まだ色のつかない心

テラケイ

色のない少女と色の見えない青年(脚本)

まだ色のつかない心

テラケイ

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〇雲の上
  この世界で一番最初に手にする色は
  赤らしい
  生まれて、産声を上げる赤ん坊
  その薔薇のような赤い頬
  それが、世界が最初に与える祝福

〇華やかな寮
  私には色がない
  赤ん坊の頃から
  産声も上げず、白い頬で、無表情に
  色もなく母を見上げたらしい
  私は、世界から祝福を受け取れなかった
「あの子でしょ、色のない子って」
「ふつう、高校生になったら 大人と変わらないぐらい色づくものなのに」
「髪の毛どころか、瞳も色がない」
「赤ん坊だってほっぺただけは赤いのに あの子は顔色すらないよ」
「成長しても色がないなんて かわいそうに」
「・・・ちょっと、不気味だね」
  この世界は、成長していくにつれて
  自分の色が増えていく
  赤ん坊の頃は赤だけの色が
  少しずつ青も黄色も緑と増えていき
  人は大人になっていく
モモ「私は、最初からなにもないけどね・・・」
モモ「どうだっていいけど」
モモ「・・・家、帰りたくないな」

〇華やかな広場
モモ「次のお休みの日に またお母さんが予約した病院に行くんだっけ」
モモ「違うお医者さんに見てもらっても どうせ原因不明って診断されるのに」
モモ「お母さんは、異常が見つかるまで 私を病院に連れていくんだろうな」
モモ「・・・異常があったほうがいいのかな」
モモ「私は生まれたときから私のままなのに」
「あ、しまった!!」
モモ「え」
モモ「・・・水?」
シキ「本当にごめん! ホースから思ってたより水が勢いよく出て そっちまで飛んじゃったみたい」
モモ「いえ、大丈夫です ぬれただけなんで」
シキ「びしょぬれじゃないか! えっと、タオルタオル・・・」
モモ「いえ、いずれ乾くので」
シキ「そういうわけにはいかないよ ええっと・・・タオルないな どうしよう」
モモ(この人、私のことをふつうに見るな)
シキ「そうだ! ついてきて!」
モモ「え、ちょっと・・・」

〇公園のベンチ
シキ「本当にごめんね 俺の不注意で」
モモ「いえ、服は乾くので」
モモ「代わりの服とか買ってもらっちゃいましたし」
モモ「お母さんに何て言おうかな・・・」
シキ「はっ!? もしかして・・・ 女子高生に服を買う俺って」
シキ「不審者なのでは!?」
モモ「・・・そこまででは せいぜい変な人程度です」
シキ「あんま変わらなくない!?」
モモ(最初は、服を濡らした罪悪感で 私と普通に話してるのかと思ったけど)
モモ(全然態度が変わらない)
モモ(お母さんだって、 目をあわせてしゃべらないのに)
モモ「・・・あの」
シキ「え、どうしたの? もしかして風邪引いた? 風邪引きそう!?」
モモ「そうではなくて さっきは、公園で何をしてたんですか?」
モモ「あんなに水をぶちまけて」
シキ「ああ、あれは・・・」
シキ「虹の形をとろうと思ったんだよ」
シキ「虹を手でさわってみたくてね」
モモ「虹? あの薄暗い時に虹は見えないんじゃ・・・」
シキ「え!! そうなの!?」
シキ「それじゃ、虹も何もないところの空気を 僕は一生懸命つかまえてたんだ・・・」
モモ「えっと、虹がないのわからなかったんですか?」
シキ「あー・・・うん あはは」
シキ「僕、色が見えないんだよね だから、虹ってよくわからないんだ」
モモ(ああ だからか)
モモ(だから私と普通に話せるのか)
シキ「虹って世界の架け橋 この世界が愛されている証とかいうから」
シキ「どんなものか知りたかったんだ」
シキ「無駄なことをしていた上に 君に迷惑をかけちゃったけど・・・」
シキ「変だよね、俺って みんなの色のことがわからないんだ」
モモ「・・・いいえ 変じゃありません」
モモ「色のない私のほうが変ですよ」
シキ「色がない・・・?」
モモ「そうですよ 人から変な目で見られるのは私です 気味が悪いのは私なんです」
シキ「・・・それは変だね」
モモ「・・・」
シキ「見とれて、ホースを持つ手が狂うくらい 君はきれいなのに」
モモ「え」
シキ「・・・って、もうこんな時間だ! そろそろ帰らないと親御さんが心配するよ!」
モモ(ごかました)
シキ「えっと それじゃ、解散する・・・?」
モモ「いえ、送っていってください 夜道は危険なので」
シキ「確かに、君はきれいだから危ない・・・」
シキ「じゃなかった! ごめん、気持ち悪いことばっかり言って!」
モモ「うそなんですか? やっぱり、私は気持ち悪いんですか?」
シキ「ち、違うよ! 君はきれいだよ!」
モモ「なら、送っていってください」
シキ「う、うん・・・」
モモ(やっぱり変だな、この人)
モモ(でも、嫌いじゃないと思う いつもは憂鬱な帰り道だって)
モモ(それは全部あなたのせいなのかな?)
モモ「あなた、顔が赤いわ」
シキ「そ、そんなの 君のせいだよっ!」
シキ「って、うわっ! て、手をつなぐのっ!?」
モモ「うん だって、つなぎたくなったの」
モモ(このまま この人の赤が私にうつればいいのに・・・)

コメント

  • お互いの違いを受け止めて認め合えるのって素晴らしいですよね。違いがあるとそこを考えてしまいがちですが、それをポジティブに捉えれるストーリーでよかったです。

  • 自分が抱えているコンプレックスというのは、ほかの人からしたら気にもとめないようなことなのかもしれませんね。それに今回のようにお互いのコンプレックスが絆を深めるきっかけにもなる、心あたたまる優しいお話ですね。

  • 心温まるような、ドキドキして心が躍るような、そんな素敵な作品でした。
    かっこいいセリフをさらっと言える彼がかっこよすぎます!笑

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