幼なじみてなあに(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
ガヤガヤ______
ガヤガヤ_______
高橋 双葉「はぁ・・・何してんだろう」
日曜日のお昼は人が行き交う。
街ゆく人達は皆、幸せそうで浮かない顔をしているのは恐らく私だけだ。
ふと、隣を見た。
鈴石 翔「ん?どうしたんだ?」
小さい頃からの幼なじみである翔は、申し訳なんかなくなさそうにそう言う。
高橋 双葉「いや、なんで私、貴重な休みをあんたの謎の用事に付き合わされてんのかなーって・・・」
鈴石 翔「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。 モテるイケメンな幼なじみを持ったと思って、一つ協力してよ」
高橋 双葉「はぁ・・・ で、私は今日何をすればいい訳?」
鈴石 翔「何もしなくていいよ。 俺がサークルのヤツらに「彼女だ」って紹介するから、適当にニコニコしといて!」
高橋 双葉「全く・・・。 普通に「彼女がいるなんて嘘でした」って言えばいい話じゃない」
高橋 双葉「わざわざ彼女のフリなんて・・・」
鈴石 翔「そういう訳にはいかないでしょ! 俺にも面子ってやつがあるの!」
すれ違う人達は皆、翔の事を見る。
目を引く容姿をしている上に、スタイルだっていい。
高橋 双葉「・・・・・・別に私じゃなくて良くない?」
私じゃなくなって、日頃から大学でキャーキャー言われているんだから、いくらでも女の子はいるだろうに。
なんで、私なんだろう
鈴石 翔「双葉じゃなきゃ、無理だから」
高橋 双葉「・・・っ」
高橋 双葉(・・・ずるい)
高橋 双葉(私が翔を好きなこと、知ってるくせに)
鈴石 翔「だから、お願い?」
高橋 双葉「・・・分かったよ」
鈴石 翔「ありがとう!双葉がいてくれて良かった」
断れない、私も悪いのかな・・・
隣を歩く翔を見ると、普段と変わらない笑顔のままだ。
〇大衆居酒屋
ガヤガヤ_______
ガヤガヤ_______
加藤 直也「うぃーす!双葉ちゃん飲んでる?」
高橋 双葉「あ!うん!飲んでるよ!ありがとう」
翔のサークルの人達は皆明るく、部外者の私でもすぐ打ち解けることが出来た。
加藤 直也「まさか翔が彼女作るなんてなー」
鈴石 翔「わはは、お先にすまんな」
加藤くんは、私と翔が付き合っていないどころか、まさか私の片思いであることなんて、少しも気づいていない様だ。
加藤 直也「双葉ちゃん、彼氏として翔はどう? 優しい?」
高橋 双葉「んー・・・?及第点ってとこかな?」
高橋 双葉(気持ちに気づいてて、彼女のフリを頼むんだもん)
鈴石 翔「あらら、これは厳しい」
加藤 直也「おいー!彼女には優しくしろよな」
鈴石 翔「えー、めいっぱい甘やかしてるつもりなんだけどな」
加藤 直也「ついに惚気だしちゃった」
大衆居酒屋の安いお酒に煽られ、内容はどんどん深くなる。
加藤 直也「どっちから告白したの?」
鈴石 翔「そりゃ俺だよ! 双葉のこと、ガキの頃から好きだったし」
加藤 直也「うおー、ロマンティック。流石幼なじみ!」
加藤 直也「で、どこが好きなの?」
鈴石 翔「えー、そりゃ何だかんだ優しいし、しっかり者かと思ったら案外抜けてて目が離せないし、でも何より表情かな」
加藤 直也「表情?」
鈴石 翔「コロコロ変わって見てて飽きねーの」
鈴石 翔「これまでは幼なじみとして。 これからは彼氏として、1番近くで双葉の表情を見ていたいんだ」
