置き手紙ごときで捨てられるなんて思わないで!

千才森は準備中

読切(脚本)

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〇レトロ
  ”夢を見る
   夢を追う”
  ”その愚かさよ”
  ”純白であることしか取り柄の無い霧を
  抱きしめるようなものさ、
  夢を見続けるというのは。”
  ”今の僕の腕は、
  他に抱きしめるものがある。”
  ”君という、この世で一番確かな存在が。”

〇白

〇城の客室
  無性に月が輝いていた昨晩、
  あの男は私の耳元で
  そう、言ったのよ。
  嘘じゃないわ。
  真っ赤なワインに酔わされて
  理性が滴り落ち始めていたけれど、
  それでも
  彼のナッツのように軽くて
  甘みを含んだ声が、
  私の耳に残っているもの。
  それなのに!
  デスクの上に置かれていたのは、
  しなやかな字でしたためられた置き手紙と、
  紫の薔薇を模した東洋のかんざし。
  触れてみても温もりは感じられなかった。
  匂いさえ、すでに部屋には存在しない。
  これらを置かれたのが
  まるで何年も前のように錯覚してしまうのは、
  どれもこれも、
  彼の未練が染みていないから。
  南天に上った昼の太陽に急かされて、
  大きすぎるベッドで目を覚ましてみれば、
  この有様だった。
  この部屋で1人きり目覚めたことがどういうことなのかを理解するのに、数分かかってしまった。

〇赤いバラ
  『親愛なるマリアへ
  
   やはり、
   島国のベストサムライに会いに行くよ
  
             ジューダス』

〇城の客室
  サムライという生き物を語るときだけ、
  貴男の目が
  獣のように鋭くなることを知っていた。
  そのまなじりは、
  貴男が扱うレイピアの先端によく似ていた。
  その紫は、物言いたげで目に障(さわ)る。
  かんざしの差し方を知らない私は、
  どうすればいいのだろう。
  教えを請いに行けば良いのかしら? 
  その辺境の島国に。
  ため息交じりに、
  書き置きをギラつく裁ちバサミで切った。
  バラバラに。
  実態のある物しか断てない刃物を、
  これほど憎らしく思ったことはない。
マリア「上等じゃない。女には女のやりかたがあるわ」
  洋服用の生地と型紙をかき集め、
  裁縫道具と一緒に
  トランクケースへ詰め込んだ。
  これだけあれば、私はどこでもお店を開ける。
マリア「ペティ! ペティ!」
影「はーい、ただいま!」
  バタバタと行儀の悪い足音がドアを開けた。
  姿を現したのは
  仮面で表情を隠したメイド。
  名前はペティ。
  幼少の頃から館に使えている女性だった。
  主人の私でさえ、
  ペティの素顔を見たのは何年も前になる。
  可愛らしい容姿なのだけど。
ペティ「お呼びでしょうか、お嬢様。 ・・・そのお荷物は、どうなさいました?」
マリア「飛行艇を出して」
ペティ「ええ!? ど、どちらへ向かわれるのでしょう?」
マリア「島よ」
ペティ「島? ・・・コンティナンセン島でしょうか? お言葉ですが、 今の季節、かの島には見るものも少なく」
マリア「極東の島ジパンよ。 ペティも知っているでしょう?」
ペティ「島国ジパン。 もちろん耳にしたことはございますが・・・」
マリア「そこへ行くわ」
ペティ「・・・・・・はい?」
マリア「ジパンまで飛行艇を出しなさい」
ペティ「無理無理、 無理でございますお嬢様!」
ペティ「どれほどの距離があるとお思いでしょうか!」
ペティ「そもそも、なぜそんな島国に? お嬢様は一度も寄られたことのない国ではありませんか」
マリア「あの男が逃げたのよ」
ペティ「逃げ・・・・・・。 いや、あの、 朝早くに、滞在先のホテルへと戻られたようですけど」
  聞き分けの無いメイドに、
  憎たらしい置き手紙を突きつける。
  ペティの口から、
  あぁ・・・
  とため息が漏れた
マリア「わかる? わかったのなら速やかに準備なさい」
ペティ「・・・・・・『また』でしょうか。 お嬢様も、あのお方も凝りませんね」
ペティ「何もあのような忍者だか手品師だかに熱を上げられなくても、 お嬢様でしたらもっと家柄の良い旦那様を見つけられますでしょうに」
マリア「剣士よ、剣士。 貴女は余計な口を叩かずに、 準備をすればいいの」
ペティ「承知致しました」
ペティ「ですが、ジパンまでは旅客船で参りましょう。 手はずを整えておきますから、 数日お待ちくださいませ」
マリア「遅いわ!」
ペティ「途中で何度も給油をしなければいけない飛行艇よりは早く着く計算です」
マリア「そう・・・・・・。 じゃあ、そうして」
ペティ「かしこまりました」
  ジパンがどんな場所なのかもわからないし、
  もっと言えば、東がどちらなのかもわからない。
  でも、彼がそこに居るのなら、
  私は間違いなく見つけ出せる。
  待ってなさい、ジューダス。
  女の鎖をナメた罰を、
  たっぷり思い知らせてあげるから。

〇レトロ
  1話完結
  
  『置き手紙ごときで捨てられるなんて思わないで!』
  
  ...fin

コメント

  • 思いが彼女を強くするのか、凜々しくてかっこいいですね。
    思いの残ってない置き手紙だけですませるには、ちょっと惜しい彼女です。
    それをわからせてあげないと!
    読んでて楽しかったです!

  • 強い女の人、かっこいいですね!どんな時も勇ましく強くありたいです。楽しいお話しだったので次のお話しも読んでみたい気がします。

  • マリア、強い!かっこいいですね!「女だからって甘く見ないで」と、彼女の心の声が聞こえてきました。マリアはジパンで意地でもジューダスを見つけ出しそうですね。その時にジューダスがどう切り返すのか、飄々とかわすのか……今後の展開が気になってしまいました!

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