橋田玲央 上(脚本)
〇劇場の舞台
幕が上がる
幕が上がって芝居がはじまること
転じて、物事のはじまりを意味する
舞台『されど、歩みは止められない』
その幕が、今、上がる
〇オフィスビル
橋田 玲央「ここ、だよな」
橋田 玲央「どうしよう・・・ 一時間も早くについちゃった」
橋田 玲央(まだ中に入ったら迷惑だよな でも、他に行くところもないし)
橋田 玲央(なんだかまだ現実感がないな ひょっとしてこれ、夢なんじゃ・・・)
?「あ!」
橋田 玲央「?」
?「玲央くん! 橋田玲央(はしだれお)くん!」
橋田 玲央「そ、そうですけど・・・ えっと、あなたは」
?「このビルで顔合わせでしょ? 僕も舞台の関係者なんだ」
?「いっつもテンション上がっちゃって 早く来ちゃうんだけど、 今日は一人じゃなくて嬉しいなぁ」
橋田 玲央「関係者の方なんですか?」
?「うん。よければ時間までお話しようよ」
橋田 玲央「はい、ぜひ!」
?「舞台楽しみだなぁ なんてったって主演の一人だもんね 玲央くん」
橋田 玲央「そうなんですけど、 実はまだ全然実感がなくて」
橋田 玲央「オーディションの時なんて、 緊張しすぎて記憶がおぼろげなんですよね」
〇オーディション会場
昔からお芝居に興味があった
この舞台のオーディションは、
演技経験がなくても応募できて
高校を卒業したら本格的に演技の勉強を
しようと思っていたし
度胸試しに受けたけど
それがまさか、合格するなんて・・・
〇オフィスビル
?「あははっ、頭が真っ白でってやつだ」
?「じゃあ、オーディションの審査員たちも 覚えてないの?」
橋田 玲央「なんとなくは覚えてるんですけど」
橋田 玲央「真ん中に座ってたのは若い男性で、 明るい赤色の髪の毛を・・・」
橋田 玲央「・・・・・・ん?」
〇オーディション会場
?「えーと、橋田玲央くん」
?「いいね。若さと勢いがある」
?「そうだなぁ。三つ目の台詞」
?「もう一回、今度は感情を抑え気味で 読んでみてくれるかな?」
〇オフィスビル
橋田 玲央「え・・・?」
?「稔!」
?「またこんなに早く来てるのか スタッフが困るって前も言っただろ」
?「だって楽しみでさぁ そういうお前だってこんな時間から 来てるじゃないか」
?「俺は設営があるからだよ 顔合わせの進行も俺がやるから、 それの打ち合わせもあるし」
?「橋田さん、すみません 稔に付き合わせてしまったようで」
橋田 玲央「えっと、あの」
?「ほらぁ、航がいきなり大声出すから 玲央くんがびっくりしちゃっただろ」
?「それじゃあ、あたらめて」
?「舞台『されど、歩みは止められない』 の演出家、加藤稔(かとうみのる)です」
?「どうぞよろしく」
〇大会議室
加藤 航「それではこれより 舞台『されど、歩みは止められない』 の顔合わせを始めます」
加藤 航「進行は私、演出助手の 加藤航(かとうわたる) が務めさせていただきます」
加藤 航「ではまず、演出家の加藤稔さん 挨拶をお願いします」
橋田 玲央(・・・・・・まずい いくらなんでもまずい)
橋田 玲央(緊張してたとはいえ、 演出家の顔も覚えてないなんて)
加藤 稔「はい。えーご紹介に与りました 演出家の加藤稔です」
加藤 稔「『されど、歩みは止められない』は 主人公、続木終(つづきしゅう)が 過去や未来の自分と向き合う話です」
加藤 稔「細かくて面倒くさい演出も たくさん指示しますが」
加藤 稔「僕はそれができるスタッフを集めました」
加藤 稔「なので、真剣に楽しく みんなで良い舞台、つくっていきましょ」
加藤 稔「で、今回のキャストは4人だけ 続木終を年代ごとに4人の役者が演じます」
加藤 稔「10代、20代、30代、40代 全員が主役で主演です それを絶対に覚えておいてください 以上でーす」
加藤 航「では続いて、10代の続木終役 橋田玲央さん、お願いします」
橋田 玲央「は、はいっ!」
橋田 玲央「えっと、10代の続木終を演じます 橋田玲央です」
橋田 玲央「その、演技経験はありませんが みなさんの足を引っ張らないように 一生懸命頑張ります よろしくお願いします!」
橋田 玲央(そうだ。今は一生懸命やるしかないんだ まずは他の役者さんやスタッフさんを しっかり覚えよう)
加藤 航「20代の続木終役 山本朔(やまもとはじめ)さんですが 前の撮影が長引いていて遅れるそうです」
橋田 玲央(山本朔さんは有名な人だし 流石に顔は知ってる)
