逆転!ギャンブラー更生編(脚本)
〇パチンコ店
博打。それは人生を破壊するもの。
博打。それは一瞬で人生を輝かせる麻薬。
博打。それは魔性の女。
傍にいれば恍惚として有頂天。
離れれば悶え苦しみ恋焦がれ死ぬ。
銭狂井吉五郎「来いっ!来いっ!来いっ!来いぃいいいい!!!!」
目玉飛び出る勢い、パチンコ台に祈る男。
住所不定無職。拾い集めた金で公営ギャンブル。
侮るなかれ落とし金。都内年間、39億弱。
小銭拾いの銭狂井吉五郎。今日も今日とてギャンブル日和。
銭狂井吉五郎「ちきしょお!!!ちきしょうがよぉおお!!!!」
ツキに見放され、怒り狂う吉五郎。
台をバンバンと叩いていると、店内のボーイに羽交い絞め。
店を追い出され、店の前で絶叫。
銭狂井吉五郎「うあああああ!!!!あああんあなあああ!!!ぎゃあああああ!!!!うがぁああああ!!!」
〇街中の道路
街ゆく人の白い目。哀れな動物を見る目。
餌にありつけず、金にありつけず、何物にもありつけない。
銭狂井吉五郎「ああああああ!!!!!!うがあああああ!!!!なぁあああああんなあああああああ!!!!」
哀れな動物の慟哭。それを見て心を落ち着ける凡人たち。
あんな風にはなりたくない、と心の中で願いながら、
あんな存在がこの世にいてくれる、という安心感を抱きながら、
嫉妬、憎悪、嫌悪、数多の怨念を心の中で混ぜ込みわかめな炊き込みご飯人間ども。
鼻で笑い、膝が笑い、嘲笑って去る同種の人間ども。
銭狂井吉五郎「俺と、奴らの違いは、なんだってんだよぉおおお!!!!」
何度も、地球に八つ当たり。されど、地球、びくともせず。
吉五郎。転がる、拗ねる。まるで駄々っ子。
されど、金の雨は降らない。
ひたすらに、公園の小鳥のように小銭拾いをする毎日。
コスパ最悪。されど、止められず。
たった一回、たった一回の成功に、全てを賭けた男。
銭狂井吉五郎「いつか、いつか、高級マンションに住んでやらぁ」
〇広い公園
しかし、やること変わらず。働く意欲ゼロ。
気の抜けた炭酸のように働く気ゼロ。
ゼロカロリーのコーラよりもゼロの男。
ゆえに、ゼロには何も掛けない。乗算しない。
働かない。だから、金を拾う。そして、その金をギャンブルに投じる。
自転車操業。哀れな自転車操業。
それでも、天が振り向く日がやってきた。
〇個室のトイレ
腹痛を抱え、トイレに駆け込む吉五郎。
すると、便座の上にデカくて黒いバッグ。
中を開けると、万札、万札、パンパンの万札。
銭狂井吉五郎「う・・・うそだろ・・・」
全身、滝のように汗が噴き出す。
一生遊んで暮らせる金。死ぬまで高級マンション最上階確定。
あらゆる夢が、妄想が、吉五郎の頭の中で浮かんでは消える。
まるで、沖スロのハイビスカス点滅のごとく。
これほどまでの明滅。夢と妄想の明滅は、深夜に名の知れぬ若者に
親父狩りに会い、ライトを付けたり消したりされた時以来。
あの時の、猫騙しならぬ親父騙し。否、光に弄ばれた日以来の、夢と妄想の明滅。気づけば吉五郎、涎を垂らし、
全身の穴と言う穴から謎の液体噴き出し、
はっと我に返ってバッグを持つと、
周囲に目配せをしながら、自らの段ボールハウスへと帰宅。
〇広い公園
銭狂井吉五郎「へっへっへ、神様ってのは、神様ってのは、本当に、焦らしやがってよぉおおおおお!!!!!!」
もう一度、バッグの中身を確認する。
間違いない。大金。とんでもない大金。
ちょっとずつ使おうなどと吉五郎は考えない。
銭狂井吉五郎「これで、、、ギャンブルで、、、増やす、増やす、増やす・・・」
