ある日の春

山本律磨

ある日の春(脚本)

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山本律磨

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ある日の春
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〇平屋の一戸建て
浩一「おーい」
浩一「おーい」
廣江「呼んだ?」
浩一「お前じゃない。はるだ」
浩一「小屋から出てこん」
廣江「どれ・・・」
廣江「寝てるだけじゃない」
浩一「昨日も全然飯食わなかっただろ」
廣江「そりゃあまあ、年だからね」
浩一「お前はよく冷静でいられるな」
浩一「はるに何かあったら俺・・・俺・・・」
廣江「今年に入って何回泣くのよ」
廣江「下痢で六回便秘で三回食欲不振で十二回ちょっと昼寝が長いだけで十五回」
廣江「過保護が過ぎるのよ」
廣江「涙腺がバカになってるのよ」
廣江「あ、そうそう。今日はお寿司にしますから」
浩一「寿司?」
廣江「こういう時はお寿司でしょ」
浩一「・・・」
廣江「じゃあ迎えにいってくるわね」
浩一「やめとけ。普通の晩飯でいい」
廣江「なんで?」
浩一「別に、帰って来たくて帰って来るわけじゃないんだ」
浩一「都落ちって訳じゃないけど・・・あいつにだってプライドってものがあるだろうし」
浩一「だからその・・・何だ・・・俺達は普通にしとけばいいんだよ」
廣江「厳しいんだか優しいんだか」
廣江「私はパーッとやるわよ。これからあの子もここで頑張って生きてかないと」
廣江「男のプライドなんか知ったことですか」
浩一「優しいんだか厳しいんだか」
廣江「で?どうするの?ここで待ってるの?」
浩一「はるが心配だからな」
廣江「あっそ。行ってきま~す」
浩一「あ・・・やっぱり俺も寿司で」
廣江「はいはい」
浩一「・・・」
浩一「おーい」
浩一「寿司だぞー。はるー」

〇山間の田舎道
  『以上交通管制センターより道路交通情報でした』

〇停車した車内
  『さて次は我が家のアイドルコーナー』
  『今日ご紹介するのは遠藤浩一さんのお宅のはるちゃん』
廣江「え?やだ、うそ!」
  『何と御年十五歳のおばあちゃん犬です』
廣江「録音録音・・・ってそんな機能ないか!」
  『はるちゃんは遠藤さんの息子さんが十五年前に拾って来た捨て犬だったそうです』
廣江「電話電話・・・って危ないか!」
  『はるちゃん、優しいお兄ちゃんに拾われて良かったね』
  『では天気予報です』
廣江「え?もう終わり?」

〇海岸線の道路
道夫「オーライ。オーライ。オーライ」
道夫「オッケ―でーす」
廣江「満タンで」
道夫「カードは?」
廣江「毎回聞くのね」
道夫「そろそろ作りましょうよ~お得っすよ~」
廣江「店長さんも板について来たわね。感心感心」
道夫「まあ一応。営業トークのひとつもできねーと下のもんにシメシつかねーんで」
廣江「あとは制服ちゃんと着れば、マイナス100点から晴れてゼロ点に格上げね」
道夫「へへ、俺はアメリカ式でやってるんで」
廣江「アメリカ人だって制服くらい着るわよ」
店員「失礼しま~す。窓お拭きしま~す」
廣江「ほら、家来はちゃんとしてるじゃない」
道夫「家来って・・・店員って呼んで下さい」
廣江「店員さんは100点。店長はマイナス100」
道夫「てめえ俺より目立つんじゃねーよ」
店員「サ~セン」
廣江「アンタの方が目立ってるからマイナス100なのよ」
道夫「それより今日でしたっけ?帰って来るの」
廣江「今から迎えにいくところよ」
道夫「高校ン時ぶりだから15年か」
廣江「私達も電話以外で顔合わせるのは15年ぶりよ」
道夫「え~!マジっすか?」
廣江「お父さんもあの子も意地っ張りだから」
道夫「それにしても限度ってもんがあるっしょ」
廣江「道夫くん。宜しくね」
道夫「な、なんすか改まって」
廣江「また仲良くしてあげてね」
道夫「当り前じゃないっすか」
店員「おつり560円になりま~す」
廣江「じゃあ。お疲れ様」
道夫「ありがとうございましたァ!」
店員「あざ~した~」
道夫「お前もっと元気に挨拶しろよな。声ちーせーんだよ」
店員「サーセン」
道夫「全く、最近の若いヤツは」
道夫「それよりあれだな。ギターあったっけな?」
道夫「いっそ新しいの買っちゃうか?ひひひ」
店員「え?店長ギターやってたんすか?」
道夫「へへっ!見えねーだろ。こんな真面目そうな俺が・・・」
店員「いらっしゃいませ~い!」
道夫「今元気かい!」

