こっち見て、先生

たぶちきき

エピソード1(脚本)

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〇桜並木
  高3の春。
  アタシは恋をした。
  相手は新任のセンセイ。
  担当教科は美術。
  一目惚れだった。

〇美術室
後藤 早美「先生! 好きです!」
後藤 早美「アタシと付き合って下さい!」
黒崎 佐「・・・」
黒崎 佐「そうですか」
後藤 早美「そうですかって! 反応うっす!」
後藤 早美「もっと他にリアクションあるじゃん!?」
黒崎 佐「話は以上ですか?」
後藤 早美「え、うん。まあ・・・」
黒崎 佐「では、ちゃんと教室に戻ってくださいね。後藤さん」
後藤 早美「・・・」
後藤 早美「またはぐらかされたぁ・・・」

〇学校の廊下
後藤 早美「くそーっ」
後藤 早美「先生ってばいっつもはぐらかすだけで、きちんと返事してくんないんだよなぁ・・・」
後藤 早美「はあ・・・」
後藤 早美「やっぱ、脈なしなのかなぁ」
田辺「おい、後藤」
後藤 早美「ん?」
田辺「さっきの授業サボったろお前」
後藤 早美「うげっ」
  数学の田辺だ。
  こいつネチネチしててしつこいんだよなぁ。
田辺「お前は本当に卒業する気あるのか?」
田辺「まったくいつもいつも・・・」
  あ、でも卒業出来なかったらもう1年高校にいれるのか・・・
  そうしたら先生ともう1年一緒にいられるわけで・・・。
後藤 早美「それはそれで、悪くないかもなぁ・・・」
田辺「はあ? お前、なに言ってるんだ」
後藤 早美「あ、いや・・・」
田辺「ともかく! これ。あとこれとこれ」
  言われて、田辺に無理矢理手渡されたものは、テキスト。
  そして、テキスト、テキスト。
  見ただけで、おえってなる。
後藤 早美「これ全部?」
田辺「当たり前だろ」
田辺「付箋で貼っている範囲、全部やってこい」
後藤 早美「ええーっ!?」
田辺「じゃないとマジで卒業できないからな!」
後藤 早美「ま、まじかぁ・・・」

〇教室
後藤 早美「う~っ」
後藤 早美「だめだ! 全然わからん!」
後藤 早美「そもそも授業に出てないんだから、こんな問題わかるわけないじゃん」
後藤 早美「つーか、今それどころじゃないんだけどなぁ・・・」
  目を瞑れば、思い出す。

〇黒背景
  先生の、笑顔。
  耳には鮮明に刻まれた、その声。
黒崎 佐「後藤さん」
  あぁ、やっぱ好きだなぁ。
  見た目もイケメンだし。
黒崎 佐「後藤さん?」
  そう。この声が好きなんだ。
  ちょっと甘くて・・・低い声が・・・
  ん?
  声、が・・・?
  なんだか今、本当に声が聞こえなかったか?
  違和感を感じて、私はゆっくりと目を開ける。

〇教室
後藤 早美「・・・」
黒崎 佐「・・・」
後藤 早美「うっわ! 黒崎先生!?」
  い、いつの間に・・・!
黒崎 佐「さっきからずっと呼んでましたよ? 寝てたんですか?」
  うわっ、妄想に耽ってる顔見られたかな?
  は、恥ずかし~~~っ。
黒崎 佐「これは・・・」
  先生は不思議そうな顔で私の手元を覗き込んでくる。
黒崎 佐「数学、ですか?」
後藤 早美「え、あぁ。 課題、出されちゃって・・・」
黒崎 佐「課題を早めに終わらせようという心掛けはいいことですが・・・」
黒崎 佐「こういうのは家でやるものですよ」
後藤 早美「でも、家じゃ集中できないしさ」
黒崎 佐「・・・」
後藤 早美「ま、どっちにしても自力じゃ解けないんだけどね!」
後藤 早美「アタシ、頭悪いからさ!」
黒崎 佐「・・・」
黒崎 佐「どこですか?」
後藤 早美「へ?」
黒崎 佐「分からないとこはどこですか?」
後藤 早美「・・・先生、数学わかんの? 美術なのに?」
黒崎 佐「これでも先生ですからね」
後藤 早美「・・・いいの?」
後藤 早美「教えてもらっちゃって」
黒崎 佐「ええ。教師という生き物はね、生徒の教えてくれと言われて悪い気はしないものなんですよ」
後藤 早美「・・・そういうもん?」
黒崎 佐「そういうもんです」
  あぁ、やっぱり。
  先生が好きだ。
  その笑顔も。
  不器用な、優しさも。

