「あなたをイメージして作りました」って、告白だよね!?(脚本)
〇名門の学校
わたしとさっちゃんは、芸術系の短大に通っていて、同じゼミを専攻していた。
このゼミでは、文化祭前になるとコンテストが行われる。
匿名で服のデザインを出し、全校生徒の投票で上位2人が入賞。
入賞すると、文化祭の大トリのファッションショーで、自分がデザインした服をお披露目できる。
そこには先輩も後輩もない、実力勝負だ。
〇ファンタジーの教室
先生「はい、皆さん集まっていますね」
先生「それではさっそく、コンテストの結果を発表します」
先生「投票の結果、文化祭に出展するのは、谷と尾田に決まった。 おめでとう!」
先生「投票結果は全員分配るので、目を通しておくように。 結果が悪くても落ち込まずに、伸び代があるということで今後の課題を・・・」
あーちゃ(げ、わたし下から3番目じゃん!!)
あーちゃ(こーゆー創造力系って苦手なのよねー。 わたしはフリフリした可愛らしい服が好きなんだもん)
さっちゃんは上から4番目だった。
うちのゼミ生は30人。
4位でも十分すごい。
1度でも入賞する方がレアなのだ。
ほとんどの人は、そんな経験をできずに卒業していく。
さっちゃんは、今年が最後のチャンスだった。
プリントを見つめるさっちゃんは、少しだけ泣きそうな顔をしていた。
〇ファンタジーの教室
尾田先輩「あ、あの、サチさん!!ちょっとお話が」
さっちゃん「どうしたの?尾田くん」
尾田先輩「いや、ここではちょっと・・・・・・」
あーちゃ(お、これはなんだか面白いことになりそうだぞ♪)
わたしは興味本位で、隣の教室の作業スペースに移動した2人の後をつけてしまった。
〇美術室
尾田先輩「あの、実は、文化祭のファッションショーのことなんですが・・・」
さっちゃん「あっ・・・ 入賞、おめでとうございます」
あーちゃ(さっちゃん、今年が最後のチャンスで、絶対に悔しいはずなのに。大人だなぁ)
尾田先輩「ありがとうございます!」
尾田先輩「それで、ファッションショーなのですが、サチさんにモデルをやっていただきたくて!!」
さっちゃん「えっ!?」
あーちゃ(えぇーーーーっ!?)
〇ホールの舞台袖
文化祭のファッションショーは年1回の大きなイベントで、芸能科の人は誰もがその場所に立ちたがる。
この時期になるとミスコンやミスターコンの候補者もあがってくるし、芸能科の人たちからアピールに来ることもある。
出展が決まったら、芸能科の知り合いや有名な人にモデルをオファーする、というのがそれまでの暗黙の了解だった。
〇美術室
さっちゃん「わわ、私が、ですか??」
尾田先輩「はい! ・・・このドレス、サチさんをイメージしてデザインしたんです」
尾田先輩「サチさんの雰囲気とか背丈や骨格に合うようにデザインしたので」
尾田先輩「他の人より、サチさんに着てもらった方が、このドレスの良さが最大限発揮できると思うんです!」
〇学校の廊下
あーちゃ(え・・・「あなたをイメージして作りました」って、もう告白じゃん!!!)
あーちゃ(うわわー!文化祭前にカップル誕生!? さっちゃんどうするのー!?)
〇美術室
さっちゃん「で、でも・・・」
さっちゃん「ファッションショーは芸能科の方々にとっても大きなイベントで、みんな選ばれたいはずですし」
さっちゃん「そこに私が、というのも・・・」
尾田先輩「そこをなんとか!! 僕にとっても最後の文化祭で、こういう形で結果を出せたことがすごく嬉しいんです」
尾田先輩「だから、自分の今までの努力の結晶であるこの作品を、最高の形で残したくて!!」
さっちゃん「は・・・はい・・・・・・わかりました」
こうしてさっちゃんは、文化祭でファッションショーのモデルをやることになった。
〇学校の廊下
あーちゃ(・・・あれ? 自分をイメージしてドレスを作った、ってことには、なんとも思わなかったのかな)
〇名門の学校
文化祭当日。
さっちゃんがモデルとしてファッションショーに出演することもあり、ゼミ生みんなで講堂に駆けつけた。
〇コンサートホールの全景
あーちゃ「・・・きた!さっちゃん!!」
先生「ははっ やっぱり芸能科の子と比べると、ウォーキングがまだまだだねぇ」
あーちゃ「モデルウォークっていうんでしたっけ? さっちゃんも、モデルで出ること決まってから練習してたみたいですけど」
先生「ま、そんな一朝一夕じゃ身に付かんわなぁ」
尾田先輩「ぼ、僕が無理を言ってしまったから・・・」
先生「いや、モデルさんたちの技術を争うものじゃないから、良いんだよ」
あーちゃ「うん・・・さっちゃん、すっごく綺麗!」
これは、間違いなくさっちゃんを思って作られたものだ。
さっちゃんのことを、ずっと見てきた人が作ったものだ。
〇コンサートホールの全景
すべての作品が出揃いました!
