3年目の渋谷で。

のんのん

エピソード1(脚本)

3年目の渋谷で。

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〇渋谷駅前
美月 乃亜「ねえ、わたしたち、友達になろうよ!」
  休日、渋谷を歩いていたら、見知らぬ女の子から声をかけられた。
  なんで僕に?
  分からない。意味が分からない!
  
  僕と友達になりたいなんて・・・
  いやいや、おかしいだろ!

〇渋谷の雑踏
麻倉 舞人「あの・・・冗談ですよね?」
美月 乃亜「冗談・・・って思います?」
麻倉 舞人「違うの?」
美月 乃亜「めちゃめちゃ本気ですよ!  わたし、友達になりたいんです。あなたと!」
  そんなこと言われたのは、生まれて初めてのことだった。
  
  しかもこんな可愛い子に。
美月 乃亜「わたしたち、絶対、仲良くなれると思います」
  とびきりの笑顔で、彼女は自信満々にそう言った。
  
  仲良くなれるかはまだ、分からないけど。
  友達になるのは、悪くないかな。

〇高架下
麻倉 舞人「僕で・・・よければ」
  こうして、僕と乃亜は友達になった。

〇男の子の一人部屋
  久しぶりに、あの子の夢を見た。
  
  3年前に、渋谷のビルでエレベーターに閉じ込められた時、居合わせた女の子。

〇エレベーターの中
エレベーターの少女「舞人くんがいてくれてよかった!! また、会えたら良いね!!」
  おそらく小学生だろう。年上の僕を気遣うように、たくさん話しかけてくれた。
  
  名前も知らないけれど。
  良い子だったな。

〇男の子の一人部屋
  あの子は、元気にしているかな。

〇SHIBUYA109
  舞人くん、お待たせ!!
麻倉 舞人「いや、僕も今来たところだから」
  乃亜と渋谷で会うことになった。
  
  本当は、緊張して30分も前についてしまった事はナイショにしよう。

〇テーブル席
美月 乃亜「ここのパンケーキ、すごく美味しいんだよ。舞人くんも食べてみて」
  乃亜がオススメのカフェに来た。
麻倉 舞人「い、いや。僕はいいよ」
  甘いものは苦手なんだよな。
美月 乃亜「もしかして・・・甘いものが苦手とか?」
  バレバレか。。
美月 乃亜「ふふっ。ここのパンケーキは、甘さ控えめでとっても食べやすいから、一口だけでも食べて欲しいな」
  乃亜の笑顔に負けて、パンケーキを恐る恐る食べてみると、本当に軽い甘さで、ふわふわしていて、美味しかった。
麻倉 舞人「本当だ!美味しい!!」
美月 乃亜「良かった!!舞人くん、食わず嫌いなんてもったいないよ。これからたくさん、わたしと好きなものを増やしていこうよ」
麻倉 舞人「うん。そうだね」
  好きなものを増やしていこう、か。
  
  乃亜の言葉に、素直に頷く僕がいた。

〇地下街
美月 乃亜「きゃあっ!このワンちゃん、可愛い!」
  僕と乃亜は、ショッピングを楽しみながら、渋谷の街を、ぶらぶらと歩いた。
  こんな風に渋谷を楽しんだのは初めてかもしれない。
美月 乃亜「舞人くん、渋谷って、楽しい街だね」
麻倉 舞人「・・・」
  正直、自分の生まれ育ったこの渋谷という街を、僕はあまり好きではなかった。
  華やかで賑やかなこの街は、地味な僕には似合わないと思っていたから。

〇渋谷駅前
  でも・・・今はこの街を楽しんでいる。
  乃亜のおかげだな。

〇東急ハンズ渋谷店
美月 乃亜「はぁ~なんだか夢みたい。 こうして、舞人くんと一緒に渋谷を歩けるなんて」
麻倉 舞人「いやいや、僕はそんなたいした男じゃないから!」
美月 乃亜「そんなこと言わないで!!舞人くんはわたしの初恋の人なんだから!!」
美月 乃亜「はっ!どうしよう。告白しちゃった! しかもこんな街の真ん中で!」
美月 乃亜「は、恥ずかしすぎる。」

〇センター街
麻倉 舞人「もしかしてなんだけど・・・僕たち・・・どこかで出会ってる?」
美月 乃亜「うん・・・出会ってるよ。 舞人くんは覚えてないよね?」
  出会ってた!?いつ?どこで?
  