〇教室
黒崎 佐「ん、上出来です」
後藤 早美「うおーっ! 解けたーっ!」
黒崎 佐「やはり、後藤さんはやれば出来る子ですね」
後藤 早美「そっかなぁ? えへへっ」
後藤 早美「先生の教え方もわかりやすかったよ!」
黒崎 佐「それは、どうも」
後藤 早美「・・・」
後藤 早美「先生、照れてる?」
黒崎 佐「馬鹿言ってないで、そろそろ帰りますよ」
黒崎 佐「もうこんな時間ですから」
  あ・・・
  今、またはぐらかされた・・・?
後藤 早美「・・・」
後藤 早美「ねえ、先生」
黒崎 佐「ほら、帰る準備してください」
後藤 早美「先生」
黒崎 佐「もう下校時間ですから・・・」
後藤 早美「先生!!」
黒崎 佐「・・・!」
黒崎 佐「なん、ですか・・・?」
後藤 早美「先生さ、アタシのことどう思ってる?」
黒崎 佐「急になにを・・・」
後藤 早美「アタシはさ、先生のこと好きだよ」
黒崎 佐「・・・!」
後藤 早美「本気だよ」
後藤 早美「アタシ、先生の恋人になりたい」
後藤 早美「先生が、好きだよ」
黒崎 佐「っ・・・」
後藤 早美「やっぱ、迷惑? こういうの」
黒崎 佐「迷惑、とかでは・・・」
後藤 早美「じゃあ、なんでちゃんと言ってくれないんだよ!!」
黒崎 佐「・・・」
後藤 早美「嫌なら、嫌って、言ってよ」
後藤 早美「ちゃんとフッてくれ・・・」
後藤 早美「そしたら、アタシもちゃんと諦めるからさ・・・」
黒崎 佐「・・・」
黒崎 佐「あんまり・・・」
  先生の声が震えているように聞こえた。
黒崎 佐「あんまり困らせないでください」
後藤 早美「そ、それって・・・」
黒崎 佐「後藤さん」
後藤 早美「な、なに?」
黒崎 佐「僕は教師です」
後藤 早美「うん」
黒崎 佐「君は生徒です」
後藤 早美「・・・うん」
黒崎 佐「君が卒業するまで、あと1年です」
後藤 早美「うん」
黒崎 佐「それまで、待ってもらえませんか?」
後藤 早美「・・・」
後藤 早美「まじで?」
黒崎 佐「まじです」
後藤 早美「~~~っ!」
後藤 早美「先生・・・先生!」
黒崎 佐「はい?」
後藤 早美「ハグだけ!」
後藤 早美「5秒でいいから!」
黒崎 佐「はぁ・・・」
黒崎 佐「仕方ないですね」
  先生は困った顔でそう言って、
  まるで包み込むように、私を抱きしめてくれた。
後藤 早美「~~~~~っ!」
  最高の瞬間だ!
黒崎 佐「後藤さん」
後藤 早美「は、はい」
黒崎 佐「みんなには内緒にしてくださいね」
後藤 早美「え、なに・・・?」
黒崎 佐「後藤さん」
黒崎 佐「僕はあなたが好きですよ」

コメント

  • 黒崎先生の最後の一言に、ズッキュンとやられました!
    最後にそれはズルい!
    禁断の恋、とってもドキドキしました〜(^^)
    一年後、二人が幸せな未来を歩いていれますように✨

  • 終わり方すごくよかったです!
    先生にはその気がないのかな?と思ってましたが、ちゃんと好きだったんですね!
    彼女も一途でかわいいです。

  • 早美の真っ直ぐな恋心が、見ていてとても気持ちいいですね。全エネルギーをぶつけるような感じで。ラストにはキュンとさせられてしまいました!

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