小さな同窓会(脚本)
〇大衆居酒屋(物無し)
「『かんぱーい!!』」
居酒屋に大きな声がひびく。
学生時代のシュン「明日はどうする?カラオケ行く?」
学生時代のユウタ「おいおい、明日はサークルあるぜ!」
学生時代のシュン「おっ、そうだったな!」
カラオケ、ゲーセン、飲み会・・・
あの頃の俺は、この街に入り浸っていた。
〇ネオン街
学生時代のユウタ「よーし、シメにラーメン屋いくか!!」
──若者の街、渋谷──
八年前。
学生だった俺の、まぶしい思い出だ。
〇雑居ビル
ユウタ「なつかしいな・・・」
何度も通った、居酒屋のビルを見あげる。
俺はユウタ、普段は地方のメーカーに勤めている。
〇渋谷駅前
スクランブル交差点を歩く。
土曜の夕方はものすごい人出だ。
ユウタ「おっとっと・・・」
数年ぶりに歩くせいで、うまく人混みをかわせない。
通行人「おいっ!」
ユウタ「すいません・・・」
人にぶつかってしまい、
明らかに年下の相手に謝る。
ユウタ「(かなり田舎者感でてるだろうな・・・)」
思わず苦笑いした。
〇SHIBUYA109
卒業後、地方で就職した俺。
仕事に追われ、東京に残った仲間たちとも、だんだん連絡が途絶えていった。
しかし今夜、仲良しだったクラスのメンバーで同窓会がある。
俺はそのために、久しぶりにこの街に戻ってきた。
〇店の入口
同窓会の前に、なつかしい通りを歩く。
ユウタ「(確かあの角に、ラーメン屋があったはず・・・)」
ユウタ「ん?・・・マリトッツォ・・・?」
行きつけだったラーメン屋は、いつのまにか小綺麗なスイーツショップになっていた。
〇東急ハンズ渋谷店
そのとき電話が鳴った。
ユウタ「おっ、シュンか」
シュンは今日の幹事で、学生時代の親友だ。
シュン「ユウタ悪い、サユリなんだけど、子供に熱が出ちゃったってさ・・・」
ユウタ「それは大変だな・・・」
シュン「それから、俺も急な仕事が入って・・・」
ユウタ「そっか、残念だな・・・」
わざわざ新幹線もホテルも取ってきたが・・・まあ仕方ない。
同窓会は中止になった。
〇空
ユウタ「(みんな、大人になったんだな・・・)」
仕事に家庭、皆それぞれ、自分の道を歩き始めているんだ。
〇渋谷スクランブルスクエア
予定が流れ、駅へと戻る。
これもよく歩いた道だ。
ユウタ「ん?」
学生時代、ずっと「工事中」だった場所・・・
ユウタ「すげえ・・・」
見あげて思わず声が出る。
そこには、空まで届くような立派な高層ビルが立っていた。
移りゆく街・・・この八年間、この街はどれほどの変化を遂げたのだろうか?
自分のちっぽけさに、ふと寂しさを覚えた。
〇渋谷のスクランブル交差点
空はすっかり暗くなってきた。
高層ビルの光が街を照らし出す。
大通り沿いの店に、
おしゃれなキャンドルが飾られていた。
ユウタ「ミナミ・・・」
キャンドルを見て、学生時代の思い出が蘇った。
〇渋谷のスクランブル交差点
学生時代のミナミ「・・・」
学生時代のユウタ「・・・」
同級生のミナミは俺の憧れだった。
俺は思い切って彼女を誘い、渋谷で一度デートした。
〇ホテルのレストラン
だが、俺は空回りした。
気合を入れすぎ、高層ホテルのレストランを予約してしまったのだ。
キャンドルが優しくテーブルを照らす、上品な空間。
学生感丸出しの俺達は明らかに浮いており、気まずかった。
学生時代のミナミ「・・・」
学生時代のユウタ「・・・ははっ、なんかごめん。雰囲気あってないな・・・」
学生時代のミナミ「ううん、大丈夫・・・」
はにかむ笑顔。
勝負をかけたデートは失敗に終わり、恥ずかしさだけが残った。
それからもずっと、彼女のことが気になっていたが、遂に勇気が出なかった。
〇渋谷のスクランブル交差点
ユウタ「確かミナミも、同窓会に来る予定だったけど・・・」
思わず足が向く。
〇ハチ公前
中止になった同窓会の、集合場所についた。
ユウタ「あ・・・れ?」
そこには、ミナミが立っていた。
ボブの茶髪が似合う、綺麗な大人の女性になっていた。
ミナミ「ここにいたら、会えるかもって・・・ 誰かさんに」
はにかむ笑顔は、あの時以上に輝いていた。
〇渋谷のスクランブル交差点
憧れの彼女・・・
もうあの頃の迷いはない。
新しい景色、新しい街・・・
移り変わる街のスピードが、俺の背中まで押してくれる気がする。
ユウタ「ミナミ・・・ 良かったら、あそこに行かない? 二人で行った、あのレストランに」
ミナミ「ふふふ」
ミナミ「ユウタも思い出したんだね・・・そう、私も、ユウタとのデートを思い出してここに来たの」
〇セルリアンタワー東急ホテル
ミナミと俺は、笑顔で歩き出す。
──大人の街、渋谷──
俺も少しだけ、大人になれた気がした。
学生時代の思い出って格別ですよね。
たいしてお金もないけど、時間と余裕はあって、そのかわり悩む時間もたっぷりあって…みたいな。
大人になった彼女と再会して、またあの頃のように恋をするのかな?と思いました。
とっても清々しい気持ちになれる物語ですね。人も年を経るとともに変化し、また都市もしかり。その中で変わらない想いが描かれていて、心を打たれました。
同窓会のキャンセルがまさか運命を変えることになるとは…。人生は長いですから,よりよく生きたいものです。感慨深い作品で面白かったです。