君を護るから

ゆう羅

君を護るから(脚本)

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〇川沿いの公園
  もしもし、聞こえる?
  君の声が聞きたくて、今日会ったばかりなのに電話しちゃった。
  うん、そうだね。今日は楽しかった。
  君がとても楽しそうにしてくれたから、俺も嬉しいよ。
  いいよ、また行こう。
  大丈夫だよ。実はね、明日車が届くんだ。
  そうだね、じゃあ車が届いたらどこに行こうか。明日は平日だから、学校まで車で迎えに行くよ。そのまま近場でドライブしよう。
  前に行ってみたいって、話していたカフェはどう? 君のバイト先の近くの。
  他にもバイト先の近くにあったショッピングモールでも行ってみる?
  今日行った遊園地にも、今度は車で行きたいね。
  車なら、何でも運べるよ。大きなお土産も、他の友だちを連れていくことも大丈夫だよ。
  嬉しい?
  そんなに喜んでくれるなら、僕も嬉しいよ。
  うん、俺はどこにでも行くし、ずっと君を見ている。
  大丈夫・・・何も心配しないで。
  君を護るから。
  夜8時。
  営業職は体力が勝負だと、体育会系の先輩社員からいわれたせいじゃないが、社会人になった今も運動を続けている。
  自分はごく平凡なサラリーマン、藤井。
  休日や残業のない日には、この時間にジョギングに行くことを日課にしている。
  駅と商店街を挟んで住宅街となるこの場所にある公園は、買い物帰りの人や、自分のようにジョギングをする者、
  犬の散歩をする者など人目がある。
  そして公園横のカフェは21時まで営業していて、ジョギングの後にたまに寄るのが楽しい。
  そのカフェのテラス席で、ひとりの見目麗しい、大学生風の青年が電話をしていた。相手は恋人だろうか。
  聞いているこちらが恥ずかしくなるような、甘い言葉を囁いていた。
  日常の会話で『君を護る』という言葉が出てくるだろうか。
  だが、ジョギングの最中に抱いた疑問は、走り終えて家に戻る頃にはすっかり忘れていた。

〇警察署の食堂
  休日明けの出勤日。会社の食堂で昼食を取っていると、会社の受付嬢のふたりが相席を求めてきた。
  喜んでその申し出を受けたところ、彼女たちは席に着くまでにしていた話の続きを、ゆっくりと腰を降ろす前にし始めていた。
  そんなに興奮して何を話しているのか気になった。
  もちろん口は出さないでいたが、受付嬢の白石さんがこちらの様子を察してか説明してくれた。
  「ああ、藤井さんも聞いて下さいよ。修羅場だったんです!」
  「修羅場? 一体どうしたんですか?」
  「それがですね・・・」

〇黒
  白石さんたちの話はこうだった。
  もうひとりの受付嬢・松野さんには、高校二年生になる従妹がいるそうだ。
  その従妹さんが昨日、とある男性に助けられたという話だった。
  以前から彼女はバイト先の客にストーカーされ、不安と恐怖に苦しんでいた。直接的な接触はなく、ずっと後を付け回されていた。
  そのことを友人に相談した際に、とある人を紹介された。
  その人物は『困っている女の子がいたら、助けてくれる』という見目麗しい美青年・祐(たすく)だ。
  祐が最初にしたことは、そのストーカーを『ストーカー』することだった。
  ストーカーをしていた男は、どこにいても祐が視界に入ることに気づき、不安を覚えた。
  いかにも女性から注目を集めそうな、長身でスタイルの良い美青年。そんな彼が自分をもの憂げに見つめてくる。
  ストーカーしている少女に対しても何も言えない男は、次第に祐の姿を見かけるようになると逃げ出すようになっていた。
  それが決定的になったのは、祐が少女と談笑しながら歩いている姿をストーカーが目撃したこと。
  さらに昨日は『遊園地デート』をしている姿を目撃させ、帰りにはストーカーが逃げ入った公園沿いカフェまで追いかけた。
  そしてストーカーの近くで彼女に電話をかけたという。
  彼女との電話が終わった途端、ストーカーは
  「もうあの子に近づかないから、許して下さい」
  と言い、逃げ帰ったそうだ。
  あと数日は様子を見るということだが、少女はすごく安心し、以前から相談していた白石さんにそのことを話してくれたらしい。
  (もしかしてその祐って人は・・・)
  ふと昨晩、ジョギングコースの公園のカフェで見かけた彼のことを思い出した。
  もし祐という人が件の人物だとしたら?
  『前に行ってみたいって、話していたカフェはどう? 君のバイト先の近くの。
  他にもバイト先の近くにあったショッピングモールでも行ってみる?』
  
  とバイト先の近くばかりを指定することや。
  『車なら、何でも運べるよ。大きなお土産も、他の友だちを連れていくことも大丈夫だよ』
  何でも運べる、他の友だちなども、普通の会話だろうが、は自分をつけまわしている男から言われた言葉は、
  とても恐怖だったに違いない。
  
  そして――。
  『大丈夫・・・何も心配しないで。君を護るから』
  少女にとっては、何よりも心に響く言葉だったのだろう。

コメント

  • ストーカーが、(あれ?ストーキングされているかも)とうっすら気づいたところから、それがだんだんと確信にかわるまでを想像すると相当ゾワゾワっときます。自分も、好きな女の子に同じ恐怖を与えていると気づいたのではないでしょうか。

  • 誰かが電話で話している内容って、相手の声がきこえないから余計に色んな想像がうまれますよね。藤井さんは同僚っと相席しなかったら、そのまま恋人同士の甘い会話だと疑わなかったところが、その後の展開とギャップがあってとてもおもしろかったです。

  • ぞっとさせられました、ストーカーをストーキングする、、、思ってもみない発想ですがそれもまた面白いかもしれません。楽しいストーリーでした。

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