読切(脚本)
〇神社の本殿
──およそ100年前
少女「あの、もう会えないってどういう・・・」
青年「・・・」
青年「っ・・・」
青年「・・・そのままの意味だよ」
少女「そんな・・・突然どうしてですか?」
青年「縁談が決まったんだ」
少女「──っ!」
少女「そう・・・です、か・・・」
〇神社の本殿
少女「わっ・・・」
〇神社の本殿
青年「あ・・・髪に葉が──」
少女「うぅ・・・」
ツゥーっと少女の頬を涙が伝っていく。
青年「・・・」
青年「・・・ごめん」
青年は伸ばしかけた手をそっと下ろした。
〇白
もし生まれ変わって
また出会えたなら
その時はどうか──
〇レトロ喫茶
──現在
あかり「はぁ」
あかり(生まれ変われたのはいいけど・・・)
今のところ、彼とは巡り合えていない。
あかり(私、無駄に大往生しちゃったのよね)
100歳
それが前世のあかりが亡くなった年齢だった。
あかり(彼はどのくらい生きたんだろう)
あかり(早くに亡くなって、ずっと前に生まれ変わっていたら)
──もうとっくに妻子持ちかもしれない。
あかり(ダメよ! まだ希望を捨てるのは早いわ!)
ブンブンと頭を左右に振って、マイナスな思考を振り飛ばす。
あかり「ふぅ」
〇街中の道路
〇レトロ喫茶
あかり「・・・」
あかり(あれって──)
店長「大きな音したけど、だいじょ──」
あかり「すみません! 体調悪いので早退します!」
店長「え?」
店長「あ、お大事に・・・」
〇川に架かる橋
あかり「あのっ!」
男性が足を止めて振り返る。
あかり(やっぱりそうだ)
あかり(やっと会えた!)
男性は大きく目を見開いて、あかりを凝視している。
青年「君は・・・」
あかり「私のこと覚えてますか!?」
あかりは男性に一歩詰め寄る。
男性は仰け反って、パチパチと数回瞬きをする。
青年「えっと・・・ごめんなさい?」
青年「どこかで会ってた・・・かな?」
あかり(うそ。覚えてないの?)
困り顔の男性の瞳に、戸惑うあかりの姿が映っている。
青年「あの・・・」
あかり「すみません。急に声をかけて・・・」
──覚えていなかった。
あかりの中に絶望感がぐるぐると渦巻く。
青年「・・・大丈夫?」
男性は心配そうに、落ち込むあかりに声をかけた。
あかり(彼からしたら見ず知らずの人間なのに)
あかり(優しいところは変わらないな)
あかり(そうよ)
あかり(出会えただけでも奇跡なんだから)
あかり(諦めるのはまだ早いよね!)
あかりはひとつ頷いて、男性にまた一歩詰め寄る。
あかり「あの!」
青年「は、はい」
あかり「妻子持ちですか!?」
青年「え? さ・・・え?」
あかり「奥さんやお子さんはいらっしゃいますか!?」
青年「い、いません」
あかり「恋人は!?」
青年「いません・・・」
あかりの中で希望の光が大きく輝く。
あかり「じゃあ、私と結婚してください!!」
青年「ええっ!?」
〇川に架かる橋
──30分後
青年「なるほど。話はわかったよ」
あかり「じゃあ、けっ──」
青年「結婚はちょっと急かな」
あかり「う・・・」
あかり「じゃあ、お付き合いから!」
青年「・・・」
青年「君、すごいなぁ」
青年「ビックリするぐらい情熱的だ」
困り顔から転じた男性の笑顔に、あかりは胸の高鳴りを覚えた。
〇神社の石段
あの後、あかりは交際も丁重にお断りされたが、めげなかった。
その甲斐あって男性──永時(えいじ)となんとかデートの約束まで漕ぎ着けた。
朝ウキウキで家を出たが、神社巡りが趣味だという彼に一日付き合い、夕方にはヘロヘロになっていた。
永時「ここで最後だよ!」
