第5話 「掴み取れ運命」(脚本)
〇公園のベンチ
早乙女さんの言葉に思わず聞き返した。
八王子拓馬「えっと、冗談?」
彼女は無言で首を振る。
八王子拓馬「え、何で⁈」
早乙女夢姫「私、本来は中高一貫の女子高に 入る予定でした」
八王子拓馬「瑞希に聞いた。大変だったって」
早乙女夢姫「はい。白馬高校はお父様に無理を言って 受験致しました。条件付きで・・・」
八王子拓馬「条件?」
早乙女夢姫「入学試験を含めた全ての試験で 1位を獲る事。 できなければ元の女子高に戻ると・・・」
八王子拓馬「そんな無茶な」
早乙女夢姫「それでも、私は拓馬さんに お会いしたかったのです」
早乙女夢姫「演劇部を辞められたと伺い、 何かあったのではと・・・」
まさか俺を心配してくれていたとは
思わなかった。
八王子拓馬「あっ!? 今日、中間の初日 休んじゃったって事は・・・!?」
早乙女夢姫「はい。明日から頑張っても 1位は獲れないと思います・・・」
八王子拓馬「俺のせいだ・・・」
早乙女夢姫「いえ、私が休んでしまったのが いけないんです」
彼女が苦笑いで否定する。
八王子拓馬「次からって訳にはいかないの⁈」
彼女はまた首を振る。
早乙女夢姫「私自身、それ相応の覚悟をもって父に 話しました。ですから約束は守ります」
俺が彼女を傷つけなければ
こんな事には・・・。
早乙女夢姫「だからと言って残りの試験で 手を抜く気はありません!」
早乙女夢姫「期末も含めて全力を 尽くしたいと思います!」
八王子拓馬「早乙女さんは強いな・・・」
彼女に聞こえたか分からない。
自分でも信じられないほど
声が出なかった。
早乙女夢姫「ですから拓馬さん、 お気になさらないで下さい! 落ち着いたら瑞希ちゃんも一緒に──」
八王子拓馬「ごめん・・・ごめん!!」
早乙女夢姫「拓馬さん!?」
〇土手
俺はその場から走り去った。
自分が許せなくて、
彼女の顔を見ていられなくて。
八王子拓馬「俺はバカだ・・・!!」
彼女を転校に追いやった事だけじゃない。
俺が好きだと言えばもしかしたら
引き留められるのではないか?
一瞬でもそう思ってしまった事が
一番許せなかった。
それは彼女に対して、
あまりにも虫が良く、失礼で、卑怯だ。
〇教室
翌日。
正直今までで一番
学校に行きたくないと思った。
だがまたしても瑞希に
無理やり登校させられた。
早乙女夢姫「お、おはようございます・・・」
八王子拓馬「お、はよう・・・」
さすがに隣の席は気まずく、お互い
体の向きが自然と外を向いてしまう。
俺はいたたまれず、
黒板が見えないとテキトーな理由をつけて
席を替えてもらった――。
〇学校の廊下
中間試験の結果が廊下に張り出された。
そこに早乙女さんの名前は無かった。
八王子拓馬「・・・・・・」
きっと早乙女さんは、
俺と関らない方が幸せになれる。
きっと――。
〇教室
席が離れた事もあり、早乙女さんと
接する機会はどんどん無くなっていった。
たまに目が合ったりもしたが、
気まずくてすぐ逸らした。
〇黒背景
そうしてろくに話せないまま数週間。
彼女は期末を終えると
結果を待たずに転校して行った。
その後は気づくと彼女の居ない席を見つめてしまう。そんな日がしばらく続いた。
〇学校の廊下
放課後。
丁度教師が期末試験の結果を
張り出していた。
一番上には早乙女さんの名前がある。
早乙女さんは最後まで、
手を抜くことはしなかった。
俺はあらためて彼女の優秀さ、
そして自分とは住む世界が
違う人であることを思い知った。
八王子拓馬「やっぱり良かったんだ・・・。 これで・・・」
〇通学路
ある日、ふとT字路で立ち止まった。
八王子拓馬「ここで初めて会ったんだよな。 初めてじゃなかったんだけど」
俺は学校に向かいながら
彼女の事を思い出す。
美人で、頭が良くて、
でもどこか抜けてて、顔を真っ赤に
する事もあって、笑顔が愛しくて――。
八王子拓馬「やっぱ俺、 早乙女さんの事好きだったんだ・・・」
唇を噛み締めると少ししょっぱかった。
〇学生の一人部屋
八王子拓馬「はああ・・・」
八王子瑞希「うわ・・・、溜息とかやめてよ。 陰鬱がうつる」
八王子拓馬「だからノックしろって!」
無言でドアを鳴らす。
これで良いんでしょ?
と言わんばかりのジト目にイラっとする。
八王子瑞希「アンタさあ、そんなんじゃ 夢姫ちゃんに愛想尽かされちゃうよ?」
八王子拓馬「もう今更関係ないだろ。それに、 やっぱ釣り合わないって、俺じゃあ」
八王子瑞希「そりゃそうだ」
八王子拓馬「お前さあ、喧嘩売ってる?」
八王子瑞希「あん? やんの?」
八王子拓馬「すいません、なんでもないです」
八王子瑞希「てかアンタは夢姫ちゃんの事 どう思ってんの?」
八王子拓馬「・・・好き、だけど」
八王子瑞希「・・・・・・、 何か身内のこういうのってキモイね」
八王子拓馬「お前が聞いたんだろ!」
八王子瑞希「はいはい。そんで? 本人に伝えたの?」
八王子拓馬「いや・・・」
八王子瑞希「そこでしょ。大事なのは。 アンタは思ってるだけで何もしてない。 ペラッペラの紙切れよ」
悔しいがその通り過ぎて
ぐうの音も出ない。
八王子瑞希「夢姫ちゃんなんてアンタと絡むのに どんだけ頑張ったか」
八王子拓馬「え、何を?」
八王子瑞希「最初のぶつかりそうになったやつは 私がアンタを尾行して タイミング教えてたしぃ」
八王子拓馬「え」
八王子瑞希「ゴンザレスの時もウチが場所教えたしぃ」
八王子拓馬「ゴンザレス?」
八王子瑞希「白くてデカくて人懐っこい犬」
八王子拓馬「あ・・・」
八王子瑞希「席替えも友達に頼んで 細工してもらったしぃ」
八王子拓馬「ウソ⁈」
八王子瑞希「あとあの子、アンタの顔が見えると 緊張ですぐ爆発しそうだったから、 毎回メガネ外させてた」
八王子拓馬「あれお前のせいか! おかしいと思った!」
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僕も楽しませていただきました。なかなかの出来栄えでした。