第5話 「犯人は、すぐそばに?」(脚本)
〇異世界のオフィスフロア
銀次「ちわーッス」
銀次「頼まれた通り、カノジョが殺された状況を調べてきたッスよ~」
アキロー「すみません、銀次さん。 それで、なにかわかりましたか?」
銀次「それがッスね・・・カノジョを殺した凶器、その全部が『まるちばドットコム』で注文された品物だったみたいッス」
アキロー「え!? 待ってください」
アキロー「それじゃあ、アイリちゃん殺しのストーカーは、うちの顧客の中にいるってことですか!?」
銀次「そうなるんスかねぇ・・・」
アキロー「でもそれなら、顧客リストを探ればストーカーを特定できるはずですね」
テンシエル「あ、ダメ~。それムリ~」
アキロー「え? なんでです?」
テンシエル「『誰がどんなものを買ったか』なんて超プライベートな情報、法律で保護されてるに決まってるじゃん」
テンシエル「うちじゃあ、担当オペレーターと偉い人しか見ちゃダメってコトになってるから」
アキロー「そんな・・・」
テンシエル「まあ、担当オペレーターを見つけて、直接聞くっていう手はあるけど」
なるほど。
だったらどうにかそのオペレーターを見つけ出そう。
その人に「誰に売ったのか」を教えてもらえば、アイリちゃんを殺した犯人もすぐにわかるはず──
アキロー「いや、でも待てよ?」
そのオペレーターが・・・アイリちゃん殺しの黒幕ってこともありえないか?
これまで僕は、ストーカーの仕業ばかりを疑ってきた。
でも・・・遠隔殺人という可能性もあるんじゃないか?
いくら世界を救っても、アイリちゃんのことを快く思わない者はどうしたって出てくる。
そういう人間に、オペレーターの側から営業をかけて、凶器を売りつける──
そんな手口で、誰かにアイリちゃんを殺させてきたとしたら?
・・・まあこの場合、なんでオペレーターがわざわざアイリちゃんを殺そうとするのかの動機がわからないけれど。
オモカネ「アキローくん。ちょっといいかな」
アキロー「あ、室長。 ええと・・・そっちの派手な人は・・・」
派手な男「フハハハハハハハ! 高貴なる我が名を知りたいと申すか?」
派手な男「ならば心して聞け! 我こそは『ユリエンスⅢ世』である!」
ユリエンスⅢ世・・・。
どこかで聞いた覚えがあるような・・・。
オモカネ「彼はうちの新人でね、ちょうど研修が終わったところなんだ」
オモカネ「先輩として、いろいろと面倒をみてやってほしい」
アキロー「はあ、わかりました」
派手な男「クハハハハハハ!」
派手な男「センパイとやら、汝には我の面倒をみる栄誉を与えよう」
派手な男「特別に『ユーリ』と呼び捨てにすることを許す、光栄に思うがよい!」
アキロー「それはどうも・・・」
オモカネ「ちなみに彼も転生者でね。 そういった意味でも、君の後輩なんだよ」
アキロー「へえ、そうなんですか。 ちなみにどの世界から来たんです?」
派手な男「うむ、リアランドである! そこでは魔王をやっておった!」
アキロー「え・・・リアランドの魔王!?」
じゃあなにか。
彼はアイリちゃんが勇者として倒した、あの魔王ってこと?
魔王なら勇者を恨んで当然だ。
アイリちゃんを殺そうとする動機は十分にある。
そしてその魔王が・・・まるちばドットコムでオペレーターをやっている・・・。
アキロー「もしかして・・・彼が・・・」
〇異世界のオフィスフロア
かくして僕は、ユーリこと元魔王ユリエンスⅢ世の教育係となった。
あわよくば、彼がアイリちゃん殺しに関わっているかどうかを探ろうと思っていた・・・のだけれど。
ユーリ「ハッハッハ、今日も売り上げゼロである! ゼロ記録更新である!」
アキロー「いやダメだからね? ちょっとは気にしよう?」
ユーリ「仕方ないであろう、契約前に相手が途中で通話を切ってしまうのだ!」
このところ僕はユーリの尻ぬぐいばかりに追われていた。
怒ったお客さんが通話を切ってしまうのはまだマシな方。
場合によっては「上司を呼べ!」と客がキレて、僕が代わりに平謝りするハメになったりする。
それもこれも、すべてはユーリの尊大な態度のせいだった。
アキロー「相手はお客様なんだからさ、もうちょっと丁寧な応対をしようよ。ね?」
ユーリ「ムリだ! なにせ我は『魔王』なのだからな!」
アキロー「『元魔王』でしょ? 今の君はオペレーター。 もっと社員らしくしてもらわないと・・・」
ユーリ「元ではない。 我が魂は今なお『魔王』なのだ」
ユーリ「それこそが我が本質。 転生しようと揺るぎはせぬぞ」
なるほど。
そこが彼のアイデンティティってことか。
それを仕事のために捻じ曲げろっていうのは、パワハラになっちゃうかもなぁ・・・。
アキロー「はぁ・・・まいったな」
アキロー「キミのその態度がイイっていうようなドMな人ばかりがいる世界が、どこかにあればいいのに・・・」
テンシエル「あるわよ?」
アキロー「・・・へ?」
銀次「『マージ・ドゥ・エムン』とか、『ソーウッケランド』とかッスね」
アキロー「マジか・・・そんな世界もあるなんて、異世界のバリエーション、やばいな・・・」
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魔王かわいい(笑)