読切(脚本)
〇暗い廊下
葉山 ほのか「普通、彼女に振られて傷心癒すために遊園地きますか? 大学の後輩と」
人気のフリーフォールのアトラクションに乗るために、2時間待ちの列におとなしく並びながら隣にいる人をじとっと見る。
東 静馬「遊園地なめちゃいかんよ。ここがどれだけ夢の詰まった場所だとお思いで?」
大学時代のサークルの先輩である静馬さんは「わかってないなぁ」と首を左右に振る。
葉山 ほのか「一般的な失恋した人間は、希望がない状態で夢あふれる、しかも恋人が多く集まる場所にはこられないんですよ」
東 静馬「まじでか。俺は夢しか見えないわ」
葉山 ほのか「だから振られたのでは?」
東 静馬「ほのかチャン? 手加減してね? 僕は今まだ傷心中だからね?」
静馬さんは黙って遠くを見つめる。本当に傷心しているのだろうか。
彼はわかりやすい性格のようでいて、核心に触れるような部分は見せてくれないので分かりづらい。
葉山 ほのか「・・・・・・今回はなんで振られたんですか」
東 静馬「当ててみて?」
静馬さんはあきらめたような表情でぼそっと呟くよう言った。
その様子から私はすぐに分かれた原因がわかった。きっと大学時代、付き合っていた歴代彼女たちと一緒だ。
葉山 ほのか「「本当はほかに好きな子いるんでしょう・・・・・・」ですか」
はあ、とため息をつきながら言うと、静馬さん負けじとさらに深いため息をついた。
東 静馬「正解。何ほしい?」
葉山 ほのか「賃貸収入」
東 静馬「それ絶対夢あふれる遊園地で言っちゃいけないやつだし、あげれねえよお嬢さん」
ははっと疲れたように静馬さんは笑う。二時間待ちの列が徐々に前へ進み、私と静馬さんもその動きに倣う。
葉山 ほのか「毎回、それなんですね」
東 静馬「そうですねえ」
私はできるだけさりげなく、本心に気づかれないように、「会話の流れで聞いただけですよ」という体で一番聞きたいことを聞く。
葉山 ほのか「で? 誰なんです? 本当に好きな子」
大して興味はありませんよ感を増させるために、アトラクション内の装飾を見るふりをした。
先輩はしばらく沈黙した後。
東 静馬「・・・・・・俺が知りたいよ」
そう言って頭をかいた。
静馬さんが誰のことが好きなのか、ずっと聞きたい答えを知ることができず落ち込む。
しかし同時に、自分以外の誰かの名前を聞かずに安堵した。大学時代からこんなことの繰り返し。
〇大学の広場
静馬さんのことが好きで、毎回「静馬さんも私のこと好きなのかな」って思うたびに、静馬さんに彼女ができて落ち込む。
そのあと彼女さんと別れて、別れた理由を聞けば
東 静馬「本当はほかに好きな子いるんでしょう?だと」
そういって遠くを見つめる先輩を何度見ただろう。
〇映画館の座席
話している間に乗る順番が回ってきた。案内された場所に座れば、案内係の人が安全バーをチェックしてくれる。
「いってらっしゃ~い」という係の人の合図とともにライドが動き出し、上昇していく。
葉山 ほのか「・・・・・・」
東 静馬「はあ、俺の何を見て本当に好きな子は他にいるんだと思うんだと思う?」
葉山 ほのか「・・・・・・」
東 静馬「確かにさ、あからさまに愛情表現するタイプじゃ・・・・・・ほのか?」
私は手をぎゅっと握りしめ、口をぐっと一文字に結んだ状態で、先輩の方を見る。
東 静馬「どうした? ほのかのそんな顔、初めて見た・・・・・・あ」
涙ぐみながら、にこっと無理やり笑みを作る。
東 静馬「もしかして、こういうの苦手?」
葉山 ほのか「じぇ、ジェットコースターはいいんですけどね!? お、落ちるのだめみたい・・・・・・」
焦っているうちにも、ライドはどんどん上昇し頂上近くまで来ている。
葉山 ほのか「し、静馬さ・・・・・・」
救いを求めるように静馬さんを見たら、私を安心させようといつものようにおちゃらける。
東 静馬「まぁったくしょうがない子だね~。ほら、特別に静馬さんの手が今ならなんとプライスレス」
ふざけて差し伸ばしてであろうその手が、恐怖に呑まれた私には輝かしく見えた。
迷わずその大きな手握ると、静馬さんは今までのちゃらけたような表情はどこへやら。
東 静馬「へ」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。その時ライドは頂上へたどり着く。
葉山 ほのか「お、落ちる? 静馬さん! これ落ちる?」
顔が青くなる私とは正反対に、静馬さんの顔は赤い。周りの乗客の悲鳴も、私の声も聞こえてなどいない様子だ。
東 静馬「・・・・・・かわい」
静馬さんがそういった瞬間、落ちた。
〇お化け屋敷
「・・・・・・」
ライドから降りた後、落ちた瞬間に取られた写真をアトラクションの出口で見て、お互いに気まずくなる。
写真の私はこれでもかというくらいの力で静馬さんの手を握り、静馬さんは叫ぶ私をあの表情のまま見つめていた。
葉山 ほのか「ぜ、絶叫する私そんなに面白かったですか!?」
私は気まずさを壊すようにいつものようなノリで話しかけると、静馬さんは真剣な顔で私を見つめる。
葉山 ほのか「っ・・・・・・手、その・・・・・・ごめ」
謝ろうとしたら、先輩の手が私の手を絡めとった。
東 静馬「もう、お互い観念しないか」
葉山 ほのか「・・・・・・!!」
東 静馬「ダメ?」
葉山 ほのか「もう、ほかの人に目移りしませんか?」
東 静馬「よくいうよ。俺のこと好きなのかなって思うたびに、誰かと仲良くしてさ」
葉山 ほのか「・・・・・・人のこと言えます?」
東 静馬「お互い様か?」
思いが通じ合った瞬間、世界の色が一瞬にして鮮やかになったようだった
葉山 ほのか「本当に好きな子、誰なんですか?」
東 静馬「・・・・・・賃貸収入が欲しい子」
葉山 ほのか「私?」
ジェットコースターから始まる恋ではなく恋のフリーフォールというところが斬新で読んでいて面白かったです。静馬さんのキザな性格、好きです!(笑)
友人関係が長くなると、こういうつかず離れずな関係から進展するのって逆にものすごく勇気がいるんですよね。ふたりとも実はずっと前から両想いだったのかな。そんなことを考えながら読んでいたら、照れくさくてくすぐったくなりました。
ずっとお互いの気持ちを確かめ会わなかったのに、決して無駄な時間を過ごしていない感じがあって素敵でした。こういう自然の流れで結ばれるのって果てしなく憧れますね!