ズキっと心が痛む。
何で思ってもいないのにそんなことが言えるのだろう。
ずっとずっと好きなのは、私の方なのに。
高橋 双葉(・・・なんか、痛い、かも)
〇飲み屋街
高橋 双葉「はぁ・・・、抜け出しちゃった」
加藤くんの質問と、翔の嘘に耐えきれなくなってしまった私は、少しだけ席を外すことにした。
夜の空気はひんやりしていて頬を指すようだ。
高橋 双葉(嘘って胸が痛いんだな)
高橋 双葉「・・・」
高橋 双葉(・・・どうしよう。戻りたくないかも)
飲み会自体は楽しいが、どうしても心が痛くなってしまうのだ。
高橋 双葉(どうしようかな)
鈴石 翔「・・・双葉?」
高橋 双葉「え!?あ!翔」
鈴石 翔「びっくりした、中々帰ってこないから! どうした?酔っちゃった?」
いっそのこと、全て打ち明けてしまったら
高橋 双葉「・・・もう嫌なの」
鈴石 翔「え?」
高橋 双葉「ごめん、私、翔のこと好きなの」
ついに言ってしまった。
私たちの幼なじみという関係もここで崩れてしまうのかな。
鈴石 翔「え、」
高橋 双葉「ごめんね」
高橋 双葉「だから本当は彼女のフリなんてしたくなかった」
高橋 双葉(ごめんね、都合のいい幼なじみじゃ居られなくて)
鈴石 翔「え、両思いだったの?」
高橋 双葉「・・・え?」
鈴石 翔「俺の片思いだと思ってた・・・」
高橋 双葉「え、どういうこと?」
鈴石 翔「いや、俺、双葉のこと好きなんだけど」
高橋 双葉「はぁ!?!?」
状況が飲み込めず、何度も押し問答をする。
だけど私は信じられない。
高橋 双葉「じゃあ彼女のフリってどういうこと?」
好きな女にわざわざ彼女のフリなんて頼むだろうか?
鈴石 翔「んーと・・・」
鈴石 翔「えー・・・その、双葉が俺のこと男として見てくれないから、彼氏のフリでもしたら少しは意識してくれるかなって・・・」
高橋 双葉「はぁ!?」
高橋 双葉「な、にそれ」
鈴石 翔「初めは嘘でもいいから、彼氏として俺の事考えて欲しかったんだ」
鈴石 翔「サークルのヤツらに紹介したのは、外堀埋めてやろうかなーって」
高橋 双葉「どういうこと?」
鈴石 翔「俺以外に口説かれて欲しくないんで」
鈴石 翔「独り占め、したい」
状況を徐々に理解した心臓が動き出す。
ずっと近くて遠かった翔だったのに、今は近くてずっと近い。
鈴石 翔「ずっと好きだった、双葉」
高橋 双葉「私も、好きだよ・・・」
鈴石 翔「あぁ、俺が1番見たかった表情だ」
鈴石 翔「やっぱり1番、可愛い」
長年埋まらなかった翔との距離がどんどん近くなる。
もう私たちを隔てるものが無くなってしまいそうだ。
鈴石 翔「大好きだよ」
〇大衆居酒屋
加藤 直也(あれー?翔と双葉ちゃんどっかいった?)
加藤 直也「・・・まぁいいか」
加藤 直也(にしても、長年の片思いが実ってよかったなー、翔)
加藤 直也(ずっと双葉ちゃんのこと好きだったもんな)
彼女のふりしてほしいってかわいい彼ですね。お互いが思いを秘めながらのやり取りが可愛かったです。最終的にはうまくいってよかったです。
恋心を抱いている幼馴染への心情とか距離感とか、読んでいてとても心を打ちました。もどかしさ一杯で読み進めていたので、ラストはひとしおです。
両思いなのに一歩を踏み出せない二人の時間が動き出した…って感じですね。
告白ってやっぱり勇気がいるんですよ。
二人ともずっとその思いを抱えてきた分、これからは幸せになって欲しいです!