読切(脚本)
〇綺麗なリビング
最近のママはうるさい。
ママ「少しは勉強しなさいよ」
ママ「パパみたいになるわよ!」
口を開けばそればかり。
あー・・・うるさいうるさいうるさい。
あかり「はいはい!」
ママの小言を流して、私は2階にかけあがる。
この間。
パパとママは離婚した。
〇女の子の一人部屋
ここはママの実家。
そしてここはママの昔の部屋。
ママはパパと離婚した。
私はママに付いてきた。
てゆか、最近うるさすぎ!!
こんなにうるさく言われるなんて思わなかった!!
・・・別れるなら、なんで私を作ったんだろ。
あーだめだめ。
なんか別のこと考えよ。
・・・なんか面白そうなのないかな。
本棚を探すと、手帳が出てきた。
中を開く。
これ、プリクラ帳だ。
あかり「うわ、ママ、若っ!」
というか・・・
この格好って、あれだよね。あれ・・・
その時。
プリクラ帳が光った。
──え・・・っ!?
〇SHIBUYA109
──気づいたらここにいた。
あかり「渋谷・・・?」
でもいつもの渋谷とはなんか違う。
見回すと、すっごい目立つ集団がいた。
ブーツ。厚底。
髪。ミルクティ色。
肌。日焼け・・・黒い。
あかり「ガングロ・・・」
ママのプリクラ帳を思い出す。
そう、ガングロだ!
よく見ると、電光掲示板には安室ちゃん。
マルキューの存在感がハンパない気がする。
もしかして、これって・・・
そのとき。
──一人の女の子と目があった。
だるだるのルーズソックスに、制服は超ミニスカ。
・・・多分、コギャルだ。
さっきの黒い人たちよりはとっつきやすそうだ。
眉細すぎて怖いけど。
でも、なんか・・・
まじまじと見つめる私に対し、
コギャル「なんかアンタ、あたしに似てね?」
コギャルが話しかけてきた。
目元は白いアイラインでぐるっと囲んでいる。
唇はグロスでキラキラだ。
「なになに〜?どしたの〜?」
周りの子たちが集まってきた。
みんなミニスカ制服に、ルーズソックス。
コギャル「この子〜、うちのすっぴんにマジ似てんの!」
コギャルはバッグから写真を取り出すと、みんなに見せて回った。
そこには見覚えのある顔。
ほかのコギャル「マジ?!かよこにそっくりじゃん!」
さっき見ていたプリクラ帳。
そこに写っていたコギャル。
──バチッと頭のなかで、パズルのピースが当てはまった。
コギャル「やば!ウケる!」
ママだ!
ほかのコギャル「生き別れ?!ヤバ!」
周りの子たちが騒ぐ。
私、タイムスリップしちゃったんだ!!!
そしてママが若い。
むしろコギャル!てゆかコギャル!
あかり「チョベリバ・・・とか言ってそう・・・」
かよこ「はぁ?!!笑笑笑!!」
かよこ「古いんだけど!笑 それ何年前よ!笑」
そっか。古いんだ。
今、何年前なんだろう。
ぼんやりとしていると、ママは地面に置いていたスクールバッグを手に取った。
かよこ「そろそろ帰るわ〜」
ほかのコギャル「え、早っ! なんでさ〜」
かよこ「明日!バレンタインでしょ!」
帰りかけたママは、でも振り返って私に声をかけた。
かよこ「ね、面白そうだからうちに来てよ」
私は思わず、頷いていた。
〇綺麗なリビング
見慣れたママの実家。
でもずっと新しい。
あかり「あの・・・かよこ、さん」
かよこ「カヨリンでいいよ〜」
かよこ「それより!ねぇねぇ、見て見て!」
隠し撮りしたっぽい写真。
金髪の男の子だ。
チャラい。
かよこ「アツシっていうの!」
あかり「アツシ・・・」
──そっか。
かよこ「チョコあげるんだ!」
そのチョコ、パパにあげるんだ。
そっか・・・
かよこ「でも」
ママは下を向く。
かよこ「付き合えるかな。自信ないんだよね」
あかり「諦めないで!!!」
あかり「大丈夫だから!その人にチョコあげようよ!」
ママはびっくりして。
でもその後に笑った。
かよこ「ありがとう!」
きらっきら。
ママは、パパのことが好きなんだね。
ちゃんと、好きだったんだね。
若いママをはじめに見たときは、少し怖かった。
今、こうして恋バナしているママは、とってもかわいい。
──心って、変わるんだね。
年を取ったママはうるさいけれど。
でも今はそれもちょっぴり懐かしい。
あかり「ねぇ、カヨリン。一緒に写真とろ!」
帰りたいな。
かよこ「うん!」
カヨリンのインスタントカメラに向かって、二人でピースをして。
そうして。
──目の前が眩しくなった。
〇女の子の一人部屋
・・・
・・・・・・
「ちょっと、起きなさいよ」
気づいたら目の前にカヨリンがいた。
いつの間にすっぴんになったんだろう。
ママ「風邪引くわよ」
あ、違う!
カヨリンの目尻にシワがある。
私、眠っていたみたい。
手元には、プリクラ帳。
目の前にいるのは、ママ。
あかり「戻ってきたんだ・・・」
ママ「何、寝ぼけてんの?」
プリクラ帳を開いた。
最後のページに、おまけのように挟まっていた写真を手に取る。
写真には、若いママが一人。
そこに私は写っていない。
あかり「この写真・・・」
ママ「ああ! バレンタイン前にチョコ作ってて自撮りしたやつ!」
懐かしい、とママは笑った。
ママ「顔は忘れちゃったけど」
ママ「このときね、勇気を出してって初めて会った子に励まされて。 それでパパに告白したのよ」
私、キューピットになっていたみたい。
・・・ママ。ママ。
ただいま。
あかり「ねぇ、カヨリン!」
ママはびっくりした顔をして。
そして懐かしそうに目を細めた。
ママ「いきなり何よ〜!」
カヨリンが笑った。
コギャルママのおうちより古くなったおうちが、きしっと音を立てる。
あかり「ママ、チョベリバって言ってよ」
ママ「はぁ?!!笑笑笑!! なんで?!」
あかり「別にっ笑! なんでもなーい!」
そう言い残して。
私は階段を降りていった。
不思議なお話で、なんだか心が温まりました。
お母さんも昔は普通の少女で、楽しいこともいっぱい知ってて…なんだか娘さんも親近感がわきますよね。
今では大人然として子供たちに説教しているオトナたちにも、ヤンチャしていた時期があるのだと再確認させられる楽しい作品ですね。迷って突っ走って反発して、そんな経験を経て、みんな大人になるのですね。
もう離婚してしまったけど、その時のドキドキした気持を思い出してまた仲良くしてほしいなと思いました。
あのときに背中を押してくれた少女が娘だったのなら、また再び背中を押すのは主人公なのかしら…