  だめだ。さっぱり分からない!!
麻倉 舞人「え、えっと・・・」
美月 乃亜「3年も前の事だし、仕方ないけど。 やっぱり少し、悲しいかな」
  今にも泣き出しそうな乃亜を見ていたら、胸がズキンと痛んだ。
麻倉 舞人「いや、だって、こんなに可愛い子の知り合いなんて!!いな・・・いない・・・から」
  って、本人を目の前に何を言ってるんだ。
美月 乃亜「ふふっ。ありがとう。 2回目だね。可愛いって言ってくれたの」

〇渋谷駅前
美月 乃亜「次に会うまでに、思い出してね」

〇男の子の一人部屋
  乃亜は3年前と言っていた・・・
  
  3年前に出会ってたということか。
  ハッ!!とした。
  
  3年前、エレベーターに閉じ込められた時に・・・

〇エレベーターの中
  閉じ込められてしばらく経ったとき、あの女の子が言ったんだ。
エレベーターの少女「今日、美容室に行ったんだけど、髪の毛短く切られすぎちゃって、ちょっとショックなんだ」
舞人 中学生「そうかな?よく似合ってると思うけど。可愛いよ」
エレベーターの少女「本当に?ありがとう!!嬉しいな!!」

〇男の子の一人部屋
麻倉 舞人「言ってるよ・・・可愛いって言ってるよ!!」
  頑張って話しかけてくれたのが嬉しくて、つい、言ってしまった。
  という事は、あの時の女の子が、乃亜だ!!

〇渋谷駅前
美月 乃亜「やっと、思い出してくれたんだね」
麻倉 舞人「すぐに気づけなくて、本当にごめん!!」
  小学生と思っていたとはさすがに言えなかった。
  まさか、同じ年だったなんて。
  
  僕は本当に、鈍感だな。
美月 乃亜「あの時、渋谷を好きじゃないって、言ってたのがすごく気になってたの。 生まれ育った街を好きじゃないなんて悲しいもん」
美月 乃亜「わたしと一緒に、この街を好きになっていこうよ、舞人くん」
麻倉 舞人「うん。ありがとう!!乃亜」
  乃亜が側にいてくれたら、僕もこの街を好きになれる。一緒にいるだけで、この街がキラキラ輝きだすんだ。

〇渋谷の雑踏
美月 乃亜「お礼を言うのはわたしの方だよ。 あの時、舞人くんのくれた可愛いが、わたしに勇気をくれたの」
美月 乃亜「僕からわたしに変わる勇気を」
麻倉 舞人「・・・」

〇渋谷の雑踏
美月 乃亜「あっ!舞人くん、信号変わっちゃう! 急ごう!」
  意外と骨張った乃亜の腕が僕の腕に絡む。
  
  僕たちは笑いながら走り出した。

コメント

  • 些細なこと、人間忘れてしまうことは多いですよね。
    それに言われて嬉しかったこととか、その時は覚えていても忘れてしまうことも多い…。けどこうして繋がりを覚えているって凄くいいなぁと感じます!

  • 主人公の女の子がとても可愛らしかったです。可愛いの一言がずっと胸に残っていたんですね。楽しいストーリーで最後まで楽しく読ませて頂きました。

  • のあちゃんにとって『可愛い』は運命を変える一言だったんですね。そんなこのに気づかず、彼から彼女になったのあちゃんの存在に惹かれていく様子がとても初々しかったです。

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