読切(脚本)
〇オフィスのフロア
神宮寺「──なあ、お前さ。 もしかして山田を誘うつもりでいるとか?」
綾瀬「ぎゃっ!?」
俺が近づくと、綾瀬はいつも身をこわばらせる。
たぶんコイツは、俺のことが苦手だ。
綾瀬「神宮寺さん・・・ 何のことですか、急に」
神宮寺「明日の取引先のイベント、男女ペアがお約束なんだろ?」
綾瀬「え?」
神宮寺「参加を承諾したものの、お前はまだ相手が決まってない。 違うか?」
綾瀬「違わないです。実は焦ってまして・・・」
神宮寺(危ねー。間に合った・・・)
綾瀬「あの、それで。 山田先輩はどちらへ?」
神宮寺「あー、アイツなら帰った! イベントは、うちの受付嬢と出ることになったらしい」
綾瀬「えぇ!? あの元アイドルだと噂の美女? やりますね~、山田先輩!」
神宮寺「そう。 だからもしお前が1人なら──」
綾瀬「じゃあ私、他の人を当たってみます!」
神宮寺「え!?」
綾瀬「情報ありがとうございました。 では、お先に失礼します」
神宮寺「おいっ・・・」
〇オフィスビル
綾瀬はパーソナルスペースを崩さない。
俺との距離は、いつもこんなだ。
神宮寺「ちょっと待て! 足速すぎだろ」
綾瀬「うわっ!! どうしたんですか、こんなとこまで!?」
神宮寺「・・・」
近づきたいなら、俺から動かなきゃいけない。
今がきっとその時・・・。
神宮寺「話、最後までさせろ」
神宮寺「だからお前のパートナー、俺はどうか?って聞いてんの」
綾瀬「え!? カップルのふりですよ? 神宮寺さんほどモテる人なら、他の女子からお声かかってますよね?」
神宮寺(そう思ってくれるなら、少しは揺らげよ)
神宮寺「あー、えっと。 のんびりしてたら、誰からも誘われなかったんだよ」
神宮寺「でも参加しておきたくて──」
神宮寺「綾瀬の相手、俺じゃダメ? 不足か?」
綾瀬「いえ、こちらこそ助かりますが・・・」
綾瀬「私とじゃ、偽物だってすぐバレちゃいそうですね」
神宮寺「そんなことねーよ。 ってか、そんなふうに思わせたりしねーから」
綾瀬「だといいんですが・・・」
「・・・・・・」
〇オフィスビル
綾瀬「あ、雨・・・」
綾瀬「じゃあ今度こそ、お先に失礼します」
神宮寺「・・・おう」
綾瀬「あの神宮寺さん、良かったらこれどうぞ」
綾瀬「私、折りたたみ持ってるんで。 それじゃあ」
神宮寺(笑顔の破壊力、すげぇ・・・)
神宮寺(嫌われてはない。 でもたぶん、好かれてもない──)
どうやったらもっと、アイツの心に触れられるんだろう。
〇結婚式場の階段
綾瀬「うわ~素敵な会場!」
1日限定の恋人役。
珍しくはしゃぐ綾瀬の横で、俺の心は久しぶりに踊っていた。
綾瀬「それにしても・・・」
綾瀬「中はさらに熱気がすごそうですね」
神宮寺「だろーな。 参加者は基本カップルなんだし」
神宮寺「じゃあ、俺たちも行くか。 ハイ、手」
綾瀬「え!? 繋ぐんですか?」
神宮寺「それっぽくしておいた方がイイだろ?」
綾瀬「・・・ですかね? はい、それじゃ──」
神宮寺「・・・・・・」
神宮寺(手、熱い・・・緊張してんのか? 綾瀬が? 俺が?)
