白線の内側で待ってて

とびこがれ

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〇駅のホーム
  ───午前8時
  プルルルルルルルルル・・・
サツキ「・・・」
  今日も会社だ
  着いたらあれを片付けて、あれをチェックして、それから、
  ・・・
  行きたくないな
  けれど会社に行かなかったとして、じゃあ私は何をするの
サツキ「・・・」
構内アナウンス「間もなく、2番線に電車が参ります。危険ですので、白線の内側でお待ちください」
  ガタン、ゴトン、
  シューーーーッ
  ガーーーーッ
  っ、乗らなきゃ
構内アナウンス「扉が閉まります。ご注意ください────」

〇オフィスのフロア
  ───9時前
同僚A「おはよーございまーす!」
サツキ「おはようございます」
同僚A「○○ちゃん、おはよー!」
  ・・・
同僚B「先輩、おはよーございまーす!」
同僚B「先輩大丈夫ですかー?笑 昨日めっちゃ酔ってたじゃないですかー笑」
同僚A「いやー抜けてねーわ笑」
同僚A「てか○○ちゃん、強すぎない?」
同僚B「えー、フツーですよー笑」
同僚C「お、昨日の今日でちゃんと出勤してるなー」
同僚A、B「ギリギリっすー笑」
  もうずっと、
  ここでは私は空気らしい
  けれど、別に構わない
  そもそも仲間に入りたいなんて思ってない
  私はどうしたらいいの
  なんだか、うまく考えられない
  仕事、
  仕事しなきゃ
サツキ「・・・」
  ピッ
  カタカタカタ・・・

〇駅のホーム
  ───午前8時
  プルルルルルルルル・・・
  今日も会社か
  ・・・
  着いたらあれを・・・
  ・・・あれって何だっけ
  そうか、あれを片付けて・・・
  なんだか、目眩がする
  あれ、全身から力が抜けていく
  プァーーーーン
  電車がくる
  私、体が前に、
  でも私これで、ここから──────
ノボル「あの」
サツキ「はっ」
サツキ「はい」
ノボル「危ないですよ、そんな前に出たら」
ノボル「白い線まで下がって」
サツキ「あ、す、すみません」
ノボル「大丈夫ですか?」
ノボル「なんか、具合が悪いとか」
ノボル「ですか?」
サツキ「いえ、あっ、」
  足に力が入らない、フラフラする
ノボル「やっぱり!」
ノボル「ちょっと、座って休んでください!」
サツキ「す、すみません」

〇駅のホーム
ノボル「あの、これどうぞ!」
サツキ「えっそんな、気にしないでください」
ノボル「いいからいいから」
ノボル「それより、大丈夫ですか?」
ノボル「誰かに連絡して助けに来てもらった方が・・・」
サツキ「いえそんな、もうだいぶ落ち着いたので」
サツキ「それに・・・」
  助けに来てくれる誰かなんて、私にはいない
ノボル「?」
サツキ「いえ、なんでもないんです」
サツキ「あの、ありがとうございました」
サツキ「もう大丈夫そうです」
ノボル「・・・」
  じーっと見られている
サツキ「どうかしたんですか?」
ノボル「いや、俺、」
ノボル「その、」
  そういえばこの声、どこかで聞いたような
サツキ「どこかでお会いしたことありましたっけ」
ノボル「!」
ノボル「いえ、」
ノボル「そんなことは、」
ノボル「ないと思いますです」
サツキ「え?」
ノボル「あいや、」
ノボル「じゃあ俺、これで!」
ノボル「無理しちゃダメですよー!」
サツキ「・・・」
  行っちゃった
  優しい人だったな
  なんか、元気もらっちゃった
  時間は・・・
  出社時刻に間に合う電車は、とっくに行ってしまった
  けれど
サツキ「よし!」

〇オフィスのフロア
  ───午前9時半
  はじめて会社に遅刻してしまった
  叱られるだろうか
サツキ「すみません、遅れました」
同僚A「・・・」
同僚A「この件だけど、やっぱりこうしとこうか」
同僚C「おー、その方がいいかも知れないなー」
  っっっ!
  ドクン
  そう、だった
  私は、厳しくされてるんじゃない
  ドクン ドクン
  遅刻したって何も言われない
  誰も関心を持っていない
  ドクン ドクン ドクン
  私は──────────────────
  視界にモヤがかかり、思考がぼやけていく
  心臓の音も聞こえなくなった
同僚えー「これ、コピーしとい・・・」
  カタカタカタ・・・
同?ビー「これ・・・ですか??」
  ピーーーーガッシャンガッシャン
???「コーヒーと紅・・・・・・っちにす・・・」
???「ランチは・・・・・・──────」
???「──────────────」
  ─────────

〇駅のホーム
  ───午前8時
  ──────────────
サツキ「・・・」
  今日もカイシャだ
サツキ「・・・?」
  もう、心底どうでもいい
  こんなに人がたくさんいるのに
  誰の目にも私は映らない
  静かだ
  声も音も、消えている私は素通りするのかな
  ホームの、崖っぷち
  私がいなくなっても、誰も何も思わないのかな
  それでいい
  ────────
  嫌だ
  なんでっ
  誰か
  誰か私を見てよっ
???「──────・・・お待ちください!!!」
  ?
???「白線の!内側で!お待ちください!!!」
  これは、
  そうだ、いつも聞く駅員さんの声だ
  なんで私、この声は聞こえてる
構内アナウンス「白線の内側で!!!」
構内アナウンス「ちゃんと待ってて!!!」
構内アナウンス「俺を待ってて!!!」
  ──────!!!
構内アナウンス「あ、えと、すみませ・・・」
  ブツ!
客「なんだ、今の?」
客「今の聞いたー?」
ノボル「はあっ、はあっ」
  あの人は、
ノボル「っ、どこだ!」
  誰かを探してる
ノボル「くそっ!」
  もしかして、
  っ!
  何を勘違いしてるの私っ
  違うっ私じゃないっ
  私なわけない!
ノボル「この辺りのはずだっ」
  私じゃ、
ノボル「いたっっっっ!!!」
  ──────────────!!!
  ───彼はまっすぐに私の目を見ている
ノボル「あのっ!」
サツキ「ひゃ、ひゃい!」
  どくん どくん どくん どくん
ノボル「俺、その、えーと」
サツキ「は、はい!」
ノボル「俺とお茶しませんか?」
サツキ「は、はい?」
ノボル「いや、えっと、違くて」
ノボル「いや違わないけど!」
サツキ「・・・」
ノボル「俺実は、その、」
ノボル「いつもここを通るあなたを、気づいたら目で追ってたって言うか」
ノボル「ごめん俺、いきなり、気持ち悪いですよね・・・」
サツキ「駅員さんだ・・・」
サツキ「いつも聞いてる声・・・」
ノボル「は、はい、駅員さんですっ」
サツキ「さっきのアナウンスは、私に?」
ノボル「そ、そうっす」
ノボル「その、防犯カメラのモニターで見てて、」
サツキ「駅員さん、お仕事は?」
ノボル「抜けてきました、先輩に無理言って、」
ノボル「今度飯おごらされる・・・」
サツキ「フフ」
サツキ「アハハハハハ」
ノボル「な、笑いすぎ!」
ノボル「笑った顔、ヤバ、」
サツキ「?」
ノボル「いや」
サツキ「それで駅員さんっ、」
サツキ「どこでお茶しますっ!」

コメント

  • 泣けるしスッキリしました
    自分を知りたいって人が現れてくれたんだなって
    救われました

  • 会社に行っても社内のみんなと会話もせずに毎日毎日通勤するのはしんどいなぁ。でも、駅員さんは彼女をいつも見ていたんだ。良かった。

  • 誰にも相手にされていないと感じていたときに、こんなふうに見ててくれた人がいたなんて知ったら、本当になんでも頑張れちゃうと思います!素敵なお話でした。

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