それでは、インタビューに移ります
──8番
服飾科・尾田、服飾科・荻野ペア
なんと今回、服飾科の荻野さんがモデルということで、前例のない選出ですが、やってみてどうでしたか?
さっちゃん「は・・・はい! まずはこの機会をいただけたことに感謝しています」
さっちゃん「今回モデルをやることになり、芸能科の方々と一緒に練習をさせていただいて」
さっちゃん「服を綺麗に見せるために、モデルさんたちはこんなにも努力をしているのかと、身をもって知りました」
さっちゃん「私はこれからもデザインの方で頑張りたいと思いますが、今回こちら側の体験をしたことで、今後の創作の幅も広がると思います」
さっちゃん「貴重な経験をさせていただき、本当にありがとうございました!」
ありがとうございました。
それでは尾田さん、この服に込められた思いやストーリーなどをお聞かせいただけますか?
尾田先輩「はい、今回はコンテストに入賞したら、ファッションショーでモデルさんに着ていただけるということで」
尾田先輩「遠目から見ても目を惹くように、ドレスの色やスパンコールの位置を、納得いくまでしっかりと考えました」
尾田先輩「また、背が高い女性が綺麗に見える形を意識して、スリットの入れ方もこだわりました」
本当に、華やかで素敵なデザインですね。
サファイアブルーのドレスに、黄色の薔薇が・・・こちらには、何か意味が?
尾田先輩「あっ、最初は同系色か白黒で考えていたのですが、なんかどれもしっくりこなくて・・・」
尾田先輩「行き詰まってる時に顔を上げたら、サチ・・・荻野さんの隣には、いつも金髪の子がいたんです」
あーちゃ(・・・えっ!?)
尾田先輩「仲良いんだな〜。 ・・・あっ、これだ!!って」
尾田先輩「この作品は、僕一人の力で作り上げたものではありません」
尾田先輩「荻野さんをはじめ、ゼミのみんなや友人や家族がいなければ、ここまで良い作品を作ることはできませんでした」
あーちゃ「うぅ・・・ひっく・・・」
なんて素敵なエピソード・・・ありがとうございました!
会場の皆様、盛大な拍手をお願いします!
〇シックなカフェ
──数年後
あーちゃ「そういえば、尾田先輩とはどうなったの?」
さっちゃん「え? あ、同じゼミだった尾田くん?」
あーちゃ「そうそう。 さっちゃんが文化祭のファッションショーでモデルやることになったじゃん?」
あーちゃ「実は、あの時の会話、わたし聞いちゃってて・・・ごめん」
さっちゃん「そうだったんだ。 いやまさか、ビックリだよねー!急にモデルやってほしいなんてさ!!」
さっちゃん「正直、最初は受けなきゃ良かったって思ったよ。 芸能科の子たちになんて思われるかな〜とか考えたし」
さっちゃん「実際やってみたら、私はあの子たちと違って全然うまくできなくて、恥だわ〜とか思った」
さっちゃん「でもね、確かにあのドレスはすごく良かった。 私が言うのもなんだけど、全く違和感なくてしっくりきた」
さっちゃん「それに、尾田くんがすごく喜んでくれたの。一生の思い出になりましたって、泣きそうな顔してたの」
さっちゃん「それ見たら、自分の恥とかどうでも良くなって、やって良かったなぁって思ったよ♪」
あーちゃ「いい話〜! ・・・・・・って、そうじゃなくて!!」
あーちゃ「あのドレスって、さっちゃんをイメージして作ったんでしょ? それって告白じゃない!?」
さっちゃん「・・・えぇ〜〜〜!?」
さっちゃん「いや、それはないと思うよ。 だってゼミでもそんなに話したことなかったし」
さっちゃん「あの後告白とかもされてないよ。 卒業したら全然連絡も取ってないし」
あーちゃ「そうなんだぁ〜。 でも、なんとも思ってない人をイメージしてデザインなんてするかなぁ?」
さっちゃん「う〜ん、まぁ、芸術系って色んな人がいるから」
さっちゃん「あのコンテストの作品だって、服のデザインを0から考えられる人もいれば、自分が着たいものって人もいるだろうし」
さっちゃん「誰か、その辺の目に留まった人のイメージで作る人もいるかもしれない」
さっちゃん「尾田くんも、そんな感じだったんじゃないのかな〜」
あーちゃ(・・・たぶん、尾田先輩の片思いだったんだろうなぁ)
芸術系の短大の話って珍しいし、面白い世界ですね!!
芸能界よりもっと面白い気がします。
観察者と当事者では、見えているものが違うって面白い視点だと思いました🤔
そして彼が金髪から黄色の薔薇を想像したという部分で、あーちゃもグッときますよね。
面白い世界を覗かせていただいて読み応えがありました😃
鈍いのか…本当にその気はなかったのか…。
恐らく気がなかったらその人に似合うドレスなんて作らないし、だとすると気があったのか…。色々考えて読むことができて楽しかったです!
さっちゃんがにぶい、にぶすぎる(笑)先輩、切なかっただろうなぁ。これってまわりから見たら一目瞭然なのに、本人だけがきづかないってパターンよね。ふたりにはうまくいってほしいなぁっておもって読み進めたけど、どんでん返しはなかった。うん、でもこれはこれで青春の想い出って感じで良き♪