その彼、……犬にて!

あとりポロ

読切(脚本)

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〇シックな玄関
  その日、幼なじみの『猫田カズマ』は徐にこう言った。
猫田カズマ「待て、とにかく待て。そして落ち着いて聞いてくれ『めぐみ』」
猫田カズマ「呪いかけられた。俺」
「誰に?」
猫田カズマ「う、宇宙人? かな」
猫田カズマ「なんかの神様、とか言ってたかもしれない」
  いろいろ不明瞭だが聞いてみる。
  
  『カズマ』とは、幼なじみだけど、ちょっと意識しあってる。そんな間柄
「どんな呪い?」
  聞き終わらないのに、『カズマ』が迫ってきた。
  
  思わず後ずさるけど、壁に塞がれた
  『カズマ』の身体が私を覆う。顔が近い! 息が聴こえる。そして、
  『カズマ』は、ポメラニアンになった。

〇開けた交差点
「それで、」
「私限定で、抱きつかれると犬になる、と」
  悲しそうな顔で『カズマ』が頷く。
  
  思わず顎の下をこしょこしょする。と、嬉しそうに、でも、ほんと泣きそうな顔をしてる。
「他の人には試したの?」
  降ろしながら聞くと、ぶっきらぼうに『カズマ』が答えた。
猫田カズマ「た、試せるわけないだろ! 俺をコロス気か? 社会的に死ぬわ」
「そか、じゃあ、」
猫田カズマ「ああ、当分お前とは、」
「そ、そんなつれない事言わないでよ! わ、私が面倒みたげるから💦💦」
猫田カズマ「ちょ、オマ──」
  こうして、幼なじみであり、犬になる『カズマ』との運命共同生活が始まった。

〇川沿いの公園
  弱みを握った『カズマ』を休日には連れ回した。
猫田カズマ「おい、俺、またこれか? 犬のままか?」
  道行く人も『カズマ』を愛おしそうに見ている。
  
  私もちょっと鼻高い。
通行人A「可愛らしいわんちゃんですね! さ、触ってもいいですか?」
猫田カズマ「うぅぅぅ」
「威嚇すんな! 犬!」
猫田カズマ「うぅぅ」
通行人A「仲良いんですね! 私もこんなわんちゃん、居たらいいのになぁー」
「いやいや、ほんとめんどくさい犬ですよ?」
猫田カズマ「うーー!」
「・・・けど、」
「けど、こいつと居ると、毎日楽しいの。ずっと、なんかずっと居て欲しくて」
猫田カズマ「う、ぅぅぅ(て、テメー💦💦)」
通行人A「そか。いいですね、そんな関係。 ・・・それじゃあ、ありがとうございました!」
  去っていくお姉さんに向かって、『カズマ』が照れくさそうに1度吠えた。
  
  お姉さんも遠くで手を振っている。
猫田カズマ「それじゃ帰るか。散歩に付き合ってもらった礼もしなきゃ、だしな」
「へー! なんか奢ってくれるの? 私、パスタでいいよ!」
猫田カズマ「じゃ、うち寄れよ! ササッと作るから」
「やった! ありがと!!」

〇SHIBUYA109
  自宅までの帰り道を2人で歩く。犬にならないように、そっと離れて。
  
  それが私には、ちょっと寂しかった。
猫田カズマ「やっぱ、こっちの姿の方がいいな! 身体がすごい楽だ!」
「そ、そりゃ、人間の方がいいでしょうよ。 ま、まぁ、それなりにイケてるし、」
猫田カズマ「なんか言ったか? 聞こえねー!」
  その時、だった。
  車が突っ込んでくる。
  
  私は、『カズマ』に押し飛ばされていた。
  私は無事だった。
  
  けれど、私を押し飛ばした『カズマ』は、
  
  ・・・何処にも居なくなっていた。
  ──その跡に、ポメラニアンの亡骸を遺して──。

〇女性の部屋
  ──あれから、数ヶ月が経った。
  私は、『カズマ』の死を受け入れられなくて、泣いて、泣いて部屋に引きこもった。
  ──そして迎えたクリスマスの夜、私には願いなんて何も無かった。
  なのに、隣の家の向かいの窓──そこには光が灯っていた。
  着の身着のままで部屋を飛び出す。それは『カズマ』の家の明かりだった。

〇アパートのダイニング
  そこに彼は居た!!
  いつかと同じ、ふてぶてしげな彼が。
猫田カズマ「今出来るから待ってろ! っと」
「か、『カズマ』?」
猫田カズマ「ああ、待ったか? 今、火止めるから」
「待ったか? じゃないだろ! ふざけんな! 私がどんだけ心配したか!」
「あれ? 『カズマ』、犬にならない」
猫田カズマ「うん」
猫田カズマ「全部、神様?だったのかな。その不思議な光との約束だったんだ」
猫田カズマ「オマエが、数日中に死ぬ。それが決まっていて、それを救うには俺が犬になる呪いを受けなきゃならなかった」
猫田カズマ「犬の体が身代わり、とはいえ、それでも1度死んだ訳だから、帰ってくるのに時間がかかって」
  何も言えない私を、優しくぎゅっと、『カズマ』が抱きしめた。
  犬じゃない、硬い胸板、温かな『カズマ』の体温。
  
  確かに『カズマ』は私の前に居てくれた。
猫田カズマ「パスタ、遅くなってごめんな」
  そう言って前より近い距離に居る『カズマ』が私の頭を撫でる。
  その距離そこで嗅いだのは『カズマ』の本当の香りだった。

〇川沿いの公園
  ──あの日、勢いよく体当たりしてパスタをぶちまけたのは、これまた別のお話。
  高く腕を振り上げる。
「じゃ、行こっか!」
猫田カズマ「おう」
  ──今日も犬の散歩がよく似合う最高の天気だ──。

コメント

  • 途中までバッドエンドなのかなってハラハラしながら読んでたけど2人とも幸せになれてよかった💞
    不思議だけど素敵なお話楽しませてもらいました✌️✨

  • わわわ、ハッピーエンドで良かったです!
    ポメラニアンになったカズマを弄るヒロインにはふふっとなり、からの急展開にええーっと思わず声が漏れ……先の読めない展開に、めちゃくちゃ惹き込まれてしまいました。
    神様は、実は恋のキューピッドだったのかなぁ、なんて。ともあれ二人が結ばれて本当によかったです。
    心震える素敵なお話をありがとうございました!

  • 神様のいたずらかと思ったら、思いやりの方でびっくりしました。
    命を救うために、ポメラニアンにしたんですね。
    しかも彼女限定ってことは、神様にはお互いの恋心がお見通しだったのかもしれません。笑

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