタシ「あ、まま、まーねー!」
ワタシ「それより、佐藤クンだよ!」
ワタシ「すごいね、音楽続けてて ワタシはダメだったなぁ」
佐藤「今は何を?」
ワタシ「音楽雑誌の編集・・・」
ワタシ「演奏に自信がなくって続けられなくて」
ワタシ「でも未練タラタラで・・・」
佐藤「センパイは」
佐藤「カッコよかったですよ」
ワタシ「ナニ急に? ちょっとォ、あのとき言ってよー」
佐藤「真っ赤なFenderのギターと 真っ赤のピックで」
ワタシ「演奏に自信がなかったから」
ワタシ「せめてビジュアルで攻めようと思って」
佐藤「部室でひとりで」
佐藤「陽が暮れるまで練習して」
ワタシ「なんだかね」
ワタシ「もうちょっとで 何か 手が届きそうだったんだよね・・・」
ワタシ「勘違いだったけど・・・」
佐藤「♪今日も思い通りにならなくて ♪キミのギターが沈んだ音を奏でる」
佐藤「♪自己主張の強い夕陽が差し込んで ♪不安だらけのキミを今日も突き刺す」
ワタシ「オクタゴンズの曲・・・ ・・・『夕陽に溶けても』だね」
佐藤「♪でも信じていい」
佐藤「♪キミの赤いFenderが ♪赤い夕陽に溶けてしまっても」
佐藤「♪キミの音色(オト)は消えたりしない」
佐藤「♪キミのオトが聴こえるかぎり」
佐藤「♪キミのオトが響くかぎり ♪明日になればジブンを取り戻せる」
ワタシ「佐藤クン・・・て」
ワタシ「・・・オクタゴンズ」
佐藤「♪赤いFenderが ♪夕陽に溶けても・・・」
ワタシ「・・・」
佐藤「コレ、センパイの歌です」
佐藤「夕暮れの部室の必死なセンパイ」
佐藤「あの風景に憧れてるんです」
ワタシ「・・・」
佐藤「明日、聴きに来てください」
佐藤「ステージで待ってます」
ワタシ「うん」
ワタシ「・・・」
ワタシ「佐藤クン」
佐藤「?」
ワタシ「『ステージで待ってる』は、クサいよ」
ワタシ「でも」
ワタシ「ありがとう」
ワタシ「ワタシを歌ってくれて」
ワタシ「じゃあ、帰るね」
佐藤「明日また、 ココで」
テステス
テステス・・・
〇白
the end.
長い期間会ってない、話してない関係の盛り上がりが良いです。
普段は会わないようにしているお笑いコンビが、ステージで熱い化学反応を見せてくれる時間を感じました。
オトナのトキメキの物語ですね!夢と現実の狭間、情熱の継続と枯渇、そんな谷間で悩むことってありますよね。その中での恋心に胸がくすぐられます。
お母さんは娘の事が心配でなりません。ここが一番気になりました。ところで佐藤君は先輩のことが好きなのでは?と思いました。先輩と佐藤君の今後も気になります。