第7話 「バイバイ救世主。そして・・・」(脚本)
〇幻想空間
ハロワ―「お目覚めなさい。選ばれし子よ」
アイリ「うん、ここは・・・」
アイリ「そっか。私、また死んじゃったんだ」
ハロワ―「ええ、残念ながら」
ハロワ―「ですが、あなたのおかげで、今回の『ネオニューロ』もまた平和を勝ち得ました」
ハロワ―「あなたはまたひとつ、世界を救ったのです」
ハロワ―「あなたほど優秀な転生者は、ほかにはいないでしょうね」
アイリ「・・・べつに、私ひとりの力ってわけじゃないです」
アイリ「ずっと誰かに助けてもらってきただけ」
ハロワ―「ふふっ。 これほどの功績をあげながら、まったく驕らない・・・」
ハロワ―「そんなあなただからこそ、ありとあらゆる世界で救世主になれるのかもしれません」
ハロワ―「どうでしょう。 今一度、転生してくれませんか?」
ハロワ―「あなたの助けを待っている世界が、ほかにもあるのです」
アイリ「・・・そうですね。 こんな私でよければ──」
???「ちょーっと、待ったぁぁぁぁ!」
アイリ「え・・・? アキローくん・・・?」
ハロワ―「アキロー・・・ああ覚えています。 どうして貴方がこの世界に?」
ハロワ―「確か、『まるちばドットコム』に転生したはずでは・・・?」
アキロー「『エルブントラック運輸』に臨時に雇ってもらったんですよ」
アキロー「あの会社なら配達のときに次元を越えられますからね」
アキロー「アイリちゃん、これをキミに届けにきたんだ」
アイリ「これ・・・参考書?」
アイリ「ええと・・・『よくわかる! 多次元公正取引法』って・・・?」
ハロワ―「!? それは・・・!」
アキロー「アイリちゃん、キミは騙されてるんだ」
アキロー「いやキミだけじゃない、僕も、そして転生したほかのみんなも」
アキロー「このろくでもない女神は、僕らの無知に付け込んで、不当な契約を押し付けていたんだよ!」
アイリ「ハロワーさんが? どういうこと?」
アキロー「その本を読めばすぐにわかるよ」
アキロー「『多次元公正取引法』によって規定された、僕ら転生者の権利ってやつがね」
僕に促され、アイリちゃんは参考書のページをめくろうとする。
・・・が、次の瞬間、その参考書はこの世界から消滅した。
アイリ「え? 消えた? どうして?」
アキロー「・・・禁輸指定したんですね」
ハロワ―「なんのことでしょう?」
アキロー「とぼけないでください。 あなたはこの世界の神だ」
アキロー「この世界に相応しくない品物を『禁輸指定』することで、消滅させることができる」
アキロー「でも逆に言えば、あの参考書はそれだけあなたにとって都合が悪い代物だったってことですよね」
ハロワ―「ですから、貴方がなにを言っているのかよくわかりませんね」
アキロー「そうですか。それでもいいですよ」
アキロー「でも・・・」
アキロー「あちらの人に、そういう態度は通用しますかね?」
ハロワ―「あちらの人・・・?」
役人風の男「どうも、ハロワーさん。 『汎次元労働基準署』の者です」
ハロワ―「な!? ろ、労基署の!?」
役人風の男「貴方には『優越的地位の濫用』『契約説明義務の不履行』の疑いがかかっています」
役人風の男「ああそれと、『転生者基本人権の侵害』も疑わしいですかねぇ」
ハロワ―「そ、そんな、誤解です!」
ハロワ―「わたしは転生者の皆様のことを、まず第一に尊重して──」
役人風の男「ま、いろいろと言い分はあるでしょうが、続きは署のほうでお聞きしますよ」
役人風の男「・・・ええ、それはもう、じっくりと」
〇異世界のオフィスフロア
銀次「いやはや、まさかホントに、ハロワーさんが黒幕だったとは・・・人は見かけによらないもんスねぇ」
テンシエル「なーに言ってるの」
テンシエル「ああいう『いかにも善人ですー』って顔してるヤツの方が、裏でエグイことやってるものよ」
テンシエル「だいたい、自分で『女神』って自称してる時点で厚かましいしー」
テンシエル「やっぱー、見た目通り心もキレイなのはー、テンシちゃんくらいカナ☆」
銀次「・・・ソッスネ」
アキロー「・・・今思えば、もっと早く疑うべきでした」
アキロー「アイリちゃんがどこに転生したのか、確実に知っている人物でしたし」
テンシエル「しかも、あの子が死んで一番得するのもハロワーだったもんね~」
要するにハロワーとは、「契約した転生者を様々な異世界へ送り込む、多次元人材派遣業者」であった。
その売り上げは、「派遣先の世界に対する、転生者の貢献度」によって上下する。
例えば世界を救うほどの業績であれば、膨大な支払いが発生するという。
アキロー「だから、アイリちゃんは目をつけられてしまった」
アキロー「どんな世界でも救えるほどの逸材だったから」
テンシエル「儲かるってわかってたら、そりゃ次々と転生させたがるわよね~」
テンシエル「ま、そのために『功績を挙げたあと、すぐ殺す』ってのを繰り返してたワケだけど」
テンシエル「超ドン引きぃ~」
銀次「まあ、違法も違法ッスからね・・・。 多次元人材派遣業の闇を見たッス・・・」
テンシエル「でもよかったじゃない」
テンシエル「ハロワーが捕まって、もうブラック契約から解放されたんでしょ?」
アキロー「ええ。これでアイリちゃんは理不尽な転生をしなくて済みます」
今頃、アイリちゃんは次の転生をしていることだろう。
しかも今度は、ちゃんとした事業者との契約で。
もう世界を救う使命を背負わされることもない。
ようやく彼女は、平和で幸せな生活を送ることができるわけだ。
でもそれは・・・彼女が僕の助けを必要としなくなる、ということも意味していた。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
最後まで勢いよく楽しめました!