読切(脚本)
〇コンビニの店内
コンビニのバイトくん「ありあとーございやしたー」
佐伯さくら「ありがとうございまーす」
深夜帯特有のやる気のないバイトくんの挨拶を背中で受け、スマホを起動する。
〇ナイトクラブ
「キミとボクの夢 叶えよう!!憧れのステージで輝くために!!」
──Game Start
Tap
毎日ありがとう! ログインボーナス
〇小さいコンビニ(軽トラあり)
佐伯さくら「いやぁ・・・ 生きてるだけで「ありがとう」って言ってもらえるのは、ここだけだな」
さくらはしみじみと物悲しさを嚙みしめながら、レジ袋を漁る。
佐伯さくら(ああ、そういえば)
〇コンビニの店内
コンビニのバイトくん「プリンにスプーンはつけますか」
佐伯さくら「あ、お願いします」
でも「レジ袋、要りますか?」と訊かれなかった。
どうやら顔を覚えられてしまったらしい。
〇小さいコンビニ(軽トラあり)
佐伯さくら(日付が変わるくらいの時間にひとりで来て、レジ袋をわざわざ買っていく客だもん。覚えられても仕方ないか)
佐伯さくら(コンビニの店員さんたちは常連さんの煙草の銘柄を覚えているっていうもんなぁ)
佐伯さくら(その記憶力わけてほしいくらいだよ)
佐伯さくら「ま、仕方ないよね」
佐伯さくら「それよりも私にはおっきな問題が」
〇ナイトクラブ
花山唯「こんな夜遅くまで起きてたらダメですよ ほら、一緒に寝ましょう」
Tap
花山唯「今日、あなたと見られた夢を大切にしていきます・・・どこまでも、いつまでも」
Tap
花山唯「あなたには明日も──いいえ、その先も元気に過ごしてほしいんです だから、あまり無理はしないでくださいね」
〇小さいコンビニ(軽トラあり)
佐伯さくら「あー、今日も推しがかわいい!!」
佐伯さくら「さいっこう!!」
目と目が逢う。
目と目が逢うと恋に落ちるとか巷で言われているが、あれは迷信だ。
コンビニのバイトくん「あ、どうぞ続けてくださいっす・・・」
コンビニ外の掃き掃除をしようとしていたのだろう。
彼は箒とちりとりを持っていた。
佐伯さくら「あは、はははは、は」
かわいた笑いを漏らしつつ、さくらは足早にそこを去った。
〇ゆるやかな坂道
佐伯さくら「あれは仕方なかった」
佐伯さくら「でも、あと一ヶ月はあのコンビニを使うのをやめよう」
佐伯さくら「確かもうあと3分歩けば、別のコンビニがあるから、そっちにしよう」
〇エレベーターの前
佐伯さくら「あ、そうだそうだ」
さくらはレジ袋から目当てのものを取り出す。
佐伯さくら「魔法のカード、魔法のカード!!」
それは課金に使うカードだった。
ソシャゲというのは沼だ。
インストールするのは無料。
基本プレイも無料。
それでも新規絵が月に二、三度登場するのはどうしてか。
有名声優さんを次々と起用できるのはどうしてか。
季節ごとの台詞に声がついているのはどうしてか。
はたまた、三年、五年とサービスが続いているのはどうしてか。
佐伯さくら「だって、私がパトロン!!」
課金する人がいるからだ。
彼らを廃課金戦士と呼ぶ。
〇ナイトクラブ
必ずお迎えに行くからね、唯くん
〇エレベーターの前
佐伯さくら「唯くんの初の和服だもん!!」
佐伯さくら「ちゃーんと迎えにいくからね!!」
〇ナイトクラブ
アイドル育成ゲーム「キミとボクの夢」
このゲームもまた、他のソシャゲと同様ガチャ方式が採用されている。
ガチャで出るカードには、恒常のものとイベント限定のものがある。
イベント限定は、そのときにしか取れないレア物だ。
イベントでの限定では、特殊な衣装を着ていたりする場合がある。