〇停車した車内
  『えーそれでは次はちょっと懐かしい曲いってみましょう。セクシャルバイオレッツでNOカントリー』
廣江「ふんふんふ~ん。ノ~カントリ~」
廣江「ふんふんふ~ん。ノ~ダーリーン」
廣江「キッチンクラッ~シュ。ランドリークラ~ッシュ」
廣江「クラッシュクラッシュマイホームクラ~ッシュ」
廣江「結構分かるわ~」

〇学生の一人部屋
晴人「クラッシュクラッシュ!マイホームクラッシュ!」
晴人「クラッシュクラッシュ!マイスクールクラッシュ!」
廣江「うるさーい!」
晴人「ってえな・・・」
進「ク・・・クラッシュされた」
晴人「なにすんだババア!」
廣江「あら道夫くん。突き飛ばしてゴメンなさいね」
道夫「い、いえ大丈夫っす」
廣江「っていうか三人ともいい加減にしなさい。近所迷惑でしょ」
廣江「ここは田舎なんだから、ちょっとは周りのことも考えなさい」
晴人「そういう歌なんだよババア!」
廣江「ほら道夫君も進君も、そろそろ帰って勉強しなさい」
廣江「三人とも受験でしょ?将来のこときちんと考えてるの?」
進「あ、俺もう一応、就職先決まってるんで。市役所。コネっすけど」
道夫「俺も親父のスタンドで働くんで」
晴人「そうだよ。二人とも金貯めて東京出てバンド組むんだよ。なあ」
道夫「あはははは」
進「あはははは」
晴人「あはははは」
晴人「あはははは」
晴人「逃げるな!」
廣江「ほら見てみなさい。二人ともちゃんと将来のこと考えてるのよ」
廣江「あ~あ。あんただけなのよ~。バンドやるとかマンガみたいなこと言ってるのは」
晴人「う、うるせえババア!殺すぞ!」
廣江「はいは~い。怖くないわよ~。お母ちゃん全然怖くないわよ~」
晴人「ぐぐぐ・・・」

〇田舎駅の改札
駅員「チッ・・・ここで課金か」
廣江「こらっ!何サボってるの?」
駅員「ああ。こんちは」
廣江「あんたもね。恋愛ゲームっての?そんなのばっかやらないで、もっとこう頑張りなさいよ。色々」
駅員「自由恋愛によるお見合い制度の崩壊は我々世代ではなくそちらの世代が引き起こしたものなのです。むしろ我々は被害者なんです」
駅員「はい論破」
廣江「あんたきっと一生結婚できないわね」
駅員「息子さん次の電車で戻ってくるんでしたっけ?ホームで待ってていいですよ」
廣江「あらありがと」
駅員「僕は常にケースバイケースで業務に取り組んでますんで」
駅員「なにごともフレキシブルに対応してゆくのが世界標準なんですよ」
駅員「おっと。遠藤さんにはちょっと難しすぎる話になっちゃいましたね」
駅員「ようは、四角四面で仕事をしてればいいという甘い時代じゃないってことです」
駅員「自分の責任で働く!」
駅員「そして自分の責任でサボる!それこそが」
廣江「駅長にチクるわよ」
駅員「すみません」

