彩度が高い服を着ないと死ぬお兄さんと〇ニクロ店員の私 ~墨色とビビッド~

笹川誉

エピソード1(脚本)

彩度が高い服を着ないと死ぬお兄さんと〇ニクロ店員の私 ~墨色とビビッド~

笹川誉

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〇試着室
  ────ここは都内某所の洋服店、「UNIKURO」。
客A「・・・・・・」
客B「・・・・・・」
墨乃「・・・・・・いらっしゃいませ」
  私は目黒墨乃。ここで働いている。
  ここで売られている服は、ほとんどが白か黒か灰色・・・・・・いわゆる無彩色。
  良くて紺色や、薄いベージュくらいだ。
  私はそれが心地良い。
  小さい頃から根暗っていじめられてきたけど、
  ここは私みたいな人間も受け入れてくれる。
  店を訪れるお客さんも、ほとんどがモノトーンの服で、なにも喋らない。
  ただ淡々と、必要な服を買っていくだけ。
  それでいいんだ。色鮮やかに彩られた日常なんていらない。
  変わらない、停滞した日々。
  ・・・・・・だけど、その日。
???「どもども、邪魔すんで~! 邪魔すんなら帰って~ってか、わはは!」

〇試着室
明「へぇ~ここがUNIKUROかぁ!初めて来たけど結構広いんやなぁ!」
「なっ・・・・・・!?」
  私も、黒部先輩も、驚きの声を抑えられなかった。
  大きな声でひとりごとを言いながらの入店、
  都内だというのに隠さないコテコテの関西弁、
  なによりその――色鮮やかな服。
墨乃(オレンジのシャツに水色のセーターを合わせるなんて・・・・・・ありえない・・・・・・!)
明「あ、姉ちゃん店員さん? 俺ここ初めてやさかい、ちと聞きたいねんけど!」
墨乃「は、はい・・・・・・!?」
  思わず声が裏返ってしまった。
明「赤っぽいシャツ、探してんねんけどな」
墨乃「あ、赤、ですか・・・・・・どのような赤色ですか?」
明「そらもうドギツければドギツいほどええな。 光ったりしたらもうバッチリや」
墨乃「す、すみません、当店はあまり明るいトーンの服は置いていなくてですね・・・・・・」
  というか、光るシャツは置いてある店の方が珍しいと思うけど。
  派手なお客さんは、きょとんとした顔で店内を見回した。
明「ああっ!? ほんまや! この店陰気な色の服しか置いとらへん!」
客B「・・・・・・」
客A「・・・・・・」
明「・・・・・・いや、陰気は言い過ぎやな。 脳直でツッコんでもた。すんまへん」
  お客さんは意外にも、すぐに謝った。
明「俺は百色明。 仕事の都合で東京来たんやけどな、急遽新しい服が必要になったんや」
  急に新しい服が必要になるなんて、どんな仕事なんだろう?
  モデルさんとか、そのマネージャーさんとか・・・・・・?
  それにしても、モモシキアキラさんか・・・・・・
  まさに名は体を表すって感じだ。

〇試着室
明「でも黒ってオシャレには重要な色やねん」
明「俺も黒のネクタイしてるやろ? こんな感じでポイント使いするとコーデが引き締まんねんで」
明「姉ちゃん、名前は?」
墨乃「え・・・・・・? その、目黒墨乃、です」
明「じゃあ、墨乃さん。せやなあ・・・・・・」
  そう言って百色さんはまた店員を見回し、
  ハンガーラックに掛かっていたグレーのカーディガンを手に取った。
明「これとか、似合うんとちゃう?」
明「無理せんでええから、ちょっとずつ黒ずくめから脱却してこうや」
明「全身真っ黒やとどうしても顔色が悪う見えたり、重たい印象になってまうで?」
  百色さんはにっこりと笑った。
  その笑顔を目にした私は、何故か、胸がぎゅっと痛くなる。
  なぜだろう?
  この人のことをもっと知りたい、もっと一緒にいたい。そんな気持ちになってくる。
墨乃「あ、あの!」
墨乃「私、あと15分で退勤なんです。この後お時間あれば、お話したいなって・・・・・・」
明「もちろん、ええで」

〇黒背景
  あの日から一ヶ月。

〇センター街
  私は、明さんの仕事のお手伝いをすることになった。
二人「〈トランスフォーム〉!!」
アキラAZ-8K「行くで、墨乃さん!」
SMIRNOFF「はい、明さん!」
  私の日常は、色鮮やかに、刺激的に、変化した。
  でも――それもいいと、今は思える。
  だって、今までにないくらい、心臓が高鳴っているから。

コメント

  • 見事に墨乃さんの固定観念を覆してすごい! そしてその真っ向違う好みの持ち主の存在自体を受け入れた彼女もえらい! こうして人と人とが混じり合い、生きていく世界になればいいなあ。

  • たしかにモノトーンの服って無難ですよね。
    無難な服だからこんなに売れてるのかな?と思ってしまいました。
    ラストすごくよかったです!
    こういった職業とは思いませんでした。笑

  • 楽しいお話しで笑いながら読ませて頂きました。こんなお客さんがいたらびっくりですよね、でも反面元気をもらえそうな、、、会話のテンポもよかったです。

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