読切(脚本)
〇散らかった部屋
「くそったれ!!」
俺は手に持っていた携帯をベットに叩きつけた。
うつ伏せになった携帯から
ブッ、ブッと通知音がする。
どうせまたあいつが上っ面だけの
ゴメンなさい
を送ってきているんだろう。
俺はギリッと奥歯を噛み締めた。
俺「見たくもねぇ!」
明日は久しぶりにあいつと会える予定だった。
俺はウキウキとしながら
何を着ていこうとか
一緒にどこに行こうかとか
この一週間はそれしか頭になかった。
・・・それが、急に仕事が入ったと
前夜になって連絡が来たのだ。
俺「くそっ・・・」
俺「バカみたいじゃん・・・」
俺は背中を壁に預けると
ズルズルと力なく床に座り込んだ。
〇散らかった部屋
目の前の視界がじんわりと滲んでいく。
いつからだろう・・・
あいつが転勤で大阪に行ってからも
暫くは向こうから定期的に
会いに来てくれていた。
・・・でも、最近は会いに来ることも
めっきり少なくなった。
もう俺を愛していないのではないか。
別の誰かと浮気をしているのではないか。
・・・もう二度と会えないのではないか。
滾々と湧き出る不安や悲しみで
胸がキュッと締め付けられる。
堂々巡りをする負の想いが
頭の中で巡っているうちに
俺は底なし沼に沈むように
意識を手放していた・・・
ピピピピ、ピピピピ......
〇散らかった部屋
翌朝、俺は携帯のアラームで目を覚ました。
重い瞼を擦りながら
軋む体を伸ばして煩いアラームを止めると
辛い現実が
フラッシュバックするように思い出される。
俺「そうだった...... この時間に支度する予定だったんだっけ......」
心にポッカリと空いたような
虚しさを感じながら
俺は、もそもそと出掛ける身支度をした。
待ち合わせ場所に行っても会えるはずがないのに。
でも、あいつのせいで折角の休日を
暗い部屋の中で落ち込んで過ごすのは
もっと嫌だった。
俺「よしっ 行くか!!」
〇電車の座席
ガタン、ガタン......
ガタン、ガタン......
渋谷に向かう電車に揺られながら
俺は窓から見える青い空を眺めた。
俺(そういえばあいつと初めて出会ったのも 定番の待ち合わせ場所も)
俺(・・・今日会う予定だった場所も ハチ公像の前だったっけ・・・)
俺は会いたい人に会えない寂しさを
忠犬ハチ公と重ね合わせた。
俺(ハチ公も大好きなご主人に会えなくて ずっと寂しかったんだろうな・・・)
ただ待ってることしかできないなんて
虚しいだけなのに......
〇渋谷駅前
渋谷駅についた俺は
いつもの人混みに紛れるように
重い足をハチ公像に向ける
俺(来たはいいけどこれからどうしよう・・・)
俺「ゲームセンターにでも行って時間を潰すか......」
〇ハチ公前
ハチ公像の前で途方に暮れていた俺だったが
その後ろから聞き覚えのある声が響いた。
???「あっくん!?」
俺がバッと後ろを振り返ると
そこにはスーツ姿のあいつが立っていた。
あっくん「まーくん...... なんで......」
驚きで口をパクパクしていた俺に
まーくんがはぁと呆れ顔でため息をつく。
まーくん「あの後こっちに出張だから 仕事の後に会えるよって連絡したのに......」
まーくん「あっくん、全スルーしたでしょ!」
あっくん「ご、ごめん......」
しょぼんと俯く俺に
まーくんはやれやれと首を振る。
まーくん「でも良かったー。 もしかしたらと思って仕事前に寄ってみたんだ!」
まーくん「本当にいるとは思わなかったけどね」
キラキラと嬉しそうに輝く笑顔を見ながら
俺は溢れそうになるものを堪えて唇を噛んだ。
まーくん「なになにー? 泣いてんのー?」
おちゃらけた様子で
俺の周りに纏わりつくまーくんに対して
俺は震える唇から絞り出すように言った。
あっくん「おれ・・・ まーくんに会えて・・・うれしい・・・」
ふっ とまーくんが優しい顔になる。
まーくん「僕もだよ・・・」
そう言うと温かい感触と
ふんわりとしたフローラルな香りが
俺を包み込んだ。
あっくん(あぁ、ハチ公 今ならわかるよ)
あっくん(お前がずっとここで待っていた理由が)
俺はまーくんの首元に顔を埋めながら
””ずっとこの瞬間が続けばいいのに””
と心から願った。
会いたい人と会えないと、どうしても不安が募ってきますよね。
でも、会えると全部そういうのがふっとんでしまう…そんな温かく繊細な心理描写が素敵だと思いました。
会えない時間が気持ちをさらに大きくして、会えた時の気持ちが倍になりますよね。恋愛の想いってすごいですよね、楽しいストーリーでした。
我慢して我慢して、我慢が終わった時の開放感と嬉しさといったら格別ですよね。
特に私も同じようなモヤモヤを経験したことが何度もありますし…、考えるだけでストレスでした笑