読切(脚本)
〇ハチ公前
陽介(沙耶ちゃん、まだ来てないよな)
陽介(ちょっと早く来すぎたか・・・)
〇ハチ公前
しかし、さすがに待ち合わせのメッカだなぁ。
ん? あそこの二人も待ち合わせか?
〇ハチ公前
待ち合わせ男「ごめん、ごめん。遅くなっちゃって・・・」
待ち合わせ女「遅い! いつまで待たせるのよ。 20分も遅刻よ!」
待ち合わせ男「悪りぃ。出かける時に変な訪問セールスにつかまっちゃてさぁ・・・」
待ち合わせ女「はぁ? ウソばっかり! どうせゲームでもしてたんでしょ!」
待ち合わせ男「バレてら・・・」
待ち合わせ女「さんざん待たされたんだから、 今日はガッツリ奢ってもらうわよ」
待ち合わせ男「しょうがねぇなぁ・・・」
待ち合わせ女「ほら、行くよ!」
〇ハチ公前
陽介(ははは。 あのカップル、いい味出してるな)
陽介(さて、本でも読みながら待ってるか)
〇結婚式場のテラス
『とある、パーティーの会場』
沙耶「チーフ、私そろそろいいですか?」
チーフ「おぉ、ありがとう。 休みを割いて来てくれて、恩に着る」
沙耶「じゃ、私、ひと足お先に・・・」
チーフ「これからデートだったよな。 彼氏によろしく」
沙耶「いや、まだ彼氏だとかは・・・」
チーフ「急ぐんだよね」
沙耶「ちょっと・・・」
チーフ「じゃ、駅までタクシー使いなよ。 領収証もらっといてね」
沙耶「はい」
チーフ「そのユニフォームは、車に積んどいて」
沙耶「分かりました。 お先に失礼します!」
〇結婚式場のテラス
『それから沙耶は、慌ただしく支度をして
タクシーに乗り込んだ』
〇タクシーの後部座席
もっと早く終わると思ってたのに・・・
ギリギリ間に合うか、ってとこか・・・
陽介くんに連絡しとこう。
・・・ん?
・・・あれ?
・・・うそ!
(どうかなされましたか?)
ちょっと、忘れ物したみたいで・・・
(戻りますか?)
いえ、急いでるんで、このまま行って下さい。
そうだ、ユニフォームと一緒に・・・
しょうがない。急いで行くだけだ。
〇混雑した高速道路
『数十分経過』
なんか、混んできてません?
(いつもは流れてるんですけどねぇ)
ちょっと、急いでるんですけど。
(そう言われても・・・)
〇タクシーの後部座席
ここから駅までの距離って、どのくらいですか?
(1キロぐらいかなぁ・・・)
1キロか・・・
分かりました。
どこか、適当なところで降ろして下さい。
(え!?)
ごめんなさい。あとは走って行きます。
(そうですか。申し訳ないです)
〇歩道橋
沙耶(とにかく急ごう!)
〇住宅地の坂道
沙耶(足には自信あるほうだけど・・・)
〇裏通りの階段
沙耶(なんで坂道や階段ばかりなの~!!)
〇ハチ公前
『数十分経過』
陽介(もう、こんな時間か・・・)
〇駅前ロータリー
沙耶(ふぅ。やっとたどりついた・・・)
〇駅のホーム
沙耶(出たばっかり? ツイてない・・・)
〇駅のホーム
『数十分経過』
沙耶(完全に遅刻だ・・・)
〇路面電車の車内
幼児の母親「ほら、降りるわよ」
乗客の幼児「うん!」
沙耶「あっ! 落としましたよ!」
〇駅のホーム
幼児の母親「どうも、すみませんでした」
沙耶「いえ・・・」
幼児の母親「ほら、お姉さんにお礼いいなさい」
乗客の幼児「ありがとう!」
沙耶「どういたしまして。気をつけてね」
沙耶(あぁ・・・急いでる時に限って・・・)
〇ハチ公前
『数十分経過』
陽介(遅いなぁ、沙耶ちゃん。 何かあったのかな?)
メッセージも来てないし、電話にも出ない・・・
陽介(けど、待つしか手がないか・・・)
〇駅のホーム
沙耶(陽介くん、怒ってるだろうなぁ・・・)
沙耶(もう、帰っちゃったかも・・・)
〇路面電車の車内
沙耶(チーフの頼みなんか断ればよかった・・・)
沙耶(陽介くんからの信用、ガタ落ちだ・・・)
『数十分経過』
沙耶(えっ!? なに?)
