「再会と再開」(脚本)
〇病室のベッド
主治医「残念ですが お母さんは、もう・・・」
主人公「・・・」
主治医「あ、待ちなさい!」
〇大きい病院の廊下
〇病院の入口
〇渋谷駅前
お母さんの
死亡宣告を受けてから、
私はおかしくなった。
今まで興味もなかった
あやしい雑貨屋で、
『健康』『奇跡』『病気平癒』
のグッズを買い集めた。
〇本屋
その後、本屋で
『スピリチュアル』の棚を探していたら
『ビジネス書』の棚で
女子高生と母親らしき人間が
志望校について
揉めているのが目に入り、
主人公「うぅ・・・」
私は、
声を出して泣いた。
???「あれ、先輩?」
???「僕、伊藤です。 同じ高校だった・・・」
主人公「分かるよ、 『東大卒、イケメンIT社長』」
伊藤「あの雑誌、 表紙変えてほしいな」
伊藤「今だけです、 あーやってバズるの」
伊藤「変わらないのは、先輩が 僕の『先輩』ってことと・・・」
主人公「元カレってこと」
伊藤「大丈夫ですか?」
主人公「うん。 恋愛小説を読んで感動してね」
伊藤「レイモンド・チャンドラーを 愛読してた人が?」
伊藤「流すのは、血でしょ。 涙じゃなくて」
伊藤「・・・お茶しません?」
主人公「良いの? 雑誌によると、時給換算して 諭吉は下らないよね」
伊藤「もちろん!」
伊藤「荷物、持ちますね」
主人公「いや、良いよ。重いし」
〇道玄坂
〇レトロ喫茶
主人公「八年ぶり?会うの」
伊藤「ええ。先輩、卒業式の後 急に音信不通になったから」
伊藤「てっきり彼氏が できたんだと思ってました」
主人公「あれ。 彼氏いないって言ったっけ?」
伊藤「いえ。 カマかけたんです」
主人公「探偵になれるよ。 殺人現場の潰れたペン先で、 犯人を探し当てれるような」
伊藤「ホームズにはなれないけど マーロウ並にしぶといですよ」
伊藤「今もこうして、先輩の心を 探し当てようとしてます」
主人公「・・・私は普通の大学を出て、 地味な会社のOLだよ」
主人公「出世もせずに、特技もない。 お察しの通り、彼氏もいない」
〇ホテルのレストラン
主人公「伊藤くんは、勝ち組らしく ふさわしい女と過ごせばいい」
主人公「寝顔から素顔まで、 SNS映えするような女とね」
〇レトロ喫茶
伊藤「確かに、誘われはします。 今日も例外じゃない」
伊藤「でも僕は、 先輩を選んだ」
主人公「夢、見すぎだよ。 過去の恋愛は美しいからね」
主人公「再会して炎が燃え上がっても、 その熱は三日と続かない」
伊藤「半月続くかもしれないし、 二年続くかもしれないし、」
伊藤「そう言い合う間に、一生が 過ぎるかもしれませんよ?」
主人公「・・・かつて、私に 全てを捧げてくれた人がいた」
〇通学路
主人公「お金も時間も、 自分の人生さえも」
主人公「でも、その人を 待ち受けてたのは──」
〇通学路
〇通学路
──欠陥品だよ。
私のようなね
〇病室のベッド
主人公「母が事故に遭ったのは、 銀行から帰る途中だった」
主人公「副業詐欺にあった 私を救うために、 振込みしてたんだ」
主人公「意識不明の重体で、 助からないと言われてる」
〇レトロ喫茶
伊藤「それは、お母さんが 自分で選んだ道です」
伊藤「先輩には、先輩の 人生を送る権利がある」
伊藤「だから、責任を 感じる必要ないですよ」
主人公「学歴も就職先も、 年収も残念な『娘』でも?」
伊藤「はい。 お母さんが先輩を愛したのは、 『良い娘』だったからじゃない」
伊藤「覚えてますか? 僕らが付き合ってた頃の、 ホワイトデー」
〇センター街
伊藤(高校生)「先輩! 遅れてすみません!」
伊藤(高校生)「実は、財布なくしちゃって。 どっかで落としたか、スられました」
伊藤(高校生)「一緒にデパ地下で チョコ買う予定だったのに・・・」
主人公(高校生)「そっか。 大変だったね」
主人公(高校生)「・・・ちょっと、 あそこのコンビニ寄らない?」
〇コンビニの店内
主人公(高校生)「実は、デパ地下の高級チョコより こっちの方が好きなんだ」
主人公(高校生)「好きなもの食べれて、 良いホワイトデーになりそう」
主人公(高校生)「ありがとうね」
〇レトロ喫茶
伊藤「先輩の優しさに、 僕は救われてきました。 多分、お母さんも」
伊藤「肩書きなんて、どうでもいい。 ただのラベルでしかない」
伊藤「先輩の何気ない行動が、 先輩という人間(ひと)なんです」
伊藤「だから、俺は── 先輩のことが好きだったし」
伊藤「今でも好きだし、 これからも好きでいます!」
主人公「もしもし、先生? ・・・え、うそ!?」
主人公「お母さんの 意識が戻った・・・」
伊藤「すぐ向かってください! タクシー拾います!」
〇道玄坂
伊藤「明日、お見舞い行きますね。 アプデ(アップデート)したいし」
主人公「良いけど、そのカタカナ単語。 いかにもIT系、って感じ」
伊藤「そりゃ、そうでしょ! 最先端のビジネスしてんだし!」
主人公「はは。昔から変わらないね。 その、根拠のない自信」
伊藤「・・・根拠は、 先輩がくれたんです」
伊藤「『特別な理由がなくても、 あなたは此処にいても良い』」
伊藤「『あなたは生きてるだけで尊いし、 大切にされるべき存在だ』って」
伊藤「ぜーんぶ、 先輩から教わったんです!」
伊藤「・・・あ! あれ、忘れてますよ」
伊藤「重・・・預かっときますね。 明日、持ってくんで」
主人公「・・・ありがと。 これだけ持ってくね」
主人公「じゃ、行くね。 また明日」
〇タクシーの後部座席
病院へ向かうタクシーで、
パワーストーンを抱きしめた。
今までの私を、
抱きしめるかのように。
『○○大学』『年収○○万円』など、
ラベルばかり求めていた。
それらがあれば、
愛してもらえると思っていたから。
タクシー運転手「お客さん。それ、何ですか? ラッキーストーン?ってやつ??」
主人公「パワース・・・いえ。 ただの、石ころです」
主人公「でも、気に入ってるし 大切にするつもりです」
私は、愛されている。
ラベルが何であったとしても。
〇道玄坂
だから──
伊藤「ちょうど、電話するとこだった。 明日、何か買って行きましょうか?」
伊藤「チョコとか。コンビニの!」
伊藤「・・・ちょ、冗談ですってば!」
ひとりで持つには
重すぎる『人生』は、
誰かに手伝って
もらっても、良かったんだ。
伊藤君との再会により、誰かからの愛を再確認出来、過去の自分と別れる事が出来た主人公の変化が楽しめました。素敵な物語ありがとうございました!
あ、そのままでいいんだ。ちょっとコーヒーを飲んでね。ありがと。
とっても気持ちのいい読後感の物語ですね。真っ直ぐに人を愛し、真っ直ぐに物事の価値を見つめることを思い出させてくれて清々しくなれます。