お茶を一杯

たるろ芋

読切(脚本)

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〇テラス席
綾香「ふむぅ、こんなものかな」
  大学がお休みの日は、いつか自分のカフェを開くために、いろいろなお店に寄っては、メニューや雰囲気、接客等をまとめている
  だから──
「ねぇ、勉強終わった感じ?これから一緒に遊ばなーい?」
  ナンパ紛いのことだって、ハジメテではない
綾香「いやぁ、大学屈指のイケメンさんに言われると、それなりに心動かされますなぁ」
梓「じゃあいい加減動かされてよ。お断りされんのこれで何回目?」
  彼は前にナンパに合っていたところを助けてくれた。講堂で何回か隣の席になったことはある。イケメンで、優しくて、友人も多い
  沢山話した訳でもないのに助けてくれて、「友人」カテゴリに入れてくれてるのは嬉しいんだけど──
綾香「今日の敵情視察は終わり。護衛料はそのあまーいパンケーキとコーヒーってことで♪」
  意外と甘党なのか。ナンパから助けられて以来、行く先々のカフェで待ち合わせもなしにバッタリ会うことも多く、
  食べ終わった後に社交辞令でお誘いしてくれる。コミュ力もカンストしてそうなイケメンである
梓「やっす!!俺、そんな安い男じゃなくってよ」
綾香「っていってもなぁ、じゃあ何がお望みかな、イケメンさん。今月カフェ行き過ぎて厳しいんで、沢山貢げないんだけど?」
梓「うわスルーすんのかい!まぁいいや。だーかーら、「お嬢さんの時間ください」って言ってんじゃん。んな金銭要求するかよ」
綾香「んー、こんなイケメンとデートしたら明日から大学でなんと言われるか・・・」
  恐ろしやイケメン!!自分の顔と行動に責任持ってほしい。いや、天然か?イケメンのクセに実は天然も入ってるのか!?
梓「大丈夫!もう既に大学では噂になってる!!そりゃあ毎週末カフェで一緒になってりゃ目撃情報も出回るわな」
梓「──それに俺も聞かれたら「今外堀埋め中だから」って答えてる」
  ・・・・・・・・・?
  ──────!!!!
綾香「は、あぇえええ!?」
梓「おいまだ店だ。声デカすぎ。はい深呼吸してー、吸ってー、吸ってー」
綾香「すぅ~、すぅ~〜っっぷぁ!苦しいから!!」
梓「いや本当に素直だな。とりあえず歩こうか」
  そう言ってトレイを戻した彼は、まだ混乱している私の手を引いて歩き出した。掴まれた右の手首が、酷く熱かった──

〇ショッピングモールの一階
  お店を出たあと、わけも分からぬ内に所謂「恋人繋ぎ」に変えられた
  紅茶専門店、アンティークショップを巡り、今は食器コーナーをブラブラしている。──何故か、手はそのままだ
  けれど、隣のイケメンはいたって普通。先程少し染まっていた頬は見間違いかと思えるほどに
  段々とカフェでの爆弾発言は冗談だったのかと思えるようになった。そりゃあそうだ。ちょっと本気にした自分が恥ずかしい
梓「こういうマグカップは店用というより自宅にあるといいよな」
綾香「あ、それ持ち手も細すぎなくていいね!」
  勘違いの要因にもなっていた手を、さり気なくマグカップへと伸ばす
綾香「これいいなぁ。ちょっと買ってくる!待ってて」
  陶器に触った手が、冷えていく
  きっと、この羞恥心も、レジから帰る頃には治まっているだろう。そう、勘違いしたから、恥ずかしいのだ
  ──だというのに
梓「ほら、荷物」
  サッと紙袋を取り上げられ、折角平熱に戻った手をもう一度繋がれてしまった
  ──彼は、何がしたいのだろうか

〇川に架かる橋
  ショッピングモールを出ると時間は夕方に差し掛かっていた
  黙々と、二人で帰路に着く
  まだ夏ではないのに既に蒸し暑い空気が、更に私の喉を詰まらせた
梓「────あのさ」
  先にボーダーを越えたのは彼だ
梓「そろそろ、返事欲しいんだけど」
綾香「えっと、なんの?」
梓「無しにするわけ?あんな人目につく場所で言わせといて」
綾香「あんなとこで言ったから、普通冗談だって思うでしょ!!なのにこんな風に手も繋ぐし、一体何がしたいの!!」
梓「あんたと恋人になりたい」
綾香「なん──っ!!」
  冗談──にするには、その顔が真剣すぎて
綾香「わ、たしは、スタイルも良くないし、交友関係狭いし、頭も良くない」
綾香「正直、今でもからかわれてるんじゃないかって、思ってる」
梓「──あんたは、どの講義も真面目に受けて、友達と深く付き合ってて、休みの日も夢に向かって頑張ってる」
梓「そんなあんただから、好きになった。好きだから、ナンパされてるあんたが見たくなかったから、偶然装ってでも側にいた」
梓「好きじゃなきゃここまでしねぇよ」
  初めて知る事実に、頭がパンクしそうだ。
梓「俺のこと「イケメン」っていうけど、今まで名前で呼んでくれたこと無いよな」
梓「それは、なんで?」
綾香「そ、れは──」
  だって、呼んだら、認めてしまう。勘違いで終わらせてくれない
  私は、彼のことが──
  ああ、もうダメだ。自覚した。徹底的に理解させられた。完敗だ。なら──
梓「ね、返事は──?」
綾香「──その、マグカップ」
梓「──ん?」
綾香「梓君の、部屋に置いといてくれない?」
梓「・・・また今度、色違いで買いに行こう」
  そうしたら、珈琲でも紅茶でも、好きなの淹れてあげるよ

コメント

  • 綾香の挙動や心情が精緻に描かれているので、読んでいて深く共感しました。喜びや戸惑いといった様々な感情に頷きっぱなしでした、

  • 共感できました、男女問わず自分の理想の人と話すのって緊張したり自己嫌悪?!みたいなものに陥ってしまったりと時に複雑な感情を引き起こしますよね。

  • 好きな人が理想の人であればあるほど、自分の物足りなさにギャップを感じてしまいますよね。
    釣り合う人間ではないとか…自分も言ってしまいそうです。

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