鴨川三文恋小噺

がっさん

鴨川三文恋小噺(脚本)

鴨川三文恋小噺

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〇土手
  ―京都、鴨川
  毎年多くの観光客が訪れる、有名スポットだが・・・
由美(鴨川、初めて来たけど)
由美(なんだか・・・)
由美「あっ、すみません」
由美(そこらじゅう・・・)
由美「ご、ごめんなさい」
由美(カップルで溢れかえってる・・・)
由美(お一人様にはハードル高いよ・・・)
由美(はぁ・・・)

〇屋上の入口
男子生徒「・・・」
男子生徒「ごめん」
由美「えっ・・・」

〇土手
由美(忘れようと思って、勢いで京都に来たのに)
由美(嫌でも思い出しちゃうな)
安楽「お姉さん、どうしました?」
安楽「泣いてる・・・?」
由美「えっ!?」
由美(・・・)
由美(泣いてたんだ、私)
安楽「なんか、嫌なことでもありましたか?」
由美「えっと、大丈夫です・・・」
安楽「大丈夫なわけないでしょう!」
由美「えっ?」
安楽「僕、人を笑顔にするのが仕事なんで!」
安楽「悲しんでいる人を見かけたら、放っておけない性分なんです!」
安楽「ちょっと、ついてきてください!」
由美「えっ、は、はい・・・」
由美(なんだか、変な人に絡まれちゃったな)

〇川沿いの道
  ―鴨川の岸辺
安楽「えー、コホン」
安楽「改めまして、笑腹亭 安楽(あんらく)と申します」
由美「えっと、柳 由美と申します・・・」
由美「落語家さん、だったんですね」
安楽「はい!」
安楽「由美さんの笑顔が戻るまで」
安楽「どうか、一席お付き合い願います」
由美「はぁ・・・」
由美「よろしくお願いします・・・?」

〇電車の中
安楽「ご存知、東京都心の地下鉄、銀座線」
安楽「なんでも、変わったルールがあるらしく」
安楽「全席、お年寄りに必ず席を譲らないといけないんだとか」
安楽「なぜなら、シルバーシート(銀座)なので」
由美「・・・」
由美(ダジャレ?)

〇雨傘
安楽「『モテない男』と掛けまして」
安楽「『雨男』と解きます」
安楽「そのこころは・・・」
安楽「どちらも、よくフラ(降ら)れるでしょう」
由美「・・・・・・」
由美(今度は、なぞかけ・・・?)

〇川沿いの道
安楽「おかしい・・・なぜウケない・・・?」
安楽「いつも爺さん婆さんは大爆笑なのに・・・!」
由美(それは多分・・・世代間の問題では?)
安楽「はぁ〜・・・」
安楽「僕は落語家失格ですね・・・」
由美(落ち込んでるなぁ〜・・・)
由美「あっ、あの〜」
由美「さっきのも、とても面白かったんですけど」
由美「ほら、あの、古典落語? とか」
由美「ぜひ一度、聴いてみたいな〜、なんて」
由美(あれ?なんで、私が気を遣ってるの?)
安楽「えっ!ほんとですか!?」
由美(あ、復活した)
安楽「なんだ、古典落語が聴きたかったんですね」
安楽「それでは、京都にまつわる落語を一席」
安楽「由美さんを、笑顔にして差し上げましょう」
由美「はい、お願いします」

〇古風な和室
  『宇治の柴舟』
  仕事熱心な、材木問屋の若旦那
  ある時、恋の病を患ってしまいました
  なんと、この若旦那、浮世絵に描かれた女に恋をしてしまったのです

〇湖のある公園
  病の療養のため、若旦那は京都の宇治へ向かいます
  宿屋からぼんやり川の岸辺を眺めていると
  なんと、絵にそっくりな女性が岸辺に立っているではありませんか
  そこで若旦那、船頭になりすまし、女性に近づき、声をかけるのです
若旦那「姐さん、お願いがございます」
若旦那「恥ずかしながら私、絵に描いた女に惚れ込んで、夜も眠れません」
若旦那「実はあんたのお姿が、その絵の女にそっくりでございます」
若旦那「どうか私の思いを察して、私とお付き合いできませんか?」
女「あほらしい」
女「私には、れっきとした亭主がございます」
若旦那「そんな・・・」
  諦めきれない若旦那
  じりじりじりっ、と女へ寄っていきます
  帯に手をかけ、ぐいっと引いた瞬間!
女「そればっかりは、堪忍してください!」
  女は若旦那を川へと突き飛ばしました!
  若旦那は川の中へ真っ逆さま!

