ホトケの徳さん

松田エルナ

ホトケの徳さん(脚本)

ホトケの徳さん

松田エルナ

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ホトケの徳さん
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〇広い公園
  ・・・

〇学校の校舎
  ・・・

〇結婚式場の入口
  ・・・

〇黒

〇CDの散乱した部屋
  ・・・

〇レトロ喫茶
ユウジ「ああっ!!徳さん、お久しぶりです!」
徳山「やあ、ユー坊。15年ぶりだな 元気そうじゃねえか」
ユウジ「いやあ徳さん、すっかり白髪だな でもお元気そうだ」
徳山「ユー坊はガキんときからデケェままだな 敬語は多少使えるようになったみてぇだけどな」
ユウジ「ははっ! ・・・徳さん、今日は遠い所ありがとうございます」
徳山「いいんだよ、呼び出したのは俺の方だからな 仕事終わりに悪かったな」
ユウジ「すみません、このあと娘の習い事の迎えに行かなくちゃなんで短時間になっちゃいますが・・・」
徳山「そうか・・・お前にも家族が出来たんだってな」
ユウジ「ええ・・・何もかも徳さんのおかげです 本当にあのときはありがとうございました」
徳山「・・・」
ユウジ「ところで、徳さんはまだ仕事続けてるんですか?」
徳山「いんや、「ホトケの徳さん」はもう引退だ」
ユウジ「そっか・・・長い間お疲れ様でした」
徳山「ユー坊はあの工場でずっと働いてるんだってな」
ユウジ「ええ、そうです 妻と出会ったのもそこで」
徳山「そうか・・・自分には何もねぇとか言ってたお前が大切なものを手に入れられたんだな」
ユウジ「辛いときも妻に支えられてなんとかやってこれました 今は妻と娘のためにがむしゃらに働いてます!」
ユウジ「俺にとってあの二人がかけがえのない宝物なんです」
徳山「ははっ・・・!それを聞けて良かったよ」
ユウジ「徳さん・・・」
ユウジ「あれっ?徳さんシャツにシミが・・・」
ユウジ「やだなぁ、ビシッとしてたホトケの徳さんがそんなんじゃ」
徳山「ああ・・・どうも男の一人暮らしってのは不精になっていけねぇな ずっと仕事漬けで家の事なんてやってこなかったからな」
ユウジ「徳さん・・・」
徳山「ん?」
ユウジ「あのときは・・・本当に、すみませんでした!!」
ユウジ「今の俺があるのは全部徳さんのおかげです! 捕まえてくれたのが徳さんじゃなければどうなってたか・・・」

〇留置所
  15年前──
徳山「よお、ユー坊 ちゃんとメシ食ってるか?」
ユウジ「なんだよ・・・ テメェが捕まえた獲物の様子を楽しみに来たのか?」
徳山「悪いが汚ねえ馬鹿面を眺める趣味はねぇな」
ユウジ「じゃあ何しに来たんだよ! こんなとこにいつまでも繋いでないでさっさと死刑にしやがれ!!」
ユウジ「どうせ俺には何もねぇんだ! 親も、ダチも、何も・・・!!」
ユウジ「あんだけ轢き殺したら死刑になんだろ・・・? さっさと殺せよ!!」
徳山「・・・飲酒運転、無免許、自動車窃盗、故意に歩行者を跳ねて5名死傷」
徳山「お前みたいなクズは今すぐにでも俺が殺してやりてぇが、そうはいかねぇ」
徳山「お前くらいのガキならすぐにシャバに放り出されるだろう」
ユウジ「・・・クソッタレ!! こんだけやっても、殺してくれねぇのかよ・・・!」
ユウジ「もう・・・終わりにしてくれ こんな人生・・・」
徳山「グズグズ抜かしてんじゃねぇ!!」
ユウジ「!!」
徳山「お前にはこれから必死こいて生きていく義務がある」
徳山「そしていつか、かけがえのない大切なものを手に入れろ」
徳山「そのとき、お前が犯した罪の重さを初めて理解するんだ」
徳山「そのときまで、お前は生きる義務がある・・・!!」
ユウジ「・・・!!」
  俺にあんなに本気で説教したのは徳さんが初めてだったよ

〇刑務所
徳山「よお、どうだ久々のシャバの空気は?」
ユウジ「・・・あんた、アタマおかしいんじゃねぇのか? 俺が何してブチ込まれてたと思ってんだ?」
徳山「ずいぶんご挨拶じゃねぇか あと、徳さんと呼べ。「ホトケの徳さん」だ」
ユウジ「ホトケぇ?」
徳山「今日はな、いくつかお前を世話してくれそうな施設を調べて来たんだよ」
ユウジ「いらねぇよ、そんなの」
徳山「ユー坊、おめぇ俺が言ったことを忘れちゃいねぇよな? お前には生きる義務があるんだ」
徳山「いま一人でシャバに放り出されても野垂れ死ぬだけだぜ」
ユウジ「・・・ちっ!!」
  こんなクズでも見放してくれねぇ・・・
  「ホトケ」と呼ばれてる意味がわかった気がしたよ

〇ボロい校舎
  それから、徳さんに紹介してもらった更生施設でしばらく過ごした
  クソえらそうな施設長をシメてやろうと何度も思ったが、その度に徳さんの顔が浮かんで踏みとどまった

〇工房の倉庫
  しばらくして、俺を拾ってくれる小さな工場が見つかった

〇コンテナヤード

〇倉庫の搬入口
  徳さんが方々に頭下げてやっと見つけてくれたところだったんだな
  それを知ったのは、ずいぶん経ってからだったよ

〇工房の倉庫
  そこではみんな俺の過去に勘づいているみたいだった
  無視は当たり前。ガキみてえにくだらない嫌がらせが毎日だった
  ひとりだけは・・・俺と対等な立場で接してくれた
  俺の過去も関係なく、一人の人間として俺を理解しようとしてくれた
  それが・・・いまの妻だ

〇病室
  結婚して、そのうち娘が生まれた
  小さな手で俺の指を握り返してくる

〇水の中
  嬉しかったが、それよりも多分、悔しかった
  俺が奪った命とは、これなんだと初めて理解した

〇留置所
徳山「そしていつか、かけがえのない大切なものを手に入れろ」
徳山「そのとき、お前が犯した罪の重さを初めて理解するんだ」

〇レトロ喫茶

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コメント

  • 仏から鬼に、びっくり仰天の顛末 ですね !
    切れ味があって素晴らしいです😱
    どんでん返しはやっぱり才能でしょうね、
    簡単にできる芸当じゃないと思いました!!

  • 松田さんこんばんは
    ああー怖い怖い怖いそして安定の構成力
    もはやテレビ・ドラマ化して欲しいです。ぞっとするけど血のシミとか、かけっこが上手とかやはり伏線がばっちりはまっていて尊敬です

    こういうのが書きたいですね

  • まさかのどんでん返し。
    徳さん……あんた悪徳だよ。

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