嬉々として彼が指差したのは、長い階段だった。
あかり(うそ・・・)
あかり「くっ・・・」
足取り軽く上っていく彼をあかりは必死で追いかけた。
〇古びた神社
あかり(ん? なんだか見覚えがあるような・・・)
あかり「とても懐かしい気がします」
あかり(そうだ! ここ、最後に会った場所だ)
永時「本当?」
永時「僕も初めて来た時そう思ったんだよ!」
あかり(前世の彼はこんな風に屈託なく笑う人じゃなかった)
けれど、あかりは彼の新しい一面を知れたようで今の彼も好ましく思っていた。
永時「ここはね、これだけじゃないんだ」
〇けもの道
彼は生い茂る木々の間を歩いて行く。
あかりは彼の後を枝や葉に注意しながらついて行った。
〇睡蓮の花園
あかり「わぁ!」
永時「綺麗でしょ? 隠れ家スポットなんだ」
永時「なんでも、家の事情で別れざるを得なかった男が、恋人を思って作ったらしくてね」
振り返った彼と目が合って、あかりの胸は脈打つ。
あかり(それって──)
永時「あ・・・髪に葉が──」
〇神社の本殿
青年「あ・・・髪に葉が──」
〇睡蓮の花園
脳裏を過ぎった記憶に、あかりは当時を思い出して切なくなった。
永時「ごめん、急に触ろうとしてビックリしたよね」
葉っぱを取ろうと伸びた手が、あかりに触れる寸前で止まる。
行き場をなくした手は、ゆっくりと離れていく。
我に返ったあかりは、その手を慌てて掴んだ。
あかり「あの・・・」
あかり「どうか取ってください」
永時「・・・」
永時「わかった」
あかり(ここからあの続きを──)
〇睡蓮の花園
気付けば、すっかり辺りは薄暗くなり、何やら転々と明かりが生まれ始める。
あかり「蛍?」
あかり「すごい! 初めて見た!」
永時「葉っぱもかわいかったけど、こっちの方が似合うね」
彼はあかりの髪に付いた光──蛍を指先ですくう。
あかり「けっ──」
永時「結婚はまだね」
あかり「う・・・」
永時「ははっ」
あかり(ん? 結婚"は"まだ?)
あかり「それって──」
永時「待って」
永時「僕から・・・ね?」
あかりがハッと彼を見上げると、そこには照れ臭そうに笑う顔があった。
永時「僕と・・・」
ごくり──
永時「お友達になってくれませんか?」
あかり「はい! もちろん!」
あかり「え? お友達?」
永時「うん」
あかり「・・・」
あかり「くっ・・・仕方ありません」
あかり「何事も順序を踏まねばなりませんからね」
あかり「ですが、覚悟しててください」
あかり「絶対結婚してみせますから!」
永時「ははっ、怖いなぁ」
あかり「ふふっ」
蛍の光を追いかけるあかりを、彼は優しい眼差しで見つめる。
その視線はどこまでも優しく──
──まるで遠い昔に思いを馳せるようだった。
〇睡蓮の花園
永時「ありがとう」
永時「この景色をやっと君と見ることができて嬉しいよ」
永時「また僕と──」
〇睡蓮の花園
あかり「今、何か──」
永時「ううん」
永時「何もだよ」
彼が秘密を教えてくれるのは、また少し先の話──。
後世においても一心不乱にただ一人の男性に想いを馳せる彼女は本当にたくましいし愛おしい人ですね。彼もすでに何か勘図いている予感もありますが、是非今世で結ばれてほしいです!
ひたむきな彼女がかわいいです。
前世で約束した彼に出会えたら、そりゃテンション上がりますよね!
最後のほうで、彼も思い出したのかな?ってところがありましたが、まずは友達ですよね。
彼女がものすごく積極的なのが笑えました。前世の彼女が思いを伝えることができなかった悔しさや寂しさが、現生でハッキリ結婚と口にする所が凄いです。