生粋のギャンブル中毒者。滾る血。
今、目の前にある金額。ざっと3000万円。
これが、ギャンブルで6000万、1億2000万、2億4000万。
倍々のギャンブル。理屈抜き、破格の金額。
吉五郎、いてもたってもいられず、バッグを持って段ボールハウスから飛び出す。
すると、何かにぶつかった。
???「あいたっ!なんですな、子犬様ですかな!?」
銭狂井吉五郎「うっ!」
家の前に、見知らぬ男がいた。その眼の輝きに思わず顔を覆った吉五郎。
いつか日の目を見る太郎「あ、あれま!これは、これは、大変に失礼しましたですな」
銭狂井吉五郎「ちっ、邪魔だな。どっか行け」
燦燦と輝く眼が鬱陶しく、吉五郎は野犬を払うような口で言った。
いつか日の目を見る太郎「あのう、どうかされましたか?」
銭狂井吉五郎「は!?なんだてめぇ。俺の顔になんか付いてるってのか?」
いつか日の目を見る太郎「いえ、何やら、慌てているご様子なもので・・・」
銭狂井吉五郎「あ、慌ててねぇよ!てか、お前、誰だよ!?」
いつか日の目を見る太郎「こ、これは失礼しましたですな。おいら、いつか日の目を見る太郎と申しまして」
銭狂井吉五郎「いつか日の目を見る太郎?変な名前だな」
いつか日の目を見る太郎「よく言われますな・・・」
銭狂井吉五郎「ちょっと急いでいるからよ。またな。ミルクレープ」
いつか日の目を見る太郎「見る太郎ですな!あの、ちょっと!」
銭狂井吉五郎「な、なんだよっ!俺は忙しいんだよ!」
いつか日の目を見る太郎「いえ、あなたのお名前は?」
銭狂井吉五郎「ああん?俺は吉五郎。銭狂井吉五郎ってんだ!」
いつか日の目を見る太郎「ぜにぐるい、きちごろう・・・」
銭狂井吉五郎「変な名前だと思ったろ?俺だって思ってるさ。でも仕方がねぇ、みんなそう呼ぶから、気にしてねーんだ」
いつか日の目を見る太郎「それで、吉五郎さんはどちらへ?」
銭狂井吉五郎「そりゃお前、ギャン」
思わずギャンブルと言いかけて、吉五郎は口をつぐんだ。
いつか日の目を見る太郎「ギャン?なんですな?」
銭狂井吉五郎「ギャン・・・グダンスだ」
いつか日の目を見る太郎「な、なんですと!?」
銭狂井吉五郎「そ、そうそう。ギャングダンスのレッスンがあるんだよ。ほら、知らねーか。ズッタン、ズッズッタン!」
いつか日の目を見る太郎「し、知りませんな!」
銭狂井吉五郎「そ、そうか。じゃあ勉強になったな!じゃ、あばよ!」
いつか日の目を見る太郎「あのーう!」
銭狂井吉五郎「なんだよ!?まだ何かあるのか!?俺は忙しいんだよ!!!」
いつか日の目を見る太郎「いえ、そのバッグの中身は衣装ですかな?」
銭狂井吉五郎「ん?あ、ああ!そ、そうそう!ギャングダンスの衣装!」
いつか日の目を見る太郎「どんな衣装なのか、見てもいいですかな!?」
キラッキラの目を向けてくるいつか日の目を見る太郎に、苛立ちが頂点に達する吉五郎。
銭狂井吉五郎「うるせぇ!企業秘密だ!あっち行け馬鹿!!!!」
いつか日の目を見る太郎「は、はいな・・・」
〇ビルの裏
銭狂井吉五郎「ふいー、なんとか騙せたか」
パチンコ屋の裏に隠れる吉五郎。
大事にバッグを抱えているが、どう考えても目立つ。
かといって、置く場所などどこにもない。
もう一度段ボールハウスに戻ろうかと思うも、
さきほどの馬鹿な男に見つかっても面倒である。
銭狂井吉五郎「ま、なんとか誤魔化すか・・・」
???「おーい!そこのきったねぇの!」
明らかに悪意のある声。心臓を突き刺されたかのようなショックに、吉五郎の視界が一瞬、暗くなった。
