エピソード1(脚本)
〇クリスマスツリーのある広場
「クリスマスイヴなのに仕事なんて、最悪だよね、綾瀬さん」
〇漫画家の仕事部屋
工藤コウイチ「街はこんなにキラキラしているのに、 原稿用紙の中のキャラクター達まで、 イチャイチャ仲良くしてるって言うのに」
漫画家の『工藤コウイチ』が
アシスタントの綾瀬たくみにボヤいた。
綾瀬たくみ「先生、そんなに仕事嫌なんですか? あと一息ですから・・・」
綾瀬たくみ(実は、私は昔から先生の大ファン。 でも公私混同は無用。 内緒にしているの)
綾瀬たくみ(雑誌のアシスタント募集を見て応募して、 それに合格した時は 人生の運を全部使い果たしたかと思った!)
綾瀬たくみ(しかも、 こんなに若いなんてっ!!)
綾瀬たくみ(もちろん、 私が先生の事をカッコいいな、なんて思っちゃったり、ドキドキしてる事なんて、 ぜったい気づかれちゃダメっ!!)
工藤コウイチ「綾瀬さんも、ごめんね。 こんな冴えないオジサンと一緒で しかも、女の子だって気づかなくて・・・」
綾瀬たくみ「オジサンなんてっ!?」
綾瀬たくみ「こちらこそ、すみませんっ。 紛らわしい名前で。 女の子だと迷惑でしたか!?」
工藤コウイチ「いやいや、 こっちの勝手な思い込みだからっ むしろこんなかわいい子なんて大歓迎だけど」
工藤コウイチ「あ、 これセクハラ案件かな あはは・・・」
綾瀬たくみ「あはは、 ぜんぜん、 かわいいなんて・・・」
綾瀬たくみ(やばい、 お世辞だって分かってるけど、 これは勘違いしそうだよっ・・・)
テレビからクリスマスソングが流れる
工藤コウイチ「・・・はあ・・・」
工藤コウイチ「・・・最近ホントに寝る暇も無くて・・・」
工藤コウイチ「ちょっと休憩しようか・・・」
工藤コウイチ「うん、分かってるんだ」
工藤コウイチ「何年か前までは、仕事なんて全然無くて、 こうやって忙しくさせてもらってるのが、 すごく有難いって事・・・」
工藤コウイチ「気持ち、切り替えないとな・・・」
綾瀬たくみ「大丈夫ですか? あまり無理しすぎないでくださいね」
工藤コウイチ「うん、 ありがとう」
綾瀬たくみ(先生、すごく疲れてるみたいだなぁ・・・)
工藤はデスクの引き出しから、
何かをゴソゴソと探し出そうとしている。
原稿もいよいよ仕上げ段階。
綾瀬たくみ(ああ、 モノトーンの画面が、先生の世界観で鮮やかに彩られて行く)
綾瀬たくみ(こんな作業を見られるなんて、 ファン冥利に尽きるなぁ)
工藤コウイチ「ファンレターってさ やっぱ励みになるよね・・・」
綾瀬たくみ「そうですね」
綾瀬たくみ(思い出すなぁ・・・ 私も先生にたくさんファンレター送ってたっけ。 覚えてもらえるように、いつも同じ封筒で)
綾瀬たくみ(ありったけの想いを書き込んで。 今となってはちょっと恥ずかしいけど)
綾瀬たくみ(届く事も無いだろうと思いつつも。 ただ先生の作品の好きなところをひたすら書き綴って送り続けていたっけ)
綾瀬たくみ(いま、こうしているのが、 夢みたいだな・・・)
工藤コウイチ「デビュー直後からさ、 いつもファンレターをくれた子がいて・・・」
綾瀬たくみ「・・・はい・・・」
工藤コウイチ「やたらと熱く語ってて文章も異常に長くて。 いつも、水色の花柄の封筒で送ってくれてた」
工藤コウイチ「その子の手紙が、 いつの間にか支えになってて」
工藤コウイチ「ネームがボツばっかりで なかなか雑誌掲載されなかった時があって 同期デビューの新人もどんどん連載を始めてさ・・・」
工藤コウイチ「もう俺才能無いんじゃないかって、 漫画家やめようって思った時に、ふとその手紙の事を思い出してさ」
工藤コウイチ「改めて読み返してみたら、 誰よりも俺の良さを知っててくれてて」
工藤コウイチ「『他の作家さんには無い作風で 絵柄も少年誌なのに繊細さもあって綺麗で、キャラクター達の独自の目線も好きです』」
工藤コウイチ「『自分の信念に真っ直ぐで、 決して諦めない主人公が大好きです』」
工藤コウイチ「・・・なんて書いてあったかな? 読み返してるうちにだいたい内容覚えちゃったよね・・・」
工藤コウイチ「誰かと比べてた、 自分がバカみたいに思えて来た」
工藤コウイチ「この子の書いてる事と、自分の才能を信じて、また前を向こうって思たんだ」
工藤コウイチ「なんて、語っちゃったけど・・・。 ・・・あった、あった!」
工藤コウイチ「この手紙・・・」
綾瀬がボロボロと涙を流す。
工藤コウイチ「え!? どうしたの・・・!?」
工藤コウイチ「まさか・・・!?」
工藤がファンレターの差出人を確認する。
工藤コウイチ「え!? 『綾瀬 たくみ』って・・・・ え!? え!?・・・」
綾瀬たくみ「先生、それ、私です・・・」
綾瀬たくみ「そんな風に、『届いてる』なんて 思ってもみなくて・・・」
綾瀬たくみ「わたし、その時受験に失敗して、 もう何もかもがダメなんじゃないかって 落ち込んでて・・・」
綾瀬たくみ「でも、先生の漫画の、 何があっても絶対諦めずに前向きな主人公に救われたんです」
綾瀬たくみ「ずっと、先生のファンでした」
綾瀬たくみ「先生、 好きです・・・」
綾瀬たくみ(あ、 しまったっ!・・・)
綾瀬たくみ「あ、いえ・・・ ・・・好きって言うのは、先生の作品が大好きという事で・・・」
焦る綾瀬。
工藤は微笑んで、綾瀬の頭をよしよしという風になでる。
工藤コウイチ「うん うん」
工藤コウイチ「どんな意味でも、 すごく嬉しいよ・・・」
工藤コウイチ「よしっ! 原稿終わったら、ご飯でも食べに行こうか! これで仕事のやる気も出てきたよ」
工藤コウイチ「僕はこうやって、支えてもらえて 変わる事が出来たんだね」
工藤コウイチ「ありがとう・・・」
綾瀬たくみ「ずっと、 支えてもらってたのは、」
綾瀬たくみ「私の方です・・・」
〇イルミネーションのある通り
(これは、 クリスマスプレゼントなんだろうか・・・?)
(気のせいか、サンタさんの鈴の音が 聞こえた気がした・・・)
⭐︎⭐︎⭐︎Merry Xmas⭐︎⭐︎⭐︎
読んだのはクリスマスとは正反対の6月ですが、クリスマスを感じる幸せな作品でした!
届いていないだろうなあと思ってた気持ちが届いてたのを知るって、とっても嬉しいんだろうなぁ…。
ずっとお互いに励まされていたんですね。
素敵なお話でした。
漫画って、描き込んでいくうちに形になってきて、まさに命を吹き込むって感じですよね。
まっすぐな思いが通じ合うのは、清々しいです。同じくうれしい気持ちになります。感謝。