読切(脚本)
〇大樹の下
歩道橋の上から暫く公園の新緑を眺めていた。
必要以上に大きく響くカラス達の声が、car,carと街に車を呼んでいる。
〇大樹の下
目を覚まし始めた街は、まだ雑音になる前の適度なヴォリュームで、オーケストラのように少しずつチューニングを進行していた。
〇大樹の下
やがて、空腹がジワリとやってきて、酸味か甘味の強い菓子と、それに合うコーヒーがどうしても必要な気がしてきたのだった。
〇開けた交差点
乾いた靴音を立てて階段を降り、坂を早歩きで下って行く。
〇開けた交差点
恒久的になりかけている緊急事態の中で、薄ぼんやりとした不安を思い浮かべながら
〇開けた交差点
”ファイヤー通り”を出来る限りの最短距離で進んでいた。
そして、ようやく目的の菓子とコーヒーへ辿り着いた。
〇街中の道路
15分後、スマートフォンの隅に目をやり、少しうんざりしつつまた歩き始める。
〇街中の道路
時間は誰にでも平等だけど、1秒たりとも待ってくれない。
〇街中の道路
コツ、コツという乾いたリズムを刻みながら、歩兵のように、成るまでは一歩ずつ前にしか進めないのだ。
〇街中の道路
騒々しいビジュアルの看板に目を奪われながら、大きな交差点で信号を待つうちに、雨が降り始めた。
〇街中の道路
お陰で数える程しかいなかった通りの人々も、忽ち雨宿りを始める。
「来た・・・」
〇街中の道路
アプリの天気予報レーダーの予定通りだったし、信号も青が続いていた。
〇街中の道路
この為に着てきたパーカーは、そのタグに記載されていた”撥水機能”の実力を遺憾なく発揮し
〇街中の道路
前評判通りの”コンフォート”さを、クールにそつなくこなしていた。
悪く無い。
〇渋谷のスクランブル交差点
「コロナも雨には敵わない・・・」と、誰にも聞こえぬようぼそりと独りごちた。
〇渋谷のスクランブル交差点
そしてふと、この交差点は「スクランブル」という名前であることを思い出す。
本当に、悪くなかった。
〇渋谷のスクランブル交差点
谷の底に今日の朝日は届かないが、足取りは軽かった。
〇渋谷ヒカリエ
ガラス張りのビルの群れは、灰色と極彩色の街を反射しつつ、自信ありげに聳え立っていた。
〇渋谷ヒカリエ
複雑すぎる陸橋達。この先の少し上の方に職場がある。
〇渋谷ヒカリエ
両親には「自分が本当にやりたい仕事につけるよう」育てられてきた。
〇渋谷ヒカリエ
けれど時代の流れに身をまかせ、好むと好まざるに関わらず
〇渋谷ヒカリエ
毎日コンピューターをタイプしたり、四角い画面をタップしたり、摘んだり広げたりしている。
〇渋谷ヒカリエ
そして、いつからか指先一つで人を責めたり、尊んだり、愛を語らったりもしている。
〇渋谷ヒカリエ
何が正しくて何が悪いかは、現在地からは分からない。
いつかこの地点を振り返ってみても、分かるようになるかも分からない。
〇渋谷ヒカリエ
でもまぁ、一先ず出来る限りの感染防止対策を行なって
〇渋谷ヒカリエ
薄ぼんやりとした不安を抱えながら、歩兵のしぶとさで一歩ずつ進んで行くしかないのだろう。
〇エレベーターの中
エレベーターはスムーズに、その四角さをキープしながら出来る限りの最短距離で、少し上の方へ向かってスピードを上げて行った。
僕らもコロナに負けないよう不屈の精神で乗り越えていきましょう
叙情的な文章ですね。
それはみんな同じで、たぶん自分がやりたい仕事についてる人もそうはいないと思うんですよ。
それでも人は生きていく悲しさを感じました。
やりたい仕事に就いている人は少ないでしょう。日々の生活の為にストレスと闘いながら働いている自分がいます。未来に希望を期待しながら生きていくしかないのでしょう。