森の魔女と媚薬のはなし(脚本)
〇森の中の小屋
フローリルの森の奥にある湖の畔には、
嵐がきたら飛んでしまいそうな小さな古びた庵が一軒建っていて、
そこには一人の年若い魔女が住んでいる。
〇魔法陣
『魔女』は世間では妖しげな存在と思われていて、
人々からはあまり歓迎はされていない。
けれど魔女とは、
薬の知識に長けているだけの
ただの人間
不老不死はおろか、
人より寿命が長い事も、
面妖な術を使えたりなんて事も、
一切ない。
それでも何代にも渡る魔女たちの経験から、人里から離れてひっそり暮らすのが最良と、
魔女たちは隠れるように生きている。
〇森の中の小屋
歓迎されない反面、
魔女の確かな効能を持った薬を求める人間が多いのも事実で
ほとんどの魔女の住処は知られている。
そしてそんな魔女の内の一人、
『フローリルの森の魔女』は
媚薬の効果が抜群な事で有名だった。
〇暖炉のある小屋
リリィ「~~♪」
リリィは鼻歌を歌いながら、
大鍋をぐるぐると掻き混ぜる。
そうして出来上がったばかりの薬を
匙ですくうと、小さな瓶へと詰めていく
リリィ「~~~♪」
リリィ「・・・あれ?」
リリィ「薔薇色の瓶が足りない・・・・・・」
リリィ「あと一個分なんだけど・・・」
リリィ「・・・・・・」
リリィ「まぁ、これでいっか!」
リリィ「さすがの私も忘れない! はず!!」
リリィは隣にあった”菫色の瓶”を持ち上げて、最後の一匙を瓶に詰めた。
リリィ「ふわぁ・・・ 終わったぁ」
リリィは大きな欠伸をすると、
そのままふらりとベッドに横になった──
〇暖炉のある小屋
「リリィ、いるか?」
リリィ「ん~・・・・・・」
トントンと軽く鳴った扉と、
聞き慣れた声に、
リリィは寝ぼけ眼のまま扉を開けた
リリィ「ジル、いらっしゃい。 準備出来てるよ」
ジルベール「助かる――何だ、まだ寝てたのか?」
慣れた様子で庵に入って来た男に、
リリィは目を擦りながら籠に入れておいた菫色の瓶達を渡す
リリィ「騎士ってお仕事も大変ね 毒に慣れろ、だなんて」
ジルベール「まぁ、色々あるからな」
そう言って肩を竦めた男――ジルベールはこの国の騎士だ
色々と薬の知識を必要とする国と魔女は、
大っぴらに言えはしないけれど繋がっていることが多く、
この国も例外ではなかった。
ちょうどリリィが『フローリルの森の魔女』の名を継いだのと同じ頃に新たな繋ぎ役になったのが、この男だ
リリィ「薄めてあるから命に関わる事はないと思うけど、一応こっちが解毒薬ね」
籠の隅に数本入れてある藤色の瓶を指したリリィに頷いて、ジルベールはふと視線を室内に向ける
ジルベール「あれは?」
ジルベールが作業台の上にぽつんと残されている”菫色の瓶”を指した
リリィ「あれ?」
リリィ(作った分は全部籠に入れておいたはずなのに)
リリィ「・・・・・・入れ忘れたのかな?」
リリィ(何だっけ。 何か、避けておいた理由があったような・・・・・・??)
首を傾げつつも、
リリィはその”菫色の瓶”を籠に入れた
ジルベール「じゃあ、また来る」
リリィ「おつかれさま~」
帰って行くジルベールの背中を、
リリィは小さく欠伸をしながら見送った
〇暖炉のある小屋
リリィ「っあぁぁぁぁぁっっっ!!」
お気に入りの薬草茶を淹れて、
焼きたてクッキーの味見などしていたリリィは唐突に思い出した
あの最後に加えた”菫色の瓶”の中身
本来あれは、”薔薇色の瓶”に入れるべき物だった、という事を
リリィ「ど、どうしよう・・・・・・」
ポトリと、リリィの手から
食べかけのクッキーが落ちた
〇暖炉のある小屋
ジルベール「リリィ、いるか!?」
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リリィのうっかり具合から始まるドキドキな展開、そしてジルベールとのラブラブなラスト、とってもステキです!すごく気分が上がりますね!
媚薬って見た事もないけど、とても興味をそそられました。魔女がやらかした失敗だけに、何か意味深ですねー。調合はどのようなものなんでしょうか!?
読みながら「あっ!」と思いましたが、案の定飲んでしまったんですね。笑
つい忘れることはあると思うんですが、よりによって媚薬とは。
責任取らされても仕方ないですね。笑