御霊預かり屋

もとやまめぐ

読切一話完結(脚本)

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〇航空管制塔
  空は青く澄んでいる
  私には、曇って見える
  何をやっても上手くいかない
  ここに来たって
  やはり何か出来るわけもなく
  ただただ
  自分の無能さを痛感する
ハヤト「なーにやってんだよしーんじん!」
ユメカ「そろそろ名前で呼んで頂けませんか」
ハヤト「んじゃ、俺が名前覚えるくらいがーんばーれよー♪」
  パートナーのハヤトが、
  まるで座っているように胡座をかいている
  「まるで」と言ったのは
  その場所は空中で、
  地べたにいる私から見たら
  逆さに存在しているからだ
ユメカ「はぁ・・・」
  自然とため息が続く
  生きていたときも、ずっと下を向いていた

〇渋谷のスクランブル交差点
  良いことなんて何もないし
  勉強も運動もできない、趣味もこれといってない
  生きることは苦痛そのもの
  前世に大罪でも犯して、この世界で刑を受けているのではないか
  そう思っていたら
  
  
  死んだ
  横断歩道を普通に渡っていたら
  高速で走ってきたトラックにはねられた
  そして私は
  御霊預かり屋になった
  魂がこの世で迷子にならないように
  道案内をする仕事
  しかし、一向に空は飛べそうもないし、
  未だに誰の魂も運べたことがない

〇学校の屋上
ハヤト「おい新人、次の予定者見つけたぞ」
ユメカ「あ・・・」
  顔を上げると、いつの間にか私はどこかのビルの屋上にいた。
  これが預かり屋に必要な能力らしく
  私には元々備わっていたため、この仕事に採用された。
  尤も、面接もなければ、断ることもできなかったわけだが。
ハヤト「おじょーさん♪ やあ!驚かせてごめんね 今から飛ぶの?」
  ハヤトが余りにも軽い声掛けをしていてヒヤヒヤする
  ここまできているんだ、さぞ思い詰めてのことだろう
  だが、ハヤトにその感情は分からないらしい
ユメカ「お、驚かせてすみません 我々は御霊預かり屋と申します」
ユメカ「あなたが自殺されましたら、その御霊が迷わぬよう案内をさせていただきます どうぞご安心ください」
予定者「・・・は?なに、言ってんの・・・ なに、わたし、もう死ぬこと決まってんの? ・・・なんなのよ!どいつもこいつも!」
予定者「どんだけ頑張っても頑張っても、誰も評価なんかしてくれない!真面目だって笑うだけ!そして最後にはこれなの?」
  フェンスを握り締めながら、予定者の彼女は泣き出してしまった
ユメカ「お気を悪くされたのでしたらすみません 私も、その気持ちは分かります ・・・この世は、理不尽と苦痛ばかりですよね」
  なんでこんなこと言い出したのか、自分でも分からない
予定者「・・・あなたも、死んだの?」
  予定者は、目を丸くして私を見上げた
ユメカ「はい」
予定者「そっか・・・ あなたも、辛かったのね」
  同情されたことなんて初めてだ
  どうしてこんな反応をされたのか、
  私はどう返事をすればいいのか、
  分からなくて黙り込んでしまった
予定者「あなたは、死んだときどう思った? 思い残してることとか、死んだら親はどう思うだろうとかさ」
ユメカ「・・・もう、昔のことなので忘れてしまいましたね」
予定者「そういうもんなのかぁ・・・ 死んで忘れちゃうのも、いいかな・・・ 覚えてるから苦しいんだよね、きっと」
ユメカ「苦しさは人それぞれだと思いますが、今の辛いという事実から放たれたいという人が、 自殺を選ぶ場合は多いですね」
予定者「そうだよねぇ ・・・ここで死んで、会社のやつら全員苦しめ、なんて思ってたけど」
  予定者は、顔を上げて立ち上がった
予定者「やっぱやめようかな 一瞬の仕返しをしてやるために、わたしを無駄にするのは勿体ない気がしてきた」
ユメカ「えっ・・・」
予定者「せっかく来てくれたのにごめんね、もうちょっと生きてみることにするよ 聞いてくれてありがとう 死神さん」
ユメカ「いえ死神ではなく・・・」
  行ってしまった
  リストから、彼女の名前が消えている
  命が続く未来に変わったのだ
  そして、私はまたやってしまったということだ
ハヤト「あーあ、まーたやっちゃったねぇ〜」
  ハヤトがニヤニヤしながらこちらを見ている
ユメカ「すみません・・・」

〇学校の屋上
  やはり、なにをやってもまともにこなせない私は、この仕事でもお荷物だ・・・
  下を見ると、視界が霞んだ
  ポタッと落ちたはずの雫は、地面に届くことはなく、モヤとなって消えた
ハヤト「お前は優しいんだよ 誰かを救えるのって、才能だと思うけどね」

〇学校の屋上
  見上げると、ハヤトが珍しく真面目な顔で私を見つめている
ユメカ「救う・・・?」
  もちろん、そんなつもりはない
ハヤト「お前はいつもそうやって、死にそうなやつの話聞いてやって、最後にはみんな笑ってるじゃないか」
ユメカ「つまり、私はこの仕事に不向きということですよね、すみません・・・」
ハヤト「違うよ」
ユメカ「え?」
  明るい声から否定され、思わずハヤトを見ると、その顔が目の前にあった
ユメカ「なっ・・・!ち、近い・・・!」
ハヤト「ユメカの顔が見たくなったから」
ユメカ「こんな近くなくていいでしょ!」
ハヤト「やーだ」
  ハヤトの唇が、私と重なった
ハヤト「ごちそーさま」
ユメカ「な・・・・・・・・・なっ!!!」
ハヤト「良い名前だよね、ユメカって」
ユメカ「話を逸らさないでください!! 今の・・・!」
ハヤト「え?呼んだじゃーん、名前」
ユメカ「あ・・・・・・・・・ってちっがーう! それもだけどそこじゃなーい!」
ハヤト「さーあ次の予定者のとこにいこいこー♪」
ユメカ「待てこらー!!」

〇航空管制塔
  私は御霊預かり屋の新人
  夢叶(ユメカ)

コメント

  • 飄々としたハヤトさんに振り回され気味なユメカちゃん、という関係性が凄く良いなと思いました!こういう2人組に、現実でも会ってみたいものです。素敵な作品ありがとうございました!

  • とってもいいコンビですね、ハヤトとユメカ。正反対の性格だからこそ相性が良くて。
    ユメカの優しさがじわじわ心に染みますね。このように心の痛みを共感されたら、自殺なんてできなくなります。

  • 死にたいほど悩んでる人を、笑顔にするのって相当の才能だと思いますよ!
    たぶんそんな感じで、いろんな人を救ってるんだろうなって思います。

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