No Border

たきち

読切(脚本)

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〇渋谷駅前
茜「なーんか毎週来てる気がするなぁ・・・ でも他に行きたいところもないし・・・」
ゆかり「・・・茜?」
茜「え、ゆかり?」
  渋谷駅前で待ち合わせ中の茜に、同級生のゆかりが声を掛けてきた。
ゆかり「久しぶり。元気?」
茜「あ、うん。何してるのこんなところで」
ゆかり「こんなところって。茜ともよく来てたでしょ、渋谷には」
茜「あ、うん、そうだね。ごめん」
ゆかり「私は買い物。茜は?」
茜「あー、私も買い物、とか」
ゆかり「待ち合わせ?」
茜「えーっと、うん、そんな感じ」
ゆかり「あそお・・・」

  ゆかりはどこか嘲笑うかのように、
  茜をジロジロと見て言った。

〇渋谷駅前
ゆかり「変わってないね」
茜「私? そお?」
ゆかり「買い物って、まだマルキューとか行ってるの?」
茜「うん、そうだけど」
ゆかり「ウチらもう24だよ?」
茜「・・・だから?」
ゆかり「いつまでそっち側にいるつもり?」
茜「そっち側?」
ゆかり「私はとっくにマルキューとかマルイは卒業した。今はあっち側」

〇渋谷ヒカリエ
  ゆかりはそう言って渋谷ストリームやヒカリエの方を指差した。

〇渋谷駅前
ゆかり「ウチの会社センスのいい先輩や同僚多くてさ」
ゆかり「あ、言ったっけ? 私いま外資系のコンサルで働いてるの」
茜「へー、そうなんだ」
  「ただの受付のバイトでしょ?」
  
  そう口から出かけたのを茜はグッと堪えた。
ゆかり「待ってるのって彼氏?」
茜「え、なに急に」
ゆかり「私さ、今タケルと付き合ってるの」
茜「あ・・・へー、そうなんだ。 アイツ元気にしてる?」
ゆかり「バリバリ仕事やってるよ。忙しすぎてあまり構ってくれないけど」
ゆかり「今日も上司とゴルフの練習だってさ」
茜「へー・・・そうなんだ・・・」
ゆかり「たぶんこのまま結婚するんじゃないかな、私たち」
茜「へー・・・それは良かったね・・・」
ゆかり「あ、ゴメンね、元カレの話なんて聞きたくないよね」
茜「ううん、全然、気にしてないから」
ゆかり「茜も早くこっち側に来れるように頑張ってね」
茜「てかさ、あっち側とかこっち側とかなんなのさっきから」
ゆかり「じゃあね」
  そう言ってゆかりはヒカリエの方へ消えて行った。
茜「意味わかんない。なんなのアイツ・・・・・・」

  しばらくして茜の元に一人の男がやってきた。
  タケルである。

〇渋谷駅前
タケル「お待たせ。先にメシ行かない? その後買い物行ってカラオケ行こうよ」
茜「うん、いいよ。行こ」

〇渋谷駅前
  二人は渋谷センター街の方へと向かった。
タケル「相変わらず人が多いな渋谷は たまには人が少ない所行きたくない?」
茜「私もそう思ったりするけど、だからといって行きたいところもないし」
タケル「ホント茜は渋谷が好きだよな」
茜「タケルも私のことバカにしてる?」
タケル「してないよ。そんなわけないだろ」
茜「ねぇ」
タケル「ん?」
茜「ゴルフの練習行かなくていいの?」
タケル「へ? お前、何でそのこと・・・」
茜「・・・・・・」
タケル「まさかゆかりと会ったとか?」
茜「相変わらずムカつく女だった 高校の頃とまったく変わってない」
タケル「ハハハ いやぁ、まぁあれで結構かわいい所もあるんだけどさ」
茜「ゆかりと私、どっちが好き?」
タケル「は? それ聞く?」
茜「どっち?」
タケル「それは・・・・・・」

  タケルは困り果て、しばらく沈黙が続いた。
  
  ・・・・・・・・・。

〇センター街

  どっちも好きでいいのに。

  ・・・えっ?

〇センター街
茜「私はそれでいいのに」
タケル「・・・でもやっぱりさ、こういうのってハッキリしとかなきゃって、オレも前から思ってて」
タケル「だから、なんて言うか、あっちにもこっちにもいい顔するのは良くないというか・・・」

  茜は突然立ち止まった。

〇センター街
茜「今日はもう遊ぶのやめよ」
タケル「え、なんでだよ」
茜「タケルといると、あのムカつく女の顔がチラつくの」

  そう言って茜はタケルの元を立ち去った。

〇渋谷の雑踏
茜「どっちも好きでいいじゃん それの何が悪いの?」
茜「私だってヒカリエにも行くし渋谷ストリームにも行く」
茜「あっち側とかこっち側とか関係ない」

  茜はそこで、
  自分がなぜ渋谷を好きなのか、
  少しわかった気がした。

〇渋谷駅前
  茜は交差点の真ん中で立ち止まると、ぐるりと360度渋谷の街を見渡した。

〇渋谷の雑踏
  学生
  サラリーマン
  観光客
  外国人

〇SHIBUYA109
  ファッション施設
  オフィスビル
  映画館
  劇場、それに神社だってある

〇渋谷駅前
茜「私は、この混沌とした街が好きなんだ」

コメント

  • なんだかすごく彼女に共感できました。
    あっち側とか線引きしたがる人もいますが、好きは好きでいいと思うんですよね。
    自分に正直に生きてる彼女が好きです。

  • 激しく頷きながら読んでおりました🤦‍♀️
    「どっち派」とか「あっち側」とか決めずに、「ただ好きだから」というシンプルな理由で充分だし、案外そういうのが1番大切だったりしますよね☺️

  • 私も断然茜派です。年齢がとか、流行りだからとか、そんな枠にはまりたくないですね。ゆかりのようなタイプには決してわからない茜の達観した考え、今の社会を生きるうえでとても大切なことのように思います。

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