「あかん阪神優勝してまう!」はフラグです

水道水

あかん阪神優勝してまう!(脚本)

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〇レトロ喫茶
  晩春、とある喫茶店にて
佑莉(ユリ)「久しぶり」
奏汰(カナタ)「おっす」
茜(アカネ)「やっほー佑莉ちゃん」
佑莉(ユリ)「慎二くんはまだ来てないんだ」
奏汰(カナタ)「あいつはいつも遅れてくるからな」
茜(アカネ)「困ったもんや」
佑莉(ユリ)「ふふ、そうだね」
佑莉(ユリ)「・・・」
佑莉(ユリ)「すいませ~ん、メロンソーダください」
奏汰(カナタ)「あっ僕もコーヒーのおかわりお願いします」
茜(アカネ)「ええな、あたしもレイコー欲しい」
  はーい、少々お待ちください
ウェイター「お待たせしましたコーヒーと」
ウェイター「彼女さんにはメロンソーダですね」
佑莉(ユリ)「あ、いえ、私は」
茜(アカネ)「あっ、一応あたしが彼女でーす!」
茜(アカネ)「彼がイケメン過ぎてこの1年ずっと見守ってても飽きませんわ」
奏汰(カナタ)「たはは」
ウェイター「これは失礼しました それではごゆっくりどうぞ」
奏汰(カナタ)「どうも」
佑莉(ユリ)(『彼女』か・・・)
佑莉(ユリ)(・・・もう1年か)
佑莉(ユリ)「ここに来る途中、前に茜ちゃんから聞いた話を思い出したんだ」
佑莉(ユリ)「奏汰くんの話なんだけど」
奏汰(カナタ)「え、茜変なこと言ってないよね?」
茜(アカネ)「むふふ」
佑莉(ユリ)「えっと、のろけ話だね」

〇部屋のベッド
奏汰(カナタ)「わんわん」
茜(アカネ)「どしたん奏汰、四つん這いですり寄って来て」
奏汰(カナタ)「犬です」
茜(アカネ)「ふふ、自分、犬ですってなんやねん」
奏汰(カナタ)「くーん(上目づかい)」
茜(アカネ)「例のCMのチワワか! 甘え上手のわんころめ」
茜(アカネ)(たまにじゃれてくるしっかり者彼氏、かわええ)
茜(アカネ)「しゃあないな(なでなで)」
奏汰(カナタ)「わんわんお!」
茜(アカネ)「ふふ、よし、お手!」
奏汰(カナタ)「ふんすっ(ぽんっ)」
茜(アカネ)「よぉ出来ました」
奏汰(カナタ)「ふんすふんす」
茜(アカネ)「次、これ取ってきや(枕を放り投げる)」
茜(アカネ)「奏汰、GO」
奏汰(カナタ)「わおん」
奏汰(カナタ)「わふ」
茜(アカネ)「ってうおおお!そんなんどっから持ってきたねん!」
茜(アカネ)「はよ放れ!」
奏汰(カナタ)「へへへ」
奏汰(カナタ)「・・・」
奏汰(カナタ)「わおーん!(茜に抱き着く)」
茜(アカネ)「あっ急にコラ、この大型犬め!」
奏汰(カナタ)「ぎゅー」
茜(アカネ)(こりゃしばらく離してもらえんな)
奏汰(カナタ)「・・・大好きだよ、茜」
茜(アカネ)(耳元で囁くなー!)

〇レトロ喫茶
佑莉(ユリ)「印象に残る話でした」
茜(アカネ)「奏汰、女子トークは彼氏の痴態が筒抜けになるもんや」
奏汰(カナタ)「こうなったら茜の痴態もバラしてやる」
佑莉(ユリ)「聞きたいな」
茜(アカネ)「ちょっ、奏汰!」
奏汰(カナタ)「例えばアイスを食べようとしたとき」

〇一人部屋
茜(アカネ)「ごろにゃん!(スリスリ)」
奏汰(カナタ)「おわ、虎がすり寄って来た!」
茜(アカネ)「・・・」
茜(アカネ)「あかん阪神優勝してまう! 今年のタイガースは敵なしや!」
茜(アカネ)「道頓堀ダイブも待ったなし!」
  そう、茜は阪神ファンだった
  ちなみに野球ファンの間では「あかん阪神優勝してまう」は有名な死亡フラグである
  優勝を確信するも優勝を逃すアレだ
茜(アカネ)「ってあたしは虎とちゃうわ!」
茜(アカネ)「明らかにかわいい子猫やん!」
奏汰(カナタ)「ふふ、自分でかわいい子猫とか言うのか」
奏汰(カナタ)「ところで茜もアイス食べる?」
茜(アカネ)「にゃーご」
奏汰(カナタ)「チョコミントでいい?」
茜(アカネ)「シャーッ!」
奏汰(カナタ)「チョコミントNGなのね!?」
奏汰(カナタ)(俺は割と好きなんだけどな)
奏汰(カナタ)「じゃあバニラは?」
茜(アカネ)「にゃんにゃん!」
奏汰(カナタ)「バニラね」
茜(アカネ)「あー(口を開ける)」
奏汰(カナタ)「なに? 食べさせてほしいの?」
奏汰(カナタ)「ったく、しょうがない虎ちゃんだなぁ はい、あーん」
茜(アカネ)「がおおぉん・・・」
  パクッ
  スリスリ(奏汰の胸に頭を擦り付ける)