〇海岸沿いの駅
廣江「帰って来てもあの駅員とは関わらせないようにしないと」
廣江「・・・」
廣江「桜咲く・・・か」
廣江「あの時は桜なんて気にしてる場合じゃなかったわね」

〇平屋の一戸建て
廣江「やめてお父ちゃん!」
廣江「晴人もほら!早く謝りなさい!」
晴人「なんで謝んなきゃいけねーんだ!」
晴人「こんなクソみたいな田舎出て東京で音楽やるだけだろ!」
浩一「もういい。話にならん」
浩一「好きなように生きろ。だが言っておくが、クソみたいな田舎の敷居はもう一歩もまたがせんぞ」
浩一「この町で必死に頑張っとるみんなに顔向けできんからな」
廣江「お父ちゃん・・・」
晴人「上等だよ」
浩一「俺が仕事から帰って来る前に出ていけ」
はる「きゃんっ!きゃんっ!きゃんきゃんっ!」
浩一「全くうるさい犬だ。お前が面倒みないなら、もう捨てるからな」
晴人「クソ親父」
はる「・・・きゅん」
廣江「大丈夫よ。口だけだから」
晴人「お前も長生きしろよ」
はる「きゃん!」
晴人「へへへ・・・」

〇バスの中
晴人「・・・」
廣江「・・・」
廣江「不安なのよお父ちゃんは」
晴人「・・・」
廣江「あんたと一緒でね」
晴人「だ、誰がビビッてるって?」
廣江「あっそ」
廣江「じゃあ母ちゃんと一緒ね」
廣江「お母ちゃんは全然心配してないから」
晴人「ふん」
廣江「あ、今度免許取ろうと思ってるのよ」
晴人「あっそ」
廣江「いつか東京まで行こうかね。お父ちゃんとはるも連れて」
晴人「あっそ」

〇海岸沿いの駅
廣江「・・・」
晴人「・・・」
駅員「ま、まもなく~新山海行が到着いたします~は、白線~、失礼しました、黄色い線の内側に下がってお待ちください~」
廣江「あの駅員、きっと新人さんね」
晴人「・・・」
「山海~山海~」
晴人「見とけよ!一旗あげてやるからな!」
廣江「はいはい。行ってらっしゃい」
「発車いたしまーす」
廣江「・・・」
廣江「・・・」

〇平屋の一戸建て
浩一「おーい」
浩一「おーい」
廣江「呼んだ?」
浩一「お前じゃない。犬だ」
浩一「小屋から全然出て来なくなった」
廣江「捨てるなんて言うからよ」
廣江「あーあ。死んじゃったらお父ちゃんのせいね」
浩一「そ、そんな・・・」
浩一「おーい」
浩一「出てこーい。メシだぞー」

〇海岸沿いの駅
廣江「・・・」
駅員「まもなく奥山海行きが到着致します。黄色い線の内側に下がってお待ちください」
「山海~山海~」
晴人「・・・」
廣江「・・・」
晴人「桜・・・」
晴人「桜散るだ」
廣江「あっそ」
廣江「お母ちゃんは全然心配してないから」
廣江「あんたも下向かんと、顔上げ!」
晴人「!」
晴人「ははっ・・・」
晴人「まだ全然、咲いてるな」
廣江「はいはい。お帰りなさい」

〇平屋の一戸建て
はる「くんくんくんくん」
はる「くんくんくんくん」
浩一「あ!」
浩一「お~出てきたか~。はる~」
はる「わんっ!わんっ!」
はる「わんっ!わんっ!」
  ある日の、はる。

コメント

  • 凄いです・・・短編の映画を見ているような気持ちになりました・・・

    そして、読んでで最後の方で涙が出ました(´;ω;`)

    お母さんの深い愛情を感じますし、地元では桜が咲いてるっていうのにも、これからの希望を感じてすごく素敵だなって感じました

  • 母さんが涙を流すシーンでグッときました。
    世界観とキャラの書き込み今回も凄いですね。お見事でした。

  • 子供がある決断をする時なぜ怒り出す親がいるのか、それは我が子が心配で心配でならないからなんだろうなと、自身の過去を照らし合わせそう感じました。

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