「キュン」のためには『準備と練習』(脚本)
〇本棚のある部屋
・・・・・・
幼なじみ「・・・・・・ふぅ」
幼なじみ「・・・君が、好き」
幼なじみ「急にゴメンね。でも・・・好きだって、言わずにいられなかった」
・・・・・・
幼なじみ「どうかな?」
・・・・・・
幼なじみ「何か言ってよ。不安になる」
知らなかった・・・
・・・お前、"俺"のこと、そんなに好きだったのか
幼なじみ「違う」
幼なじみ「今のは告白の練習。感想、ちょうだい」
俺「いや、だったら先にそう言ってくれよ」
俺「いきなり部屋に来て、急に告白の練習するなよ」
俺「──って、え? 告白するの? お前が?」
俺「女子にキャーキャー言われるのが嫌で、小学四年生にして「俺は生涯独身を貫く」って宣言したお前が!?」
幼なじみ「俺、そんなこと言ったっけ」
俺「言ったよ! それで何人、いや何十人の女子を泣かせたと思ってるんだ」
幼なじみ「覚えてないし、過ぎたことはどうでもいい。今の俺には、生涯を共にしてもいいと思える相手がいるんだから」
俺「ほぇー。まさか、お前から恋愛相談を持ちかけられる日が来るとは・・・」
俺「これまではずっと、俺が相談する側だったもんな」
幼なじみ「別に。ただ話聞いてただけ。でも、その分、今度は俺の練習に付き合ってほしい」
俺(もちろん断りはしないけど。 急に練習始めたりとか、突飛というか。昔から妙なところにこだわるんだよなぁ)
幼なじみ「・・・何か言いたい時の顔してる」
俺「別にー。 それよりほら、練習するんだろ。もちろん付き合うから、さっさと始めようぜ」
幼なじみ「・・・ん。ありがとう。じゃあ、考えた告白セリフのパート3から」
俺(さっきのがパート2ってことか? パート1どこ行った?)
俺(・・・突っ込みたいけど、後にするか)
幼なじみ「君はさ、スナック菓子だと何味が好き? 俺はね、コンポタ」
幼なじみ「──ていうか、君が好き」
俺「・・・・・・」
幼なじみ「どうかな?」
幼なじみ「キュンって、した?」
俺「キュンとさせるつもりで、今のセリフか!?」
幼なじみ「当たり前。キュンとする、イコール好きになってくれるってことでしょ?」
俺「その方程式もちょっと怪しいが、今のでキュンとするかはもっと怪しいぞ」
幼なじみ「急に恋愛話に持っていくと緊張するから、まずは好きなお菓子の味を聞くところから入ってみた」
幼なじみ「そして、コンポタ味より好きという比較表現により、俺の気持ちの程度が伝わるようにしてみたんだけど」
俺「コンポタ味と同格にされて、キュンとするとは思えないんだが・・・」
幼なじみ「同格じゃない。別格」
俺(大事なのはそこじゃない!)
幼なじみ「今までずっと一番だったコンポタ味のおいしさも忘れるくらい・・・君が好き」
幼なじみ「こういうこと?」
俺「どういうこと!?」
幼なじみ「より具体的に伝わるよう、「一番」という表現を追加してみた」
俺「お前のコンポタ好きを理解してる相手でないと通じないし、比較対象がスナック菓子っていうのがそもそも違うかな・・・」
幼なじみ「ノーキュン?」
俺「ノーキュンだよ!」
幼なじみ「自信あったのに・・・」
幼なじみ「気を取り直してパート4」
俺(結構な数を用意してきてるんだな・・・)
幼なじみ「・・・・・・」
幼なじみ「・・・あ、黙って見つめてごめん。君の顔見てたら、君に一目惚れしたこと、思い出しただけ。今も、見惚れてた」
幼なじみ「あと、息するの忘れてた」
俺「あー、惜しい! 惜しいなー!」
幼なじみ「今度はどこがダメなの?」
俺「出だし好調かなーって思ったけど、後半だよ。息止めてたのところ、それ必要?」
幼なじみ「呼吸という無意識行動さえも止まるくらい、君に夢中であることを表現してる。だから、必要」
俺「さっきからそれなりに根拠はあるんだよな。でもなぁ・・・う〜ん」
幼なじみ「また、何か言いたい時の顔してる。遠慮しないでいい。ハッキリ言ってくれて構わないから」
俺「そっか、そうだな。うん・・・結論から言うと、全部ダメだな」
幼なじみ「ハッキリ言われると悲しい」
俺「ちゃんと理由もあるから! 多分、方向性は悪くないと思うんだ」
俺「でも、考え過ぎって言うのかな。余計なことまで言っちゃってる気がする」
幼なじみ「余計なことって、どの辺?」
俺「「息するの忘れてた」とか「コンポタより好き」とかだよ!」
俺「相手をキュンとさせたいって気持ちは凄い伝わるんだけど、頑張るべきはそこじゃないっていうか」
俺「補足やら強調表現を抜けば、どれもそこまで悪くないセリフだと思うんだ。相手を好きって気持ちはちゃんと伝わる」
幼なじみ「・・・・・・」
俺(・・・しまった。流石に怒らせたかな)
幼なじみ「・・・ない」
俺「ない?」
幼なじみ「いろんな言葉使って、いろんな言葉重ねないと・・・・・・俺の気持ち全部伝えられる自信、ない」
俺「・・・・・・」
俺(そっか、コイツなりに不安があってのことか・・・)
幼なじみ「でも・・・うん。相談してよかった。もう少し、パターン考えてみる。 俺の告白で、キュンとしてもらうために」
俺「まだパターン増やすのか・・・あ、それなら聞きたいんだけど」
俺「告白セリフパート1は、どんなの考えてたんだ?」
幼なじみ「パート1はもう言った。パート1をベースに、他のパターンを作ったから」
俺「もう言った? え、どれ?」
幼なじみ「一番最初に。部屋に来た時」
幼なじみ「・・・・・・ふぅ」
幼なじみ「・・・君が、好き」
俺「そのままが一番いいよ!」
幼なじみ「ノーキュン?」
俺「キュンだよ!」
終
キュンとさせる練習をする二人、最高すぎます!真面目に練習する彼に、相手を想う真剣さが伝わってきてグッときました。どんなに手垢のついた言葉でも、シンプルが一番伝わりますよね(笑)
「ノーキュン」には思わず笑ってしまいました。
とても楽しく拝読させていただきました。ありがとうございました!
なぜか「わかるー」と共感しました!コンポタネタ。絶対行けると思うのですが…(既にストーリーでダメ出し受けてました)
最初から(あ、これは楽しませてくれる)って期待させてくれる安定感があったように思いました。しっかり制御された面白さと言いますか。
ゆっくり見ていられる漫才のネタに似ている雰囲気でしたね。
最初の掴みからオチまでが綺麗に流れていて、書き手として羨ましいですよ。最後もピシッと締めていて、作りの整ったお話でした。