〇レトロ喫茶
奏汰(カナタ)「という感じで餌付けしたり」
茜(アカネ)「奏汰め、いつか祟ったる」
奏汰(カナタ)「他にも・・・」
茜(アカネ)「わーわー、閉店ガラガラ!」
奏汰(カナタ)「ってこれ俺も自滅してるな」
佑莉(ユリ)「はぁ聞いてるこっちが照れちゃう」
佑莉(ユリ)「・・・でも茜ちゃんらしいね」
佑莉(ユリ)(・・・)
佑莉(ユリ)(意外と元気そうで良かった)
佑莉(ユリ)(・・・)
佑莉(ユリ)(悪い気がするけど言わないと整理付かないな)
佑莉(ユリ)「急だけど実は私、奏汰くんのことが好きです」
茜(アカネ)「ぶっこむやん」
???「丁度いいから俺も白状するぜ」
慎二(シンジ)「実は俺も茜ちゃんのことが好きだった」
茜(アカネ)「昼ドラか!」
佑莉(ユリ)「慎二くんいつから」
慎二(シンジ)「禊なら付き合うよ、佑莉ちゃん」
奏汰(カナタ)「・・・」
奏汰(カナタ)「遅刻して開口一番がそれか」
奏汰(カナタ)「でも話してくれてありがとう」
奏汰(カナタ)(2人とも義理堅いから今まで黙ってたんだな)
奏汰(カナタ)(でも気持ちを区切るには良い日だ)
  今日は茜の一周忌だから

〇アーケード商店街
  一年前
  茜の地元・大阪に訪れて飲んだ帰り
  グリコマークの映える道頓堀・えびす橋に差し掛かったころ
佑莉(ユリ)「茜ちゃん、今年の阪神はすごく強いらしいね」
茜(アカネ)「せやな、今年は優勝いららきよ!」
  茜は泥酔していた
慎二(シンジ)「景気いいねえ」
慎二(シンジ)「そういや阪神ファンは優勝すると、ちょうどこの橋から道頓堀にダイブするんだっけ?」
茜(アカネ)「そーゆーファンもおるな」
奏汰(カナタ)「茜もやりそ~」
奏汰(カナタ)「でも危ないから勢いで飛び込んだりしたらアカンすよ!」
茜(アカネ)「そりゃ危ないし汚いし絶対飛び込まへんわ、ボケ♡アホ♡」
  そう言いつつ、茜は欄干によじ登った
  あの発言は俺の人生で最大の失策だった
  意図せずも「フリ」をして、ノリボケに敏感な関西人心を刺激してしまったのだ
  「押すなよ」は「押せ」だし、「飛び込むな」は「飛べ」なのだ
茜(アカネ)「あかん阪神優勝してまう~! よっしゃ優勝前祝いや!」

〇水の中
  そして彼女は酔った勢いでフライング優勝ダイブをした
  結果、川底の不法投棄物に引っかかり浮上出来ず

〇アーケード商店街
  彼女は助からなかった
  何の因果か
  その年阪神は紙一重で優勝を逃した

〇レトロ喫茶
慎二(シンジ)「さあ、みんな揃ったし墓参り行こうか」
  3名様お帰りでーす
茜(アカネ)「声も姿も見えんのは難儀やで」

〇墓石
  線香燻る茜の墓前
茜(アカネ)「ほんまアホな死に方で悲しませて堪忍や」
茜(アカネ)「今まで2人とも気まずかったろうに友達でいてくれてありがとな」
茜(アカネ)「そんで心配なのは奏汰や」
奏汰(カナタ)「ッ・・・」
佑莉(ユリ)(本当はまだ)
慎二(シンジ)(辛いよな)
慎二(シンジ)「先行こうか」
茜(アカネ)「佑莉ちゃんも私に気ぃ遣わんと奏汰とくっついてええで」
茜(アカネ)「もう私もいかなあかんわ」
茜(アカネ)「ほな奏汰、気張りや」
茜(アカネ)「生まれ変わったらまたよろしゅうな」

〇桜並木
  そして季節は巡る

〇神社の出店

〇銀杏並木道

〇イルミネーションのある通り

〇おしゃれなリビングダイニング
  やがて、5年後の晩春
慎二(シンジ)「新居祝いに来たぜ」
慎二(シンジ)「おっ、朱莉ちゃん歩き始めてる」
奏汰(カナタ)「もう1歳だからな」
佑莉(ユリ)「次は言葉ね」
朱莉(アカリ)「あ、う」
奏汰(カナタ)「とか言ってたら喋りそうだぞ!」
慎二(シンジ)「静かに!」
朱莉(アカリ)「ま」
佑莉(ユリ)(ママが最初の言葉かな?)
朱莉(アカリ)「・・・」
朱莉(アカリ)「ぱ」
慎二(シンジ)(仕切り直した!?)
奏汰(カナタ)(パパに忖度したのか!?)
朱莉(アカリ)「・・・」
朱莉(アカリ)「あかん阪神優勝してまう!」
「なんでやねん!」

コメント

  • 奏汰と佑梨は同じ人物を心から好きでいたことへの共感から愛情になったんでしょうね。自分達の娘に茜ちゃんの名前を入れたこと、深いリスペクトを感じます。茜ちゃんがきっと2人を見守ってくれているでしょうね。

  • 読んでて途中で、「え?」ってなりました。
    あかねさんはもう亡くなってたんですね。
    自分が亡くなってなお、周囲の人のことを考えられるいい女ですね。

  • 死に方が少し可哀想な気もしますが…。
    終わり方がとてもよかったと思います!
    けど全員、それぞれの道で幸せになってほしいなぁとも思ってしまいます…。

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