焦がれる痛み

百夏

焦がれる痛み(脚本)

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〇街中の道路
  よく晴れた休日
  駅前でショッピングでもしようと思い、私は大通りから一本外れた道を歩いていた
  この道のほうが人通りが少なく、少しだけ早く着くからだ
  (今日はどの店から回ろうかな)
  自ずと足取りも軽くなる。ヒールがリズムよくアスファルトを叩く
  そんな時だった
  突然、パンッ! と近くから高い音が聞こえてきた
  びくりと肩が跳ねる
  足を止め、音の出所を探して視線を巡らせると、
  「だいっきらいっ!」
  近くの路地から勢いよく女性が飛び出してくる
  さっきのは彼女の叫び声だったようだ。
  すれ違う直前に見た顔は涙で濡れているようだった
  (痴話喧嘩だよね、多分)
  みるみるうちに遠ざかっていく後ろ姿を見送って、私は恐る恐るその路地を覗く
  いけないことだと分かっていても、好奇心がそうさせた

〇ビルの裏
  路地裏には、壁に背を預けて項垂れる1人の男性がいた
  薄暗いことに加え、俯く彼に伴って流れる前髪が表情を隠している
  しかしながら、どうにもその佇まいに既視感があった
先輩「・・・ん?」
  気配に気づいたのか、男性はおもむろにこちらを見る
  私を捉えて一瞬丸くなった瞳は、柔らかく弧を描いていった
先輩「あれ、偶然だね」
  その正体は同じサークルの先輩だった
  整った顔立ちと親しみやすさから告白する女性は数知れず
  同じ大学に通っている学生の中で、彼の名前を知らない人のほうが珍しいのではないだろうか
  彼女には困っていないだろうに、なぜかよく私に絡んでくる不思議な人
  あの、先輩。それ・・・
先輩「ん、叩かれちゃった」
  赤くなった頬を見て、さっきの音はこれかと納得する
  よく見ると、少し腫れているようだ
  (修羅場だ・・・。というか、怪我しててもイケメンはイケメンのままなんだなあ)
  そう感心しかけて、私はハッと我に返る
  と、とにかく手当しないと。どこかでハンカチ濡らしてきますね!
先輩「待って」
  踵を返すより早く、先輩が私の手首を掴んだ
  余裕のないそれに驚き、思わず思考が停止する
先輩「・・・いいから、ここにいて」
  でも、痛いですよね?
先輩「痛いよ」
  整った顔がくしゃりと歪む
先輩「君の優しさが染みて、すげえ痛い」
  絞り出すような声に胸が締めつけられた
  私はただ呆然と彼を見つめ返す
先輩「あーあ・・・うまくやってるつもりだったんだけどなあ」
  宙を振り仰ぎ、ため息を零す
  普段は飄々としていて隙を見せない人だからこそ、こんなに弱った姿は新鮮だった
  なんで、失敗したんですか?
先輩「それ聞いちゃう?」
  あっ、すみません
先輩「いいよ。君のそういうとこも好きだから」
  ふっと彼が纏う雰囲気が変わる
  空気を震わす低い声に甘さが垣間見えた気がして、とっさに茶化すことができなかった
  何より、彼の笑顔がそれを拒んでいた
先輩「まあ、多分バレたんだと思う」
  何がですか?
先輩「知りたい?」
  はい
  何の躊躇いもなく頷く
  すると、彼は口の端を吊り上げ、力強く私の腰を引き寄せた
  あっという間に距離が縮まる。
  吐息が触れ合う
  私を覗きこむ瞳は爛々と輝いていた
先輩「『俺に本気で欲しい子ができた』ってことがだよ」

コメント

  • ギャップにドキリとさせられますね、ギャップって効果的な演出だと思います。タイトルから思いが伝わってくる感じがよかったです。

  • たまたま通りかかったわけではなく、この気持ちわ伝えるための運命だったとも捉えられますね!
    人生ってそういう道が決められてる時もあるように感じます!というかあった方がロマンチック!

  • 痴話げんかの原因がまさか自分だなんて思いもよらなかったでしょうね。付き合っているからといって他の誰よりも好きという方式は成り立たない時もありますからね。やっと先輩も好きな子一本にしぼる時がきたみたいですね。

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