読切(脚本)
〇広い改札
待ち合わせ、12時、駅前広場。
昨夜遅くまでゲームをしていた都は、
朝寝坊してしまい
幼馴染の奈月との約束に遅刻していた。
「はあ、はあ」
髪はボサボサ。
朝ご飯も抜き。
「あっ!」
急いで支度をしてきたせいで、
耳にぶら下げていたイヤリングを
片方落としてしまった。
「もう、こんなときに!」
勢いよく止まって振り向いた瞬間
おでこを何かにぶつけた。
目の前は黒い布で覆われた。
???「おっと・・・大丈夫ですか?」
ぶつけたおでこを抑えながら
都は急ぎ態勢を立て直し、
目の前の人物にお辞儀をする。
「ご、ごめんなさい!!」
「大丈夫です、そちらこそ大丈夫ですか!?」
「ぶつかってごめんなさい!」
短い間に二回も謝っていることに気づく間もなく、都は捲し立てる。
目の前の人物は落ち着いた様子でこちらを見てニコリと笑いかけた。
〇広い改札
???「大丈夫です」
???「それよりこれ、落としましたよ」
そう言う彼の掌には、
都のイヤリングがあった。
吾妻 都「あ、ありがとうございます!」
吾妻 都「大事なものなので助かりました!」
???「はい」
???「もう落とさないように気をつけてね」
???「じゃあこれで」
そう言いイヤリングを都に渡すと、
彼は後ろを向いてその場を立ち去った。
吾妻 都(素敵な人だったな・・・)
吾妻 都「って、やばい遅刻!」
彼を見つめる暇もなく、
都はまた走って広場へ向かった。
──13時。
〇ファミリーレストランの店内
吾妻 都「でね、彼すごく爽やかな笑顔でその場を去っていったの」
吾妻 都「かっこよかったな〜。 大人の男って感じだった」
遅刻の罰金として
お昼ご飯を奢ることになった都は、
大好物のハンバーグを食べる
奈月の隣で興奮気味に話している。
神川 奈月「ふうん」
神川 奈月「でもよかったな、 イヤリング無くさなくて」
神川 奈月「大事にしてたやつでしょ?」
吾妻 都「ほんとに!」
吾妻 都「おばあちゃんからもらった大事なイヤリングだったから、落とした時焦ったよ〜」
神川 奈月「そんな大事なもの なんで付けてくるんだよ」
吾妻 都「私のお守りなの!」
吾妻 都「どこ行く時にも着けるって決めてるの!」
神川 奈月「はいはい」
神川 奈月「学校には付けてこないくせにな」
吾妻 都「それは仕方ないじゃない!」
吾妻 都「校則違反だもん!」
吾妻 都「でもあの人、ほんとにかっこよかったな〜」
都はまだ恍惚としている。
会ってから散々この話を聞かされている
奈月は正直あまり面白くなかった。
神川 奈月「──で、 そのイケメンくんはどこのどいつなんだよ」
吾妻 都「知らないよ」
吾妻 都「見たことないし、初めてあったし」
神川 奈月「ふうん」
神川 奈月「なあ都、 そんなことより昨日どこまでやった?」
奈月は話を逸らしたかったのか、
昨日発売されたばかりの新作ゲームの話を
持ちかけた。
吾妻 都「あっ、そうそう。 キャラクリに時間かけすぎちゃってさー、ストーリーほぼ進められなくって」
ゲーム好きな都は先程の話をさておき
早口で返事をする。
その日は結局アーケードゲームそっちのけで
新作ゲームの話題で持ちきり、
ファミレスでジュースを飲みながら延々と語り合った。
〇おしゃれなリビングダイニング
その日の夜、
家に帰った都は着替えてリビングにいた。
「あっ、忘れてた!!」
駅でイヤリングを落とした時
先を急いでいたので、上着のポケットに
入れたままにしていたのだ。
ハンガーにかかっている上着から
イヤリングを取り出すと、
ある違和感に気付く。
(あれ? こんなに褪せてたっけ?)
一ヶ月前誕生日に、
大好きな祖母が買ってくれた
珊瑚のイヤリング。
珊瑚は真っ赤で艶があり
キラキラ輝いていたはずなのだが、
なぜか手元にあるのは
年季の入ったような
コーラルピンクの珊瑚だった。
左耳に着けていた
もう片方と比べてみても、
明らかに色褪せている。
しかしこれはどう見ても
都の持っていたイヤリングと同じものだ。
その後しばらく理由を考えたが
結局答えは分からず仕舞いだった。
結局あの日色褪せたイヤリングの謎は
解けぬまま、日々は過ぎ去った。
気にはなっていたのだが
奈月に青年の話を持ちかけると
なぜか話を逸らされるので、
持ち出すのを控えているうちに
都も忘れてしまっていた。
〇教室の外
そういえばあの頃から
奈月との関係は徐々に
変化していたように思う。
偶然二人は同じ大学を目指していて
お互いを鼓舞しながら、
がむしゃらに勉強した。
そうして気がつけば
長い長い高校生活は、
あっという間に幕を閉じた。
〇女性の部屋
──数年後
都、20歳、大学2年生。
「あー、もうどこにやっちゃったんだろう」
〇おしゃれな廊下
???「都ー!早くー!」
吾妻 都「うん!今行くー!」
都は高校卒業と同時に
奈月から想いを告げられ、
二人は幼馴染から恋人同士になった。
二人は同じ大学へ通い、寮生活をしながら
充実した毎日を送っている。
神川 奈月「都、何してんだよ早く!」
吾妻 都「だって〜、 おばあちゃんのイヤリング 片方失くしちゃって・・・」
都は涙目になりながら
あたふたと奈月に駆け寄る。
神川 奈月「なんだ、またかよ〜」
奈月は呆れたように笑う。
吾妻 都「またじゃない! あの日は一瞬落としただけだし!」
神川 奈月「・・・」
神川 奈月「“もう落とさないように気をつけて”」
神川 奈月「──って言ったろ?」
吾妻 都「え、なんでその言葉・・・」
神川 奈月「いいから早く行くぞ〜!」
今度はニコリと都に笑いかける奈月。
そういえばあの日もこんな笑顔を
見た気がする。
どこか懐かしい気持ちになりながら
都は奈月を追いかける。
左耳には、月日を経て色褪せた
コーラルピンクの珊瑚が揺れていた。
これは完全に予想外の展開で、思わずタップする指が止まっちゃいました。時空を越えて出会ったり見守ったりする物語はロマンチックで素敵です。
きっといい関係を築きながら生活していくんだろうなって想像させるラストを迎えたわけですが、謎は謎のまま残っていますね。果たして彼が時空をわたる能力を持っているのか、それとも珊瑚の力が可能にした奇跡だったのか。真相にも興味が湧いてきます。
奈月くん、時空を越えて色褪せたイヤリングを持ってたのですね。この後ヒロインの右耳に赤色の珊瑚のイヤリングが揺れてるのかなぁ、と思ったら不思議な気持ちになりニヤニヤしてまいました(ミスリードだったらごめんなさい)
大学生になった奈月くんの言動もキュンとしたのですが、ファミレスで未来の自分に嫉妬していた奈月くんの可愛さにも後からキュンでした💕
楽しく拝読させていただきました。ありがとうございました!
奈月くんがあの時の彼とは!
あの日偶然であったのは、未来の奈月くんだったんですね。
こういう友達から恋人になる展開ってキュンキュンします!
大好きです!