〇古めかしい和室
  ふと、宇治の宿屋で目を覚ました若旦那
  女と逢ったのは、なんと夢の中の出来事だったのです!
若旦那「私はアホだ」
若旦那「己が一方的に、空想の恋を現実へ持ってきてしまった」
若旦那「ああ、まことに恥ずかしい・・・」

〇川沿いの道
安楽「宇治の柴舟、というお話でした」
由美(この話・・・)
由美(まるで・・・)

〇屋上の入口
由美「前から、かっこいいと思ってて・・・」
由美「ジャミーズの浜松君に、雰囲気が似てて」
由美「好き、です!」
男子生徒「・・・」
男子生徒「ごめん」
由美「えっ・・・」
男子生徒「あのさ」
男子生徒「オレたち、初対面だよね?」
男子生徒「オレの気持ち、考えたこと、ある?」
  今になって、気付かされた
  私は、好きだったアイドルと、彼を勝手に重ねていた
  自分勝手で、一方的な、恋
  私は、フラれて当然だ

〇川沿いの道
由美「・・・私、失恋したんです」
由美「相手の気持ちも考えず、自分の理想をぶつけて」
由美「ほんと、恥ずかしいです・・・」
安楽「そんなことがあったんですね・・・」
安楽「・・・実はさっきの落語」
安楽「続きがあるんです」
由美「続き・・・?」

〇桜並木
安楽「暮れてゆく 春のみなとは 知らねども」
安楽「かすみに落つる 宇治の柴舟」
由美「和歌・・・?」
安楽「新古今和歌集、寂蓮法師が詠んだ歌です」
安楽「『終わりゆく春の行く先は、どこかわからないけれど』」
安楽「『かすみの中を下ってゆく、宇治川の柴舟のように』」
安楽「『春の港は、もうすぐ近くだろうか』」
由美「・・・素敵な歌ですね」
安楽「ええ、ほんとうに・・・」
安楽「恋を諦め、仕事に戻った若旦那に対して」
安楽「最後に、この歌で締めくくるんです」
安楽「恋も季節も、過ぎ去るもの」
安楽「過去にこだわらず、前だけを向いてほしい」
安楽「由美さんは、若くて素敵ですから」
安楽「きっと次へ進めますよ」
由美「―!」
由美「・・・っ」
由美「うっ・・・ううっ」
安楽「えっ!?えっと・・・」
安楽「・・・よしよし」
由美(安楽さんの、ぎこちない手)
由美(なんでだろう、すごく、心地良い)
安楽「ごめんなさい、結局、由美さんを笑顔にできなかった」
安楽「やっぱり、僕は落語家失格ですね」
由美「ち・・・違うんです・・・」
由美「とっても・・・嬉しいんです・・・」
安楽「―!」
安楽「次こそは」
安楽「夢中になるほど、笑わせてあげますよ」
安楽「もう一席、お付き合い願えますか?」
由美「・・・」
由美「はい、喜んで」
  私の恋
  辿り着く先はわからないけれど
  始まりは、きっとここから

コメント

  • 素敵な話ですね!! BGM がなくても、自分の胸の中で BGMが響きました!!
    笑わせようとして、結局泣いてしまった彼女とのすれ違いのところがとっても良かったです。胸に響くストーリーを参考にして、私も作りたいです🙇

  • 笑腹亭、いいですね(笑)
    とても素敵なお話でした。自分も彼女といっしょに前に進めそうな気持ちになる物語でした✨

  • 素敵なお話ですね!女の子の心情も、男の心情も、奥ゆかしい感じが滲み出てて好きですね…良い…☺️自分は落語とかの古典的な娯楽はなかなか触れる機会無くて、無知に近いですが…男性の声優さんがこういうのやるの想定するなら、きっと役者冥利に尽きるのかなって思いました🙏

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