悪魔咲翔一「おいおいおいおい、吉五郎ちゃんよぉ。どうしたんだ、そのデケェバッグは」
銭狂井吉五郎「こ、これはこれは。悪魔咲の旦那・・・へへへ、ちょっとダンスの衣装でございまして」
悪魔咲翔一。天下の悪魔咲不動産の社長にして、数々の大物政治家と繋がっている男。悪魔咲金融は闇金会社として名が知られている
悪魔咲翔一「ほう。おめぇ、ダンスに目覚めたか。どうだ、ダンスしながら釘を飲み込むってのは」
悪魔咲翔一「昔イタリアでよ、釘を30本飲んで、食道に穴が開いて死んだ乞食がいてな。面白かったぞぉ」
悪魔咲翔一「血がよぉ、色んなとこから出てくるのよぉ。体の中から黒ひげ危機一髪やってるのかよってなぁ」
銭狂井吉五郎「へ、へぇ・・・そいつは、面白そうですな・・・」
悪魔咲翔一「面白れぇのよ。なあ、吉五郎ちゃんよ。どうだ。一回50万。やってみねぇか。釘飲んで踊るっての」
銭狂井吉五郎「い、いえ。あいにく金属アレルギーでございまして」
悪魔咲翔一「ほーん。だったらよぉ。饅頭飲み込みダンスってのは・・・」
銭狂井吉五郎「あのう、なんか飲んで踊らないといけないんすか、それ・・・」
悪魔咲翔一「そりゃ当たりめぇだろ。女だったら脱いで踊る。オカマだったら胸触らせて踊る」
悪魔咲翔一「ただ踊るだけで金取れんのは、ミッキーマウスか荒川静香くらいのもんだろうが」
銭狂井吉五郎「いや、荒川静香は滑ってる気が・・・」
悪魔咲翔一「どっちでもイナバウアーだ馬鹿野郎」
悪魔咲翔一「そうだ。思いついた。鼠齧りながら、イナバウアーってどうよ」
銭狂井吉五郎「あの、すんません。もういいですか・・・」
悪魔咲翔一「ちょっと待てって。そのバッグ。中身見せろ」
銭狂井吉五郎「いえ、あの、ダンスの衣装なもんで、企業秘密・・・」
悪魔咲翔一「馬鹿言えよ。なんだてめぇ。なんかのテレビのエキストラでもやるのか?」
銭狂井吉五郎「そ、そうなんすよ。今度、新作のAVでジョボジョボエブリバディっつうのがありましてね、」
銭狂井吉五郎「監督が俺のギャングダンスを気に入ってくれたんす」
悪魔咲翔一「ほう、ジョボジョボエブリバディねぇ。下世話でいいねぇ。最高じゃねぇか。よし、吉五郎ちゃん。踊って見せてくれ」
銭狂井吉五郎「いえ、あのまだ公開前なんで・・・」
悪魔咲翔一「いいんだよ。Vtuberだって違法でAV見てんだから。どうせネットに違法でアップされるだろ。その時見るからよ」
悪魔咲翔一「な!見せてくれ!」
銭狂井吉五郎「悪魔咲さん。それ完全にアウトな発言ですよ・・・」
悪魔咲翔一「ああん?なんだてめぇ。見る金もねぇくせに生意気いいやがって」
銭狂井吉五郎「いえあの、サンプルで満足なんで・・・」
悪魔咲翔一「つべこべ言ってねぇで、踊れ糞が!!!」
〇ビルの裏
悪魔咲の拳が吉五郎の顔面を捉えた。
銭狂井吉五郎「あぶぅうう」
悪魔咲翔一「この前よぉ。うちの不動産のガキが、3000万持ち逃げしてトンズラこきやがってよぉ」
銭狂井吉五郎「う、ううう・・・」
悪魔咲翔一「そいつ見つけて、半殺しにしてやったんだよ」
銭狂井吉五郎「へ、へええ・・・」
悪魔咲翔一「でもよぉ。そいつ、嘘つきやがった」
銭狂井吉五郎「ど、どんな嘘を・・・」
悪魔咲翔一「お前の住んでる公園の便所に黒いバッグに入れて金を置いたって嘘ついた」
銭狂井吉五郎「う、うそ・・・」
悪魔咲翔一「そうよ。大嘘よ。見てみたら、なーんにもねぇんだ。この後、そいつを東京湾に沈めようと思うんだけどよ」