橋田 玲央(30代の続木終役、 西龍介(にしりゅうすけ)さんに)
橋田 玲央(この人も有名な俳優さんだ 40代の続木終役、 水戸部和人(みとべかずひと)さん)
橋田 玲央(あっちに座ってるのが舞台監督の方で──)
〇大会議室
顔合わせ終了
橋田 玲央(・・・よし)
加藤 稔「さて・・・」
橋田 玲央「あの、加藤さん! さっきは本当にすみませんでした!」
加藤 稔「さっき?ああ、ビルの下でのこと?」
加藤 稔「いいよいいよ気にしないで ただまぁ、勿論気にする人もいるから 僕以外には気をつけてね」
橋田 玲央「はい!」
加藤 稔「あと、加藤じゃなくて 稔って呼んでくれると助かるな ほら、航も加藤だからさ」
橋田 玲央「あ、そっか、そうですよね 分かりました。稔さん それで、あの」
山本 朔「すみません!遅くなりました!」
加藤 稔「朔くん そんなに急いでこなくてもよかったのに」
山本 朔「そんなわけにはいきませんよ もしかして終わったところですか?」
加藤 稔「うん。たった今」
山本 朔「そうですか・・・」
水戸部 和人「おや、朔くん。久しぶりだね」
山本 朔「カズさん!お久しぶりです」
山本 朔「また一緒に舞台に立てるんですね」
橋田 玲央(話に入り損ねちゃったな・・・ いや、オレじゃ場違いか)
橋田 玲央(水戸部和人さんは、 舞台もドラマも映画もオールマイティに 出演するベテラン俳優だし)
橋田 玲央(山本朔さんは、2.5次元舞台で活躍する 大人気若手俳優だ)
橋田 玲央(こんなすごい人たちと同じ舞台に立つ ・・・大丈夫かな、オレ)
西 龍介「あんな有名な俳優たちと共演なんて 緊張するよなぁ」
橋田 玲央「そうなんですよね」
橋田 玲央「・・・ん?えっと、西さん?」
西 龍介「龍介でいいぜ、玲央 いやぁ俺も舞台の経験ほとんどないからさ 玲央がいてくれてよかった・・・って」
西 龍介「そりゃ失礼な話か。はははっ!悪い悪い」
橋田 玲央「い、いえ、別に。あの、龍介さんは」
西 龍介「俺は所謂売れない俳優ってヤツ 運良くオーディションに受かってさ まぁ無名同士、あっちに負けないように 一緒に頑張ろうぜ」
橋田 玲央「はい! あの、龍介さんは舞台に立ったこと、 何度かあるんですよね?」
橋田 玲央「舞台の稽古って、どんな感じで進むのか 教えてもらえませんか?」
西 龍介「んー・・・。演出家によって違うし 俺は稔さんの舞台に出るのは初めてだけど まずは読み合わせだろうな」
西 龍介「顔合わせのあとにすることもあるけど 今回は、ほら」
西 龍介「台本があがったのが今日だったから」
西 龍介「読み合わせの次は立ち稽古して 動きをつけたら、あとはシーンごとに 細かく区切って抜き稽古 本番前になれば通し稽古だな」
西 龍介「とりあえず稽古までに 台本をみっちり読み込んでくること 稽古開始は4日後だし、時間はあるだろ」
橋田 玲央「なるほど・・・! ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」
〇稽古場
龍介さんが言っていたとおり、
稽古は台本の読み合わせからだった
家で練習してきたつもりだったけど
全然上手く読めなかったし
台詞の解釈も甘かった
反省点は山ほどある
でも、それ以上に・・・
橋田 玲央「・・・・・・」
加藤 稔「お疲れ様。稽古初日はどうだった?」
橋田 玲央「あの、すごく、すごく楽しかったです!」
加藤 稔「そっか!それは良かった」
次の日はさっそく立ち稽古
これもついていくので精一杯だったけど
動線は台本に全部書き込んだし
あとで見直そう
橋田 玲央(それにしても・・・)
玲央(水戸部さんと山本さんは もう台本を持ってないし)
玲央(龍介さんも、台本を持ってはいるけど ほとんど見ていない)
橋田 玲央(すごいなぁ。オレももっと頑張らないと)
加藤 稔「みんなお疲れ様ー 今日はここまでにしよっか」
加藤 稔「あ、玲央くん。ちょっといい?」
橋田 玲央「はい。なんですか?」
加藤 稔「あのね そんなに難しいことじゃないんだけど」
加藤 稔「台本。明日までに全部覚えてきて」
初舞台で大役! これは緊張しますね!
先輩方、やさしい!
有名人に囲まれての初舞台。彼がこれからどう成長していくのか楽しみです。
わぁ大変!でももうはじまってしまったからにはやるしかないですね!だれでもはじめは初心者、無我夢中でなにかに真剣に取り組むのって大変さはあれど楽しいですよね。