電車

三首

電車(脚本)

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〇高架下
  静かな夜だ、電車の走る音だけが聞こえる・・・間も無く終電だろう。
  渋谷という都会にも、そんな時間があったんだな・・・
  いや、もしかすると・・・人はいるのかもしれない。
  俺が何も聞こえなくなっただけかもしれない。
  さて、これからどうした物か・・・
  少し前の事だ。俺は毎日の仕事が嫌で嫌で仕方なかった、そして・・・大きなミスを犯した。
  その責任に耐えられなくなり、とうとう仕事を辞めてしまった・・・
  新しい仕事を探すか?いや・・・それに何の意味がある?
  きっと新しい職場でも、同じような事を繰り返すに違いない・・・
  電車の音が聞こえる・・・
  ここに線路があるわけでも無いのに・・・
  まるで俺を迎えに来るみたいだ・・・
  ・・・・・・・・・
  その列車に乗ったら・・・俺は救われるのかなぁ?
  待って。
  ん?
  知らない少女が、俺の手を引っ張ってきた。
  君、こんな時間に一人でどうしたんだ?
  迷子か?
  迷子・・・なのかなぁ?
  なんだそりゃ・・・
  お兄ちゃん、"そっち"に行ったらダメだよ?
  そっち?
  うん、電車に乗ったら・・・帰って来れないの。
  戻り列車は無いの。
  ・・・・・・・・・
  お兄さんな、ちょっと失敗しちゃって・・・
  お仕事無くなっちゃったんだ。
  もういっそ、電車で遠くに行った方が・・・
  幸せかもしれないんだ。
  ・・・私ね、お歌が好きなの。
  でも、聴いてくれる人がいなくて・・・
  お母さんも、諦めて勉強でもしなさいって・・・
  だから、私のお歌を聴いてくれる人を探しに・・・電車に乗って遠くへ行ったの。
  そしたらね、ずっとずっと・・・今も聴こえるの。お母さんや・・・お父さんが・・・うわーんうわーんって、泣いてる。
  それを聴いたらね、帰りたくなったんだ。
  でも・・・一度電車に乗ったら・・・帰れないんだ。
  ・・・・・・・・・なぁ。
  君の歌、俺に聴かせてくれないか?
  どうして?
  ・・・なんとなく。
  ・・・わかった。
  その歌は、小さな子供のお遊戯会で出てくるような・・・
  まぁよくある歌だった。
  でも、疲れ切った俺には・・・とても懐かしく響いた。
  そうだ、俺も昔歌ったなぁ・・・
  そして、お母さんが「頑張ったね」って褒めてくれたのを覚えてる。
  ・・・あぁ、そうだ。
  俺が遠くに行ったら・・・お母さん泣くんだろうな。
  どうだった?
  ・・・とても優しい歌だった。
  ありがとう、お兄さん・・・もう少し頑張ってみるよ。
  ・・・・・・・・・うん。

〇高架下
  目が覚めると、朝日が俺を照らしていた。
  人の賑わい・・・騒がしく・・・いつもの都会だった。
  ・・・・・・・・・
  実家、帰るか。

〇黒背景
  俺が少女と出会ったあの場所・・・
  数日前、歌が大好きな女の子が・・・
  トラックに轢かれて死んだらしい。

コメント

  • 歌の好きな女の子は電車に乗っちゃったんですね…。
    彼女の歌った歌が、なんとなく聞こえてもないのに私には優しく響きました。
    疲れたら立ち止まって休めばいいんですよね。
    素敵なお話でした。

  • 歌が好きな少女は死んでしまった。その少女は、死ぬかもしれない若者に、明日に向かって生きろと言いにきたんでしょうか?失敗は誰にもあります。頑張りましょう。

  • 「あの世」と「この世」の境目だったのですね。女の子が助けてくれて良かった…。ストーリーが起承転結,しっかりと構成されていて読みやすかったです!

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