バーチャル彼氏が、あなたの彼氏になるまで(脚本)
〇テーブル席
――喫茶店
蒼真「あー・・・えっと・・・ その、いきなり店に誘ってごめんな」
蒼真「どうしても悩んでることがあって・・・ それで、お前のことが思い浮かんで声をかけたんだ」
蒼真「ほら・・・たしか、お前・・・ 高校だと演劇部に入っていて、台本とかも書いてたんだろ?」
蒼真「演技とか、台本作りとか・・・ そういう経験がある、女性の人に頼りたいことがあってさ・・・」
蒼真「あー。その・・・ なんというか、ちょっと恥ずかしいんだけどさ・・・」
蒼真「俺、お前にお願いしたいことがあって──」
――女の子が胸キュンするようなセリフ、
どんなのか教えてくれない?
〇男の子の一人部屋
――その日の夜
蒼真「よし・・・」
『やぁやぁ! みんなの彼氏こと
ソウマくんの、一週間ぶりの配信だよ~』
『配信待機してくれた子たちも、ありがとう!
今日はツイートで予告してたとおり、ボイス関係の内容をやっていくよ』
『まずは視聴者さんから募集したセリフの中から、面白そうなのを選んで演技したりとかかな?』
『それが終わったら、来月に公開する予定のシチュエーションボイスについてもお話しよっか!』
『じつは台本とかをどうするか迷ってたんだけど、良いライターさんに巡り合えてね・・・
あっ、そのへんは後でまた話すけど』
『じゃあ、とりあえず――
まずはセリフ演技のほうから・・・』
〇テーブル席
――翌日
蒼真「・・・で、昨日 俺、ネット配信をやってたんだけどさ・・・見てくれた?」
蒼真「あー、うん。ありがと・・・ いや~! やっぱマジで、リアルの知り合いに見られたってなると恥ずかしいなぁ・・・」
蒼真「まあ・・・あんな感じでさ よくあるバーチャル系の配信者ってわけ」
蒼真「あと、ネット上のファンクラブも開設していて・・・ たまにそこでシチュエーションボイスとかも公開してるんだよ」
蒼真「配信の再生回数と投げ銭、ファンクラブの収入を合わせると・・・ 毎月、4万か5万くらいの月収かな?」
蒼真「そこそこ金にもなるし、だからこそ・・・ もう少しクオリティーも上げたいなー・・・って思ったんだよ」
蒼真「俺の場合は女性をターゲットにした内容だからさ・・・ お前のアドバイスとか、貰えるとめちゃくちゃ助かる」
蒼真「・・・それでさ 次のシチュエーションボイス、どうするか迷ってるんだけど──」
〇男の子の一人部屋
蒼真「・・・あ~、あ~、あ~」
蒼真「――うん、よし 試しに、少し録音してみるかぁ」
蒼真「・・・」
『・・・どうしたの?
なんだか調子、悪そうだけど』
『あはは・・・
昨日のデートで、はしゃぎすぎて疲れちゃった?』
『いいよ。ゆっくり休んでて
買い物とかはオレが済ませておくから』
『あっ・・・
なにか欲しいものとかある?』
『・・・えっ?
キスしてほしい?
あははっ。甘えん坊なんだから』
『・・・しょうがないなぁ』
『・・・』
蒼真「う、うわっ! は、はずかしぃっ!?」
蒼真「はぁ~・・・ 男のセンスだと、ここまでゲロ甘なセリフは考え付かないよなぁ」
蒼真「まぁ・・・たぶん こういうのが好きなんだろうなぁ、女の子って」
蒼真「よし・・・ とりあえず、何度か録ってみるかぁ」
蒼真「・・・」
〇テーブル席
――数か月後
蒼真「・・・でさぁ あの動画がとくに再生数が伸びたんだよね」
蒼真「やっぱり、お前の台本のおかげだよな~ 最初の時と比べて、チャンネル登録者数とかも倍以上に増えたし」
蒼真「・・・あっ。そうそう 今月の収益、けっこう多かったんだよ ・・・お前にも、還元しないといけないよな」
蒼真「ん~・・・ その・・・」
蒼真「どっか行きたいところとか、あったりする? 俺の奢りで、一緒に遊びにいったりとか・・・どうかなって・・・」
蒼真「あっ、いや・・・ 無理に、ってわけでもないけど・・・」
蒼真「・・・考えといてくれるか?」
蒼真「ははっ・・・ ありがとう お前には本当に世話になってるから・・・恩返ししなきゃって、俺も思ってて」
蒼真「あっ・・・ べつに、恩を返したいから、ってだけでもなくて・・・」
蒼真「いや・・・ き、気にしないでくれ・・・」
蒼真「・・・」
蒼真「あのさ・・・」
蒼真「今度の台本なんだけど ・・・俺がひとりで考えてもいいか?」
蒼真「ちょっと、試したいことがあってさ。 出来上がったら、いっかい録音して・・・ お前に聴いてもらいたいなって思ってる」
蒼真「その時は・・・よろしくな」
〇部屋のベッド
――数日後の夜。
彼から送られてきた、その音声ファイルを開く──
〇テーブル席
『・・・悪いな
いきなり店に誘って』
『今日は・・・お前に話したいことがあったんだ』
『俺たち・・・けっこう長い付き合いだけどさ
なんというか、不思議な関係だよな』
『たまにこうやって喫茶店で・・・
共通の趣味について話したり、悩み相談をしたり』
『俺にとって、お前は・・・
仲のいい友達って感じだった』
『でも・・・最近、思ったんだ』
『この前、お前と・・・
デート? と呼んでいいかはわからないけど、一緒に遊びに行ってさ』
『ああ、楽しいな――って』
『・・・もっと、いろいろ話したり
もっと、いろんなことしたり
一緒にいたい――そう素直に思ったんだ』
『・・・ぁ・・・ちょっと、恥ずかしいな
これ、言うの・・・』
『え~っと・・・』
『お前がよければ・・・』
『・・・』
〇テーブル席
『――恋人として
俺と付き合ってほしい』
確かに、男性向けと女性向けという文化ってありますよね。異性の心に刺さるものが、リアルから逸脱した感じのフォーマットだったりと。でもやっぱり、告白はリアルな思いで紡いだ言葉が一番ですよね、本作のラストのように。
恋愛経験にもよるかもしれませんが、男性でも女性が抱く感情をより理解できるタイプっていると思うので、これから彼女との付き合いがスタートできたら、是非彼が台本を書いてほしいですね。私が若い頃から好きなアーテイストが、特に別れの際の女性の心情を表現するのに秀でているので、ふとそう思いました。
たしかにこういったセリフは女性にアドバイスしてもらったほうがいいですよね。
シチュエーションボイスは男女で内容がだいぶ違いますよね。
女性には耳かきボイスの良さがいまいちわからないような感じでしょうか。