31音の君を探して(脚本)
〇男の子の一人部屋
文通──それは顔も名前も知らない相手と文章のみで会話をすること
これはボクが“シブヤ”を見つける話である・・・
〇男の子の一人部屋
ボク「お、“シブヤ”から届いてるな」
インターネットの掲示板で知り合ったため
文通相手の顔も名前も知らないが、ボクは彼女を“シブヤ”と呼んでいる
彼女の文面の節々から都会的な雰囲気を感じるからだ
ボク「なになに・・・どういうことだ?」
届いた手紙には、ただ31音しか書いてなかったのだ
ボク「「満月が 一番近く 見える場所 渋谷で待ってる こいぬの下で」・・・」
ボク「どういうことだ?」
ボク「渋谷で待ってるってことは会いたいってことか・・・?」
「明日は全国的に晴れ、首都圏でも綺麗な満月が、場所によっては星も見えるでしょう」
リビングから天気予報士の声が聞こえる
ボク「行くしかないよな」
予定というのはいつだって突然決まるものである
〇渋谷駅前
翌日──渋谷駅前
ボク「ここが渋谷か〜!」
ボク「いつ来ても人が多すぎて驚くな」
休日の渋谷は大勢の家族やカップルで賑わっている
ボク「さて、シブヤはどこにいるんだ・・・」
ボク「「満月が 一番近く 見える場所 渋谷で待ってる こいぬの下で」だもんな」
ボク「満月が一番近く見える場所・・・」
ボク「やっぱり高い所が一番近いよな」
ボクは渋谷スカイへと向かうことにした
〇SHIBUYA SKY
正午──渋谷スカイ
ボク「ここが渋谷スカイか!」
あまりに高い場所で足がすくむ
ボク「さて・・・とても綺麗な景色だけど女の子はどこにもいないな・・・」
圧巻の景色だが、人を待つ女性の姿は見えない
ボク「ここじゃないのか・・・」
「満月が 一番近く 見える場所 渋谷で待ってる こいぬの下で」だったもんな
ボク「ハチ公だ!!」
ボク「渋谷の街で子犬と言えばハチ公しかいないからな!」
ボクは足早に渋谷スカイを立ち去り、ハチ公へと向かった
〇ハチ公前
夕方──ハチ公前
ボク「ハチ公前に来てみたけど、人が多すぎて分からないな」
彼女は渋谷で待っていると言っていたが
どんな服装をしているのか、外見の特徴もわからず
この人数の多さから彼女を見つけるのは、至難の業である
ボク「ハチ公でもないのかな・・・」
「満月が 一番近く 見える場所 渋谷で待ってる こいぬの下で」・・・
満月が一番近くに見える場所・・・
満月も子犬も見える場所か・・・
ボク「そんな場所ある訳ないけどなぁ」
何も思い浮かばないボクは空を見上げる
〇ハチ公前
ボク「もう夜か・・・」
成果は何もないまま、すっかり夜になってしまった
ボク「お、夏の大三角だ!」
ボク「東京の空にも星座はあるんだな」
ボク「流石に白鳥座とかは見えないけど、やっぱり綺麗なもんだな」
ハチ公から見る星座をぼんやりと眺めながら
ボクは彼女が送った短歌を思い出す
「満月が 一番近く 見える場所 渋谷で待ってる こいぬの下で」
ボク「なんでハチ公をこいぬって書いたんだろうな・・・」
ボク「わざわざ平仮名で・・・」
満月とこいぬが一番近くに見える場所・・・
ボク「こいぬ座だ!」
ボク「でもこいぬ座は冬の星座だからな・・・」
今日は8月3日、渋谷でこいぬ座を見ることは出来ない
満月とこいぬ座を同時に見ることが出来る場所は・・・
ボク「プラネタリウムだ!!」
〇綺麗な図書館
夜──渋谷区文化総合センター大和田
ボク「渋谷でプラネタリウムといえばここだけど・・・」
あたりを見渡しても誰も見当たらない
ボク「遅すぎたか・・・」
シブヤ「遅すぎ・・・」
ボク「シブヤ・・・!?」
シブヤ「シブヤって私のこと?」
彼女はケラケラと笑う
それはボクが想像していたよりも少し高い声で
あまりにも美しかった
ボク「あのさ・・・」
ボク「どうして今日ボクが来ると思ったの?」
シブヤ「なんとなくだよ」
シブヤ「これで会えたら嬉しいなって思って」
シブヤはそう言って、またケラケラと笑う
ボク「名前を聞いてもいいかな」
シブヤ「まだ満月もこいぬも見てないじゃない」
シブヤ「お互いを知るには、それからでもいいんじゃない?」
ボクたちの出逢いは
一つの短歌から始まった
突拍子もない出逢いだった
──Fin
甘ぁぁぁぁい。上品めな甘さ、和菓子な感じ、舞台のクセが強いっ。 「渋谷学 奥の深さが くせになり」
感謝でございます。
表紙から「ハチ公前なのかなぁ?ハチ公って子犬だっけ?」と思っていたのですが、プラネタリウムでハッとしました🤭
結局女の子の本名が分からないまま終わるのがまた良いなぁと思いました😌✨
短歌を題材にしたロマンティックな作品に癒されました。
渋谷で待ち合わせ、こいぬと来たら絶対、と思ったら!見事にだまされてしまいました。