神宮寺(ヤバイ。 何か今日のコイツ、可愛すぎる・・・)
〇大広間
主催者の挨拶が終わり、パーティーはフリータイムに突入した。
神宮寺「綾瀬、シャンパンでいい?」
綾瀬「あ、次は私が」
神宮寺「いいよ、甘えてろよ。 今日は恋人だろ?」
綾瀬「すみません」
神宮寺(少しは溶けたか? 綾瀬の氷・・・)
山田「お疲れ神宮寺! 綾瀬さんも」
神宮寺「げっ・・・山田!!」
綾瀬「あ、先輩! お疲れさまです」
山田「へーそうか、2人で来たんだね。 あの神宮寺がな」
神宮寺「うるせー」
綾瀬「えっと、先輩のお相手は」
受付嬢「初めまして」
綾瀬「やはりすごい美人さん」
受付嬢「ウフ、ありがとう❤️ あなたのことは、兼がねジンから──」
神宮寺「サエコ! 余計なお喋りするな」
受付嬢「あら、ごめんなさい❤️」
綾瀬「名前呼び・・・。 えっと、親しいんですね。お2人って」
神宮寺「まーな。 俺たち3人、大学からの同期ってやつで」
綾瀬「なるほど・・・」
〇施設の男子トイレ
「・・・・・・」
山田「無事に誘えたみたいだな、彼女を」
神宮寺「あー、お陰さまで」
山田「で、どうなんだ? 恋人役の綾瀬さんは」
神宮寺「・・・」
神宮寺「はっきり言って、最悪だ」
山田「ん?」
神宮寺「もう可愛くて仕方ない。 今日だけでなんて、手離せそうにねーよ」
山田「アハハ! じゃあ早くどうにかしないとな!」
神宮寺「分かってる・・・」
〇大広間
神宮寺「お待たせ。 好きそうな料理もとってきた」
綾瀬「・・・」
綾瀬「すみません、神宮寺さん。 私、もう帰ります」
神宮寺「え? 具合でも悪くなったか? だったら俺も一緒に──」
綾瀬「いいえ。 神宮寺さんは、サエコさん達と楽しんで下さい」
神宮寺「サエコ!?」
綾瀬「本当はあの人と来たかったんじゃないですか? でもダメで、私を誘ってくれたんですよね」
神宮寺「何で、そんなこと・・・」
綾瀬「実は私、神宮寺さんのこと苦手なんです」
神宮寺「知ってる。 けど、そんなの今さら──」
綾瀬「やっぱり、偽物の彼女がイヤになりました。 では、失礼します!」
神宮寺「綾瀬!」
〇結婚式場の階段
神宮寺「ちょっと待て。ほらこっち向けって──」
綾瀬「うっ・・・ひぃっく・・・」
神宮寺「ど、どうした綾瀬。 俺、何かお前に──」
綾瀬「山田先輩に、こっそり愚痴ったじゃないですかぁ」
神宮寺「え?」
綾瀬「私が恋人なんて最悪だって・・・ヒック」
神宮寺(話を断片的に聞いてたのか? でもそれでコレって・・・)
神宮寺「泣くなよ。 何か嬉しくなるだろ」
俺はゆっくりと手を伸ばし、綾瀬の頬につたう涙をぬぐった。
神宮寺「苦手なんだろ? 俺のこと」
綾瀬「そうです。ずっとです」
綾瀬「気まぐれに意地悪で、何だかんだ優しくて──」
神宮寺「・・・」
綾瀬「神宮寺さんに名前を呼ばれるだけで、ドキドキしちゃうんです。 だから私──」
神宮寺「綾瀬・・・」
愛おしさが一気に募って、
俺はたまらず唇にキスを落とした。
神宮寺「アヤセ・・・何度だって呼ぶよ。 俺はお前が好きだ」
だからもっと近くに来て欲しい。
2人の熱なら、見えない氷までも溶かせそうだ。
~ Fin ~
アイスながらも生き生きとした綾瀬ちゃんの反応が可愛いですねぇ!
神宮寺さんもクールキャラっぽいのに綾瀬に夢中で必死なところが可愛かったです
すれ違いつつも甘い二人が見られてキュンキュンでした😍
神宮寺くんの胸のうち、綾瀬さんが好きで好きで仕方のない感じが可愛かったです~😊
カレ目線だったので、綾瀬さんはどう思っているのだろうと想像しながら読んでいましたが、最後の勘違いの号泣が可愛くて可愛くて……彼女もまた秘めたる想いがあったのですね。
二人なら素敵なカップルになれるはず!お幸せに✨
彼女の態度が急変してどうしたんだろうと思ったら聞きかじって誤解してたんですね。可愛い☺️
神宮寺さんが照れながら好きだというシーンにはニヤニヤしてしまいました。
続編待ってます。