@メンションマンション

藍川優

第四話 「1309号室」(脚本)

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〇本棚のある部屋
  小春に連れられてやってきたのは。
  1309号室だった。
  いわくつきの部屋だとは思えないくらい、中は綺麗で、自殺があったとは信じられない。
小春「・・・ふう、ここまで来れば安心かな」
夏菜子「そ、そうだね・・・」
小春「その顔、秋雄に色々と言われて、私のこと信じられないって感じだね」
夏菜子「そんなこと・・・!」
小春「いいの、でも、私の話も聞いて」
小春「えっと・・・1309号室の呪いについて、何か聞いたんだよね?」
夏菜子「うん・・・」
小春「どうせ、自殺した元住民が、呪いをかけてるとか言われたんでしょ?」
夏菜子「そうだけど・・・でも、信じられなくて」
小春「そりゃあ、そんな話信じられないよね。 いいよ、真実を教えてあげる」
  そう言って小春は何かを決意したような顔をして、私に向き直った。
小春「まず・・・呪いっていうのは真っ赤な嘘」
夏菜子「で、でも・・・それだとリンクルネストから妙なメッセージが来るのは?」
小春「あれは、私のお父さんが死ぬ前に仕掛けを施したってだけだよ」
小春「自殺した原因については、何か聞いた?」
夏菜子「秋雄さんも詳しくは知らないって言ってたけど、住民トラブルのせいだって・・・」
小春「・・・詳しく知らないなんて、よく言えたものね」
小春「お父さんが自殺したのは、秋雄の父親のせいよ」
夏菜子「どういうこと?」
小春「当時、秋雄の父親はマンションの自治会長として、権力を持ってたの」
小春「その力を利用して、お父さんが自殺するまで追い詰めた・・・」
小春「追い詰められた理由も、ちょっと騒音を注意したとか、そんなくだらない理由だったわ」
小春「お父さんはよほど悔しかったのか、死ぬ前にリンクルネストにある仕掛けを施したの」
夏菜子「それが、今来てるみたいなメッセージってこと?」
小春「そう、住民たちが書き込んだ個人情報やメッセージを秘密裏に解析して、住民同士をいがみ合わせるように仕組む、プログラムよ」
  あまりのことに、私は言葉を失った。
  果たしてそんなことが可能なのだろうか?
  でも、実際にこうして色々なことが起こっている以上は、認めるしかない。
小春「そうして、住民同士の関係が悪くなったところで、送られるもの・・・」
小春「夏菜子なら、もう何かわかるでしょ?」
夏菜子「・・・1309号室からの、メッセージ・・・」
小春「そう、誰もいないはずの部屋から、謎めいたメッセージが来れば、誰だって怯えるわ」
小春「トラブルを抱えていて、不安定な精神状態の住民たちは、お互いに殺し合うってわけ」
夏菜子「そんな・・・ひどい」
小春「ひどいのはここの住民よ」
小春「お父さんがどれだけひどい目に遭っても、無視してたんだから」
夏菜子「・・・・・・」
小春「・・・なんてこと、夏菜子に言っても仕方 ないわね。ごめん」
  そう言われても、私はなんて言葉を返せばいいのかわからなかった。
小春「さっき、管理人のおじさんが轢かれたのも、主婦のおばさんがベランダから落ちたのも、呪いなんかじゃないよ」
夏菜子「1309号室から、メンション付きメッセージが誰かに届いた結果っていうこと?」
小春「そう、管理人のおじさんが死んだのはこういうメッセージのせい」
  そう言って、夏菜子はスマホの画面を私に見せた。

〇黒
  『@1005 無能な管理人はマンションから消えなくてはならない』

〇本棚のある部屋
小春「ベランダから落ちたおばさんは・・・このメッセージかな」

〇黒
  『@503 家庭の輪を乱す意地悪な姑を許してはならない』

〇本棚のある部屋
夏菜子「・・・呪いなんかじゃなくて、全部、人のせいだったんだね」
小春「そう、メッセージを受け取った1005号室の人が、管理人さんを車で撥ねて、503号室の人がおばさんを突き落とした」
小春「ただ、それだけの話だよ」
小春「1309号室からのメンションに怯えたり、精神的に危うくなった住民たちが、勝手にやったこと」
夏菜子「・・・小春は、全部知ってたんだよね?」
小春「うん、もちろん」
夏菜子「止めようとは思わなかったの?」
夏菜子「小春なら、止めれたのに! そのせいで、たくさんの人の命が・・・」
小春「・・・私だって、悩んだよ。 でも、止められなかった」
小春「自殺したお父さんが残した手記には、嫌がらせのことや、誰も助けてくれない無念さが書いてあった・・・」
小春「あれを読んだら、お父さんの悔しさを住民たちに思い知らせるしかないって思ったんだ」
  そう言った小春の目から、次々と涙がこぼれ落ちた。

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