悪魔咲翔一「たーまたま、道を通りかかったら、お前が黒いバッグを持ってた。運命の女神様ってのはいるもんだなぁ」
銭狂井吉五郎「な、なにか、誤解を・・・」
悪魔咲翔一「いいや。間違えちゃいねーよ。俺の勘は冴えてるんだ。 なぁ、吉五郎ちゃんよ。あの金は見つかるとやべぇ金なんだ」
悪魔咲翔一「密入国したチャイニーをよ。掻っ捌いて、臓器売って、富豪から巻き上げた金。政治の裏金、色んなもんが混ざってる」
悪魔咲翔一「そーんな金がよ。どこぞの小銭拾いに拾われちまった日には、俺の持ってる会社、一族代々受け継いできた財産」
悪魔咲翔一「みーんな無くなっちまう」
銭狂井吉五郎「そ、それは良いことで・・・」
悪魔咲翔一「いい訳ねぇだろぉがぁあああ!!!ぶっ殺すぞぉ、おらぁ!」
銭狂井吉五郎「ぐぼおおううう!!!!」
何度も何度も蹴られ、殴られ、吉五郎の意識は朦朧とした。
銭狂井吉五郎(もう、二度とギャンブルはしない。 金拾いも止める。 だから、どうか神様。 助けてください)
???「ちょっと待つですなぁ!!!!!!!」
〇ビルの裏
まばゆいばかりの光を放ち、天を衝くほどの張りのある声で叫ぶ男。
どん底から這い上がり、いつか日の目を見る日を信じ続ける男。
顔に二つの太陽を持つ男。努力の大地に、向日葵の花を咲かせる男。
悪魔咲翔一「なんだてめぇは!!!!!」
いつか日の目を見る太郎「おいらは、いつか日の目を見る太郎!あなたのお名前は!?」
悪魔咲翔一「うるせぇ、変な名前の小僧に名乗る必要なんてねぇ」
いつか日の目を見る太郎「そ、そうですか・・・」
悪魔咲翔一「どっか行け、小僧」
いつか日の目を見る太郎「いえ、行きませんな」
悪魔咲翔一「なんだと?てめぇも、こうなりてぇか!?」
髪をひっつかまれ、ボロボロになった顔をさらけ出された吉五郎。
目からは涙が零れ落ち、情けなくいつか日の目を見る太郎を見つめた。
銭狂井吉五郎「あ、あんた。さっきの・・・変な名前の・・・」
いつか日の目を見る太郎「吉五郎さん!あなた、どうしてそんな目に・・・」
銭狂井吉五郎「す、すまねぇ。見る太郎さんよぉ。これは全部俺が、いけねぇんだ・・・」
かっかっかと高笑いする悪魔咲。
悪魔咲翔一「かっかっか!そうよ、その通りよ!こいつはよぉ。きたねぇ、きたねぇ、生きている価値もねぇ、ゴミくずの小銭拾いよ」
悪魔咲翔一「誰かが落とした金を拾い集めてギャンブルすることしかできねぇ、フンコロガシよぉ!」
銭狂井吉五郎「フンコロガシ・・・」
悪魔咲翔一「そうよ!糞を転がして生きてる虫けらよぉ!」
いつか日の目を見る太郎「立派ですな!フンコロガシは立派!立派!」
悪魔咲翔一「ああん?なんだと?」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
太郎さんにギャングダンスの才能を見つけてもらえて何よりな結末でした!ってな感じで、太郎さん今回もいいご活躍しましたね。世に有名な水戸○門様もびっくりです。
とてもシリアスな内容なのに、なぜか楽しく読ませていただきました。
そうですよね、どん底にいたっていずれは日の目を見たいと思うでしょう。
そこに引っ張り上げてくれるきっかけは、やっぱり彼なのかと思います。
哀れながらも人間臭い吉五郎さんが救われてよかったです。いつかは自分も…という夢が、ギャンブラーさんたちの心の中には大なり小なり渦巻いているんでしょうね。毎回登場人物のお名前が面白くて…それを見るのも楽しみです。今回も小さなネタから大団円まで痛快でした!