ゆえに、ファンは欲しがるのだ。
〇エレベーターの前
さくらはその、イベント限定のレアカードを狙っていた。
しかもレア度は最高のSSRである。
佐伯さくら「唯くん、ちゃんとお迎えするからね!! 待っててね!!」
〇エレベーターの中
さくらは家まで待ちきれず、エレベーターの中でガチャを回す。
深夜のエレベーター内に、軽快な音が流れる。
佐伯さくら「SSR、SSR、SSR、SSR、SSR・・・」
佐伯さくら「っち、物欲センサーめ、きっちり仕事しやがって」
佐伯さくら「あとちょっとしか、ガチャ石残ってないなぁ」
佐伯さくら「追い課金かなぁ」
〇マンションの共用廊下
佐伯さくら「とりあえず、あともう一回」
ガチャを回しながら、部屋の鍵を開ける。
すると、
花山唯「──おかえりなさい」
花山唯「こんな夜遅くまで起きてたらダメですよ・・・ ほら、一緒に寝ましょう」
佐伯さくら「え・・・」
花山唯「あれ、もしかして聞こえなかったですかね・・・」
花山唯「あなたには明日も──いいえ、その先も元気に過ごしてほしいんです だから、あまり無理はしないでくださいね」
佐伯さくら「ゆ、唯くん・・・!?」
花山唯「──ええ、そうです 僕はずっと、こうしたかったんです」
花山唯「あなたを大切にしていきます・・・ どこまでも、いつまでも」
佐伯さくら「なにかの間違いだよ・・・」
佐伯さくら「それともなんだ? ここは2.5次元舞台の会場か!?」
佐伯さくら「いや、「キミとボクの夢」はまだ舞台化してないから・・・!!」
ハッと、さくらはスマホを見る。
佐伯さくら「うそ・・・」
佐伯さくら「びっくりするくらい、ゴミみたいなガチャ運じゃん!!」
〇マンションの共用廊下
佐伯さくら「推しをお迎えしたかったけど、そうじゃない!!!!」
花山唯「もう夜ですから、「しー」ですよ」
佐伯さくら「え、あ・・・」
花山唯「急にドアを閉めちゃうので、驚きました」
佐伯さくら「あ、す、すみません」
佐伯さくら「あ、でも、私、ちょっと買い忘れたものがあったのでコンビニに行ってきます!!」
〇小さいコンビニ(軽トラあり)
佐伯さくら「はぁはぁはぁ」
佐伯さくら「全力疾走はキツイな・・・」
〇コンビニの店内
コンビニのバイトくん「らーっしゃいやせー・・・」
コンビニのバイトくん「あ・・・」
佐伯さくら「あ・・・」
目と目が逢う。
うっかりしていた。
さっき、向こう一ヶ月は来ないと誓ったばかりだったのに。
気まずさに耐えられなかったのだろう、バイトくんが目を逸らした。
佐伯さくら「あ、あの・・・」
佐伯さくら「現実が見えるようになる薬と記憶力って売ってますか?」
コンビニのバイトくん「・・・ないっすね」
佐伯さくら「ですよね・・・」
コンビニのバイトくん「はい・・・」
佐伯さくら「じゃあ、すみません 課金カードを二万円分お願いします」
コンビニのバイトくん「っす」
〇ナイトクラブ
花山唯「あなたに会いに来たんです だって、僕ずっと会いたかったんですもん」
ソシャゲにどっぷりハマるさくらの言動が、とても生々しいリアルさ満載ですね。そしてその願望と、それが現実化したときにリアクションも!コメディな笑いとシニカルな笑いが共存してますね。
年代的にソシャゲから遠い者ですが、なんとなくハマる人はどんどんハマっていく危険な世界なんだと感じました。コンビニの店員さん、味がありすぎて私は彼にはまりそうです!
この手のゲームって、物欲センサーが仕事しますよね。
狙ってないSSRがきたりして、やめ時を失ってしまうこととかもあったりして。笑