仮面の渋谷

すな

仮面の渋谷(脚本)

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〇渋谷のスクランブル交差点
渋谷区長・長井「まだ噂の段階で、本当かどうかわからないんだがね――米国在住のビリオネア、Kのことは知ってるかな?」
水田凜「名前だけなら──」
渋谷区長・長井「Kは渋谷にある多数の事務所や店舗に多額の出資をし、実質的な経営権を握っている」
  表向きはNPO組織を運営し渋谷にうろつくホームレスや家出して上京した少年少女たちを保護して住む場所や仕事を提供している。
渋谷区長・長井「保護生活を終える際に、般若のお面をつけさせて強盗や通り魔などの事件を犯させる」
渋谷区長・長井「犯行現場はいつもKの出資する会社や店舗に近く、犯行後はすぐ犯人を匿う」
  警察もKから多額の献金を受けているため、犯人はみすみす逃されている
水田凜「Kは、どうしてそんなことを?」
渋谷区長・長井「Kは渋谷一帯にサイバーパンクをモチーフにしたテーマパークを建てたがってるらしい」
  治安が悪いという情報が広まれば、いい会社も人材も流出し、地価は下がる。
  このままいけばKはテーマパークを作るためのまとまった土地を建物ごと楽に買い叩くだろう。
渋谷区長・長井「もちろん、Kの思い通りにさせる気はない」
  凛は動画を使って渋谷区の新条例を説明するサイトの制作を依頼された。
  渋谷区から他の地域に出入りする際は身分証および渡航証明の提示が必要となります。犯罪歴があると渋谷区内に出入りできません
  渋谷区内では外出中、体の正面と背中部分に、個人識別番号をつけることが義務化されました
  古着コーデ風VTuberは凜の声で設定した。メタリックな再現映像を組み合わせた動画サイトはSNS上で議論され注目を集めた
  税関並みの取り締まりでほぼ鎖国状態となった渋谷での犯罪件数は、目に見えて減っていった
水田凜「思っていた以上にうまくいきましたね。地価も回復したんじゃないですか」
  その夜、凛と渋谷区長の長井、若手区議会議員数名が道玄坂近くのバーで集まった。
  凛も区長も議員たちもカフェの店員も客も皆、個人識別番号入りの服を着ている。
渋谷区長・長井「まだまだだ。不審者は凛底的に追い出さないと」
  区長は慎重だった。凛がこのとき依頼されたのは、不審者報告のサイト設置だ。
  おかしな人を見かけたら、不審者・報告者の個人識別番号とともにご報告ください。些細なことでもかまいません
  不審な人物を報告するとポイントが貯まり、不審者として報告されるとポイントが減る。
  このシステムに基づき、渋谷区民たちはポイント獲得のため、少しでも疑わしい行動を見ると、個人識別番号を続々通報した。
  ナンパ。
  立小便。
  禁煙地域での喫煙。
  挨拶をしたのにし返さない
  話しかけても目を合わせない
  赤信号を無視した
  ゴミをポイ捨てした――等々。
  マイナスポイントが十で勧告、三十で渋谷区から強制退去という新条例も決まった。
  不審者はいないか、自分自身が不審者と見なされないかと、渋谷区民は常に注意深く行動するようになった。
  やがて必要最低限の外出しかしなくなり、夜の店は閑古鳥が鳴き、渋谷はしんと静まりかえって、寂れていった。
  街路樹が色づき始める頃、多忙だった渋谷区長の長井が突然、脳卒中で倒れた
アヤ「なんで渋谷がこんなお通夜みたいになっちゃってるわけ?」
  長井の入院を機に、アメリカの不動産会社で働く長井の長女アヤが急遽帰国し、顔合わせのパーティーが開かれた。
  凛も招かれたその会場で、渋谷の有力者たちを前に、アヤは忌憚なく意見を述べた。
アヤ「治安の悪化と回復の経緯は聞いたわ。でも外にいた私の方が日本人の性質を客観的に把握できてると思うの」
アヤ「番号とか、身分証チェックとか、バカげてる。それより渋谷区は入場料を取ったら? それだけで犯罪なんて減らせるわよ」
  無料イベントを同じ条件で有料開催するとはるかにトラブルが減った、というような過去の実例を、アヤは次々と挙げていく
  強気なアヤに凜は説得力を感じた。
  翌朝、凛は、アヤに呼び出された。
アヤ「Kの所有するビルをVRで紹介する資料を作れって頼まれてるの。水田さん、協力お願いできる?」
  うなずきつつ、凜は驚いていた。
  アヤの父、渋谷区長の長井には内緒だが、彼女はアメリカでずっとKの世話になっており、非常に親しいという。
  まずは下見だ。ふたりは廃墟になったオフィスビルの扉を開けた。
「うわっ」
  二人で声を上げた。そこにあったのは、大量の般若のお面だ。10ずつ束になったのを数えようとして二人は途方に暮れた。
  ざっと見ても数千、もしかすると、一万以上あるかもしれない。
アヤ「すごい量ねえ」
  大量のマスクを前に、アヤは大笑いした
アヤ「Kはね、般若のお面が大好きなの。筋金入りっぷりがクレイジーでさ、人間みんな般若顔になればいいって言うのよ」
  大量のマスクを撮影したアヤがKに写真データを送ると、すぐ返信が来た。Kからの文面を見てアヤはもう一度笑った。
アヤ「Kは渋谷で働く人、全員にこのお面をさせたいって。ブランド戦略だってさ。渋谷区に特別感が出るし、入場料取れるよって」
  まんまと渋谷はKの思い通りになったようだ。

コメント

  • 常に監視されている社会って落ち着かないですよね。
    人口の流出も仕方ないような気がします。
    まんまとKの思惑通りになってしまいましたね。

  • Kの思惑通りになった渋谷…入場料のある渋谷…現実に起きたら嫌だなぁと思いながら読ませていただきました。それからアニメーションが加えてあり,大変作り込まれていました。何度も読み返したくなる作品でした。

  • 常に監視されて、現代なら微々たる人への対応も対象に…。
    まぁ、昔よりハラスメントに対して厳しい世の中にはなりましたし、それでも自分勝手に生きて人に迷惑を掛けている人は、罰則されてほしいとは…思っちゃいます。

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