隣のお婆ちゃんの手が私の服を掴んだ
見ると、脂汗をかいて様子がおかしい
沙耶「どうかされました?」
乗客のお婆ちゃん「ちょっと、胸が苦しくて・・・」
沙耶「わっ! そりゃ大変!」
〇駅のホーム
沙耶「今、駅員さん呼びましたから」
乗客のお婆ちゃん「すまないねぇ・・・」
駅員「救急車が来るまで、 もう少し頑張ってください」
〇ハチ公前
『数十分経過』
「・・・・・・」
相変わらず応答なしか。
陽介(それにしても心配だなぁ。 沙耶ちゃん、どうしたんだろう?)
陽介(実は俺、沙耶ちゃんに嫌われてんの?)
陽介(この前、酔っ払って変なコト言った?)
陽介(いや! 変なコトした!?)
陽介(いやいやいや。それはない。 それは大丈夫・・・な、はず・・・だよな)
〇駅のホーム
沙耶(何でこうなるわけ・・・)
〇路面電車の車内
沙耶(ダメだ・・・。大、大、大遅刻・・・ どうしよう・・・)
〇ハチ公前
陽介(こんな時間じゃ、もう来ないよな)
陽介(たぶん、この前のことに違いない)
陽介(覚えてないけど、 こんど会ったら、とにかく謝ろう・・・)
外国人観光客「スミマセーン。チョット、イイデスカ?」
陽介「は?」
〇広い改札
沙耶(やっと着いた! ダッシュ! ダッシュ! ダッシュ!)
〇渋谷駅前
沙耶(お願い! 陽介くん! どうか居てくれますように・・・)
〇ハチ公前
沙耶(陽介くん?)
〇SHIBUYA109
沙耶(どこ?)
〇渋谷の雑踏
沙耶(お願い・・・)
〇センター街
沙耶(私のせいで・・・)
〇ハチ公前
沙耶(陽介くん・・・)
陽介「沙耶ちゃん?」
沙耶「あっ! 陽介くん!」
陽介「大丈夫?」
沙耶「ごめんなさい!」
陽介「どうしたの? 心配したよ」
沙耶「待っててくれたんだ・・・」
陽介「当たり前だろ」
沙耶「もう、帰っちゃったかと・・・」
陽介「ごめん。 さっき、道を尋ねられて案内してたんだ」
沙耶「よかった・・・」
陽介「うん。逢えてよかったよ」
沙耶「ごめんなさい。 突発でお仕事が入って」
沙耶「すぐに終わる予定が伸びちゃって」
沙耶「それから急いで向かったんだけど、 トラブルが重なって」
沙耶「それに、 仕事場にスマホを忘れてきちゃって・・・」
陽介「よしよし。わかった。 もう大丈夫」
陽介「けど、よかった。 ちゃんと会えてよかった・・・」
沙耶「本当にごめんなさい。 こんなに待たせちゃって・・・」
陽介「いや、俺は大丈夫」
陽介「それより、 沙耶ちゃん、辛かったろ?」
沙耶「え!?」
陽介「待つ身も辛いけど・・・」
陽介「待たせる身は、 もっと辛かったはずだ」
沙耶「陽介くん・・・」
陽介「さっ、俺、腹へったよ。 美味しいもの食べに行こ!」
沙耶「うん!」
〇ハチ公前
陽介が沙耶に腕を寄せて促すと
沙耶は「彼氏」の腕をとって寄り添い
二人は、暮れなずむ街の中へ・・・。
(おわり)
とっても素敵な心温まるお話でした。
ヒロインの周りの人を助けてしまう優しさを知っているからこそ、彼は信頼して待っていたのではないかなぁ。最後の彼の優しさにも、とてもキュンとしました。ずっと待っていてくれたのに、怒らずにヒロインの気持ちを汲み取っているのがとても素敵でした!
優しさ溢れる素敵なカップルになるんだろうなぁ。お幸せに!
まるでドラマを観ているかのように、読んでるこっちまでが手に汗握ってました。
テンポも良く、キャラクターが活き活きとしてて楽しく読めました。
携帯が一般化されていない頃の待ち合わせを思い出しました。(大昔の話でスミマセン)信頼している相手であるほど待てたものです。
この2人にとっても、絆を強める結果となる、雨降って地固まるハプニングになりましたね。