橋田玲央 中(脚本)
〇劇場の舞台
40代の続木終「っ!痛、くない・・・? ここは、どこだ?」
10代の続木終「うわ、また増えた」
20代の続木終「えっと、大丈夫、ですか?」
30代の続木終「・・・お前、もしかして」
40代の続木終「そんな、馬鹿な」
40代の続木終「あれは、昔の俺だ・・・」
〇稽古場
加藤 稔「明日もよろしくね。お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
橋田 玲央「・・・・・・」
橋田 玲央(・・・明日まで)
橋田 玲央(明日までに、これを、全部)
西 龍介「いやー。いきなりでびっくりだな、玲央 明日までって中々だよな」
山本 朔「それぐらい当たり前でしょう」
山本 朔「気づいてるよな お前以外、全員台本を覚えてること」
橋田 玲央「・・・はい」
山本 朔「で?お前はどれくらい覚えてる? 台本はいつ外せるんだ?」
西 龍介「ちょっと待てよ、そんな言い方ねぇだろ 玲央はこれが初めての舞台なんだぞ」
山本 朔「だから?」
山本 朔「初舞台なら、観客は大目に見てくれます? 同じ舞台に立つ以上、観客から見れば そこに新人もベテランもないでしょう」
山本 朔「チケット代を払って、 プロの舞台を見に来てるんです」
西 龍介「それはそうだけど、俺はお前の 偉そうな態度に文句を言ってるんだ」
山本 朔「じゃあ何ですか? 俺が優しく丁寧に教えてあげれば 玲央は台詞を覚えられるとでも?」
西 龍介「あのなぁお前!」
水戸部 和人「そこまで!」
水戸部 和人「まったく きみたちが喧嘩してどうするんだい?」
山本 朔「すみません・・・ 次があるのでお先に失礼します」
水戸部 和人「謝るならおれじゃなくて玲央くんに、って もう出ちゃったか」
橋田 玲央「いえ、山本さんの言ってたことは 事実なので・・・」
水戸部 和人「事実でも、言い方伝え方ってものが あるからね」
西 龍介「そうですよカズさん! あんなに腹立つ言い方しなくても いいじゃないですか!」
水戸部 和人「ただ、龍介くんも喧嘩腰だったのは よくないね」
西 龍介「う、すみません」
橋田 玲央「あの!お二人ともありがとうございます オレ、ここが何時まで借りれるか 航さんに聞いてきます」
橋田 玲央「だから、その オレのことは気にしないでください! 大丈夫です!残って台本覚えるので!」
〇稽古場
西 龍介「ごめんな、玲央 練習付き合ってやりたいけど このあとバイトが入ってて」
橋田 玲央「いえ、気にしないでください ここを借りれるのも、 あと2時間くらいですし」
水戸部 和人「おれも次の仕事があるからもう行かないと」
橋田 玲央「はい、今日はありがとうございました」
橋田 玲央「お疲れさまでした!」
橋田 玲央「・・・・・・」
橋田 玲央「みなさんに迷惑、かけちゃったな・・・」
橋田 玲央「いや、落ち込んでる暇はない とにかく台本を覚えないと!」
〇稽古場
橋田 玲央「あんたが未来の俺だとしたら がっかりだな」
橋田 玲央「そんなくだらねぇことでうじうじしてさ あーぁ、もっとかっこいい・・・」
橋田 玲央「・・・かっこいい」
橋田 玲央「あーもー、何だっけ?」
橋田 玲央「えっと・・・」
橋田 玲央「そんなくだらねぇことでうじうじしてさ あーぁ、もっとスマートでかっこいい 大人になってると思ったのに、か」
橋田 玲央「はぁ、駄目だな。細かい部分があやふやだ ・・・どうしよう」
橋田 玲央(明日までに覚えきれなかったら 役を降ろされるのかな、やっぱり)
橋田 玲央(そんなの嫌だ せっかくオーディションに受かったのに)
橋田 玲央(でもオレの実力不足なら仕方ないか・・・)
水戸部 和人「はい。差し入れ」
橋田 玲央「み、水戸部さん!?」
水戸部 和人「名前で構わないよ 朔くんも龍介くんも、カズさん呼びだし」
橋田 玲央「それじゃあ・・・ じゃなくて!何でここにいるんですか!?」
水戸部 和人「仕事が思ったより早く終わってね 近くを通ったらまだ電気がついていたから もしかしてと思って」
水戸部 和人「あ、ちゃんとノックはしたよ 気づいてないようだったから、 勝手に入ったけど」
橋田 玲央(カズさん、お忙しいだろうに オレのためにわざわざ でも、今は休憩してる暇なんか──)
橋田 玲央「わわっ そ、そんな押し付けないでください!」
水戸部 和人「休憩する暇なんてない、って思ってる?」
水戸部 和人「それとも、 プロなら一人でなんとかしなきゃ、とか?」
橋田 玲央「・・・・・・」
橋田 玲央「はい」
橋田 玲央「オレ、舞台に立つってことを 甘く考えてたんだと思います」
橋田 玲央「オレは全然プロじゃないけど でも、お金をもらってプロとして舞台に 立つなら、台本くらい一人で覚えないと」
橋田 玲央「お客さんからしたら カズさんもオレも舞台上に立つ同じ役者、 ですもんね」
水戸部 和人「・・・ ねぇ、玲央くん 今ここに、お客さんはいる?」
橋田 玲央「えっ。それは、いません、けど」
水戸部 和人「朔くんの言ってたことは正しい おれたちはプロとして、 きてくれたお客さんを満足させ、 舞台を成功させる義務がある」
水戸部 和人「でもそれは今日じゃない きみは舞台の初日までの間に、 一ヶ月かけてプロになればいいんだよ」
水戸部 和人「ましてや玲央くんは今回が初舞台なんだ 少しは年上を頼ってくれないと おれたちも立つ瀬がないだろう?」
橋田 玲央「カズさん・・・」
水戸部 和人「舞台は一人じゃつくれない」
水戸部 和人「演出家に役者。音響や照明、広報、 劇場スタッフ、他にもたくさんの人が 集まって一つの舞台をつくりあげている」
水戸部 和人「だから、おれにも玲央くんの稽古を 手伝わせてほしいな」
水戸部 和人「それに、役者は体が資本だからね プロならしっかり休憩を取ること そうしないと集中力だって続かないよ」
橋田 玲央「はい・・・はい! カズさん、ありがとうございます!」
橋田 玲央「いただきます!」
水戸部 和人「うん。どうぞ ゆっくり食べて落ち着いたら 一緒に読み合わせしようね」
橋田 玲央「はい!オレ、頑張ります!」
〇稽古場
橋田 玲央「・・・」
橋田 玲央「ど、どうでした? 最初から最後まで 通してみましたけど・・・!」
水戸部 和人「玲央くん、きみ──」
橋田 玲央「・・・!」
〇男の子の一人部屋
橋田 玲央(稽古してたら遅くなっちゃったな)
橋田 玲央(疲れたし、もう寝ようか・・・ ん?)
橋田 玲央「龍介さんからメッセージだ」
お疲れ!
今日は一緒に残ってやれなくてごめんな
明日がんばれよ!
玲央なら大丈夫
むしろ俺のほうがヤバいかもw
橋田 玲央「龍介さん・・・」
ありがとうございます
頑張るので、見ててください!
お!大丈夫そうでよかったよ
じゃあまた明日
おやすみ
橋田 玲央(舞台は一人じゃつくれない 大丈夫。オレは一人じゃない)
舞台俳優さんのリアルな練習風景、解像度が高くて夢